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灯台の下は見えない  作者: 霜月 毬花
10/10

目覚め

「やっと、やっと見れた。将吾」

花火が鳴り響く中、私は彼の名前を呼んだ。ずっと言いたかった、彼の名前を。将吾の頬に触れる。

「やっと思い出してくれた」

将吾が私の頬に優しく触れる。涙で彼の目はキラキラと光を放つ。

「ごめんね。ごめんね、将吾」

強く抱き締める。顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら。

ゆっくりと将吾から離れると将吾は“消えかけて”いた。ドラマとかで見るような、四肢が小さな綺麗な光の粒となって、天へ昇っていくように、将吾はだんだんと消えていく。

そう、そうだ。そうなんだ。私は全て、思い出した。

「貴方はもう、いないのね」

これは夢なんだ。夢が覚めれば、将吾はいなくなる。目が覚めれば、目の前にいつもいたはずの将吾はいないのだ。

「寂しかったら、呼んで。目を閉じればまた会える」

彼の手が私の頭へと伸びる。が、私の頭を撫でる将吾の手はもうない。

「これからは、しっかり、前を向いて歩け」

ぐちゃぐちゃな顔で私は頷く。

「それから」と彼は言葉を続ける。

「灯生を、弟をよろしく」

「うぁ……」

声も耐えられなくなって、子供のようにわんわん、泣き出す。

「あいつのことだから、同い年のくせに兄貴ぶってんじゃねぇ、とか言うんだろうな」

乾いた笑い声で無邪気な笑い顔を見せる。

「李夢はあいつの顔を見たら辛いか?」

俺を思い出して。

首を直ぐに左右へ振ることはできなかった。きっと最初は辛いだろうから。でも、きっと傷が癒え始めた時、彼が支えになってくれるんだろうと思う。私はゆっくりと頷いた。

「じゃあ、またな」

急いで顔を上げると、もうそこには将吾の姿はなかった。


どぉおおん、と腹に響く音で目が覚めた。上体をゆっくり起こすと、夜空に花が咲いていた。幾つも幾つも。

「李夢?」

真貴乃が心配そうに私の顔を見る。凄く綺麗だ。こんなに花火って綺麗だったっけ。

「綺麗だね」

そう呟いた。呟かずにはいられなかった。一瞬、目を閉じる。目を閉じれば、将吾の顔が浮かぶ。「そうだね」と真貴乃が返事をする。再び、目を開けると涙が静かに頬を伝った。

「李夢……」

真貴乃の声は震えていた。

「綺麗だね……将吾」

きっと、彼も何処かで同じ景色を見ているんだとそう感じた。真貴乃が私を強く抱き締める。浩志とトーイは目頭を押さえ、肩を震わせていた。

「皆、おまたせ」


翌日、トーイと将吾の墓参りに行った。2人で並んで手を合わせる。

「ねぇ、トーイ」

「何?」

目を開けて、トーイの方を見る。

「大変な思いさせたね。ごめん」

「別にいいよ。気にしてない」

照れ隠しに人差し指でこめかみをポリポリと搔く。

「ありがとう……」

将吾は製作途中で脳出血で倒れた。期待されていた作品は完成させることはできず、その作品は双子の弟であるトーイが将吾の意思とともに引き継いだ。「作品が完成したんだ」と、墓参りが終わると、大学の彫刻室に足を運んだ。

足を止めると、布が被せられた大きな彫刻が目に飛び込んだ。ちょうど私と同じくらいの背丈である。

トーイが布を引っ張る。目の前に現れたのは。

「嗚呼……」

“私”だった。笑っている私。型にはまったような笑顔じゃなくて、私そのものの笑い方。

「将吾、これ見せて、李夢を驚かすって張り切ってた。絶対似てるって言わせるんだ、って」

ポロポロと次から次へと涙が溢れ出す。一体、彼は何回私を泣かせれば気が済むのか。

「似てる?」

将吾より少し高めの声で私に訊く。

「うん、悔しいけど似てる」

涙を拭う。きっと、将吾はガッツポーズをしている。

もう直ぐ、恒例の彫刻学科と視覚デザイン学科の合同企画が始まる。私にとって大事な企画。メンバーはいつもの“新”メンバー。真貴乃と浩志と灯生。大きく深呼吸する。

きっと、満足できるものが作れる。このメンバーだったら、そんな気がした。


Fin

閲覧ありがとうございました。『灯台の下は見えない』なんとか完結させることができました。

次回作、どうするか考え中ではございますが、更新した時に、また覗きに来てくれると嬉しいです。

また、ここで会えることを楽しみにしています。

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