記憶探しの始まり
退院後、私はトーイと住むことになった。同じ大学でもあったし、何より、親がそうお願いした。トーイは大学最寄りのアパート住まいで部屋も結構広かった。
「食器、結構多いんだね。一人分だけじゃないんだ」
几帳面に木製の棚に整頓された食器を眺めながら、呟いた。
「まぁね、一人で食べるのは寂しいし。李夢もよくここで飯食ってたんだよ」
「そうなの?」
「こう、どんちゃんみんなで。覚えてない?」
「ごめん」
二人して顔を曇らせた。なんだか、トーイに申し訳なくなってきた。自分の脚が霞んで見える。
「気にするな。李夢は一部の記憶が喪失しているんだから」
トーイが大きな手で私の頭をくしゃくしゃする。
―ちょっと待って。
「一部の記憶が喪失してる?」
トーイの話によると、私は大学の研究室で倒れ、運悪く頭部を打ち、その結果、どうやら私は一部の記憶が喪失しているらしい。トーイの部屋でどんちゃんみんなでしたことを覚えていないのも、それが原因らしい。
でも、私は自分のことも家族のことも大学の授業のことも昔の思い出も友達のことも覚えている。だったら。
「私は何を忘れているの?」
何を忘れているのか分からない自分が怖い。
トーイは、また私の頭をくしゃくしゃする。
「さぁ。俺も分からないんだ。でも、医者も重度の記憶喪失じゃないって言っていたし、大丈夫。直ぐに思い出せるよ」
頭に乗せていたままのトーイの手は私の後頭部にまわり、私を胸に引き寄せた。トーイは両手で私を強く抱き締める。
「これから、一緒に思い出していこう。それが例え、どんなことであっても」
耳許で囁くトーイの声に私は安心し、トーイの胸に頭をあずけたまま頷いた。
To be continue...