目覚め
「やっと、やっと見れた。将吾」
花火が鳴り響く中、私は彼の名前を呼んだ。ずっと言いたかった、彼の名前を。将吾の頬に触れる。
「やっと思い出してくれた」
将吾が私の頬に優しく触れる。涙で彼の目はキラキラと光を放つ。
「ごめんね。ごめんね、将吾」
強く抱き締める。顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら。
ゆっくりと将吾から離れると将吾は“消えかけて”いた。ドラマとかで見るような、四肢が小さな綺麗な光の粒となって、天へ昇っていくように、将吾はだんだんと消えていく。
そう、そうだ。そうなんだ。私は全て、思い出した。
「貴方はもう、いないのね」
これは夢なんだ。夢が覚めれば、将吾はいなくなる。目が覚めれば、目の前にいつもいたはずの将吾はいないのだ。
「寂しかったら、呼んで。目を閉じればまた会える」
彼の手が私の頭へと伸びる。が、私の頭を撫でる将吾の手はもうない。
「これからは、しっかり、前を向いて歩け」
ぐちゃぐちゃな顔で私は頷く。
「それから」と彼は言葉を続ける。
「灯生を、弟をよろしく」
「うぁ……」
声も耐えられなくなって、子供のようにわんわん、泣き出す。
「あいつのことだから、同い年のくせに兄貴ぶってんじゃねぇ、とか言うんだろうな」
乾いた笑い声で無邪気な笑い顔を見せる。
「李夢はあいつの顔を見たら辛いか?」
俺を思い出して。
首を直ぐに左右へ振ることはできなかった。きっと最初は辛いだろうから。でも、きっと傷が癒え始めた時、彼が支えになってくれるんだろうと思う。私はゆっくりと頷いた。
「じゃあ、またな」
急いで顔を上げると、もうそこには将吾の姿はなかった。
どぉおおん、と腹に響く音で目が覚めた。上体をゆっくり起こすと、夜空に花が咲いていた。幾つも幾つも。
「李夢?」
真貴乃が心配そうに私の顔を見る。凄く綺麗だ。こんなに花火って綺麗だったっけ。
「綺麗だね」
そう呟いた。呟かずにはいられなかった。一瞬、目を閉じる。目を閉じれば、将吾の顔が浮かぶ。「そうだね」と真貴乃が返事をする。再び、目を開けると涙が静かに頬を伝った。
「李夢……」
真貴乃の声は震えていた。
「綺麗だね……将吾」
きっと、彼も何処かで同じ景色を見ているんだとそう感じた。真貴乃が私を強く抱き締める。浩志とトーイは目頭を押さえ、肩を震わせていた。
「皆、おまたせ」
翌日、トーイと将吾の墓参りに行った。2人で並んで手を合わせる。
「ねぇ、トーイ」
「何?」
目を開けて、トーイの方を見る。
「大変な思いさせたね。ごめん」
「別にいいよ。気にしてない」
照れ隠しに人差し指でこめかみをポリポリと搔く。
「ありがとう……」
将吾は製作途中で脳出血で倒れた。期待されていた作品は完成させることはできず、その作品は双子の弟であるトーイが将吾の意思とともに引き継いだ。「作品が完成したんだ」と、墓参りが終わると、大学の彫刻室に足を運んだ。
足を止めると、布が被せられた大きな彫刻が目に飛び込んだ。ちょうど私と同じくらいの背丈である。
トーイが布を引っ張る。目の前に現れたのは。
「嗚呼……」
“私”だった。笑っている私。型にはまったような笑顔じゃなくて、私そのものの笑い方。
「将吾、これ見せて、李夢を驚かすって張り切ってた。絶対似てるって言わせるんだ、って」
ポロポロと次から次へと涙が溢れ出す。一体、彼は何回私を泣かせれば気が済むのか。
「似てる?」
将吾より少し高めの声で私に訊く。
「うん、悔しいけど似てる」
涙を拭う。きっと、将吾はガッツポーズをしている。
もう直ぐ、恒例の彫刻学科と視覚デザイン学科の合同企画が始まる。私にとって大事な企画。メンバーはいつもの“新”メンバー。真貴乃と浩志と灯生。大きく深呼吸する。
きっと、満足できるものが作れる。このメンバーだったら、そんな気がした。
Fin
閲覧ありがとうございました。『灯台の下は見えない』なんとか完結させることができました。
次回作、どうするか考え中ではございますが、更新した時に、また覗きに来てくれると嬉しいです。
また、ここで会えることを楽しみにしています。




