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灯台の下は見えない  作者: 霜月 毬花
4/10

日常の記憶

ぼやける視界に映ったのは知らない天井。ゆっくり上体を起こす。あぁ。トーイの部屋だ。昨日の記憶が甦る。

「おはよう」

部屋のドアをノックして顔を見せたのは、マグカップを持ったトーイ。空いている右手で寝癖頭をガリガリと掻く。

私はまだ霞んだ景色を映す目を擦りながら「おはよう」と返事をする。差し出されたマグカップを手に取る。珈琲独特の香りが私の鼻腔をくすぐる。

「朝直ぐに珈琲を飲むの知ってたんだ」

ミルクとシロップの多い珈琲。珈琲の苦手な私の大人に近付く努力。インスタント珈琲ティースプーン1杯にミルク4杯。シロップ大粒1滴。これが私の黄金比だ。トーイが入れてくれた珈琲はその黄金比が守られていた。

「いつからの付き合いだと思ってるんだ。そのくらい知ってるよ」

トーイは 困り眉で笑いながら、寝室の壁に背中をあずけた。「早くベッドから出て朝飯食うぞ」と子供のように無邪気に笑って見せた。

飲み干して空になったコーヒーカップを片手にリビングへ。机にはサラダとフルーツ。チンっ、とトースターの音がした。食パンの上には半熟目玉焼き。「いただきます」と手を合わせたら、直ぐにフォークで黄身を刺してぐちゃぐちゃにする。

「はい、ソース」

タイミングを見計らったようにトーイが私の前にソースを差し出した。

「何でも分かってるんだね」

クスリ、と笑ってぐちゃぐちゃになった目玉焼きの上にソースをかける。

「伊達じゃないからな」

トーイは綺麗に食パンを6等分に切った後、醤油をかける。

「トーイは醤油派か」

不意に口から漏れた。

「そうだよ」

「何で醤油なの?」

「……小さい頃から醤油だったから?」

「ソースで食べたことないの?」

「あるよ。李夢が食えって食べた」

「え、そんなことあったっけ?」

「あったよ。2ヶ月くらい前?」

「嘘」

「本当」

全く覚えていない。

「本当に私、覚えてないんだ」

齧った食パンが上手く飲み込めなかった。

トーイは無言のまま私の頭を優しくくしゃくしゃと掻き回し、皿を片付け始めた。

何となく分かってきた。私は最近のことを忘れているんだ。


To be continued...


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