後編
「メリークリスマス、ユータ君♪」
「メリークリスマス、ユータ君♪」
「メリークリスマス、ユータ君♪」
先程まで、可愛らしい笑顔を見せる美人サンタのお姉さんとずっと欲しかったプレゼントに大はしゃぎしていたユータ君は、自分の目に映った光景がしばらく信じられず、唖然としていました。当然でしょう、自分の隣に現れたあのお姉さんと全く同じ姿形――長い髪に綺麗な顔、そしてサンタクロースである事を示す赤と白の衣装を着たお姉さんが、突然2人も現れたのですから。
一体どうなっているのか、と再び尋ねられる前に、新たに現れたお姉さんたちは背中に抱えた大きな袋から何かを取り出し、ユータ君の前に見せました。それを見た彼はさらに驚きました。その包装といい大きさといい、先程美人サンタのお姉さんから貰ったプレゼントと全く同じものだったからです。
「うふふ、ユータ君開けてみて♪」
「プレゼントだよ♪」
恐る恐る包装を破り、中にあった箱を開けてみたユータ君の嫌な予感は見事に的中してしまいました。先程貰ったあの新作ゲーム機と人気のゲームソフトが、新たに2組も彼の元に届いてしまったからです。確かに今までずっと欲しかったのは間違いないですが、全く同じゲーム機やソフトをたくさん持っているのは気が引けてしまいます。プレゼントは確かに欲しかったけど3セットもいらない、と断ろうとした時でした。
「うわあああ!!」
ユータ君が物凄い悲鳴を上げてしまったのも無理はありません。あの美人サンタのお姉さんと全く同じ姿形、同じ声、そして同じ袋を抱えたお姉さんが、3人、4人、5人と次々に現れ、彼の部屋を埋め尽くしていたのです。そして彼女たちは、一斉に袋の中から全く同じ包装をされた箱を取り出し、彼に届けようと動き始めました。
「メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」…
「……ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」
叫び声を聞いた大量のお姉さんたちの動きが止まった隙に、ユータ君は早口で尋ねました。一体何故こんなにたくさん美人サンタのお姉さんが押し寄せるのか、どうして皆全く同じプレゼントを持ってきたのか、と。
ところが、返ってきたのはお姉さんたちの不思議そうな表情でした。もしかして聞いてはいけない事だったのか、と心配する彼に、最初に現れた美人サンタのお姉さんが、この不可思議な状況を説明し始めました。
「あれー、やっぱりユータ君忘れちゃったの?注文の事」
「ちゃ、ちゃんと覚えてるよ……あの人気のゲーム機と、最近のゲームソフトを……」
「違う違う、その後の項目だよ。ねー」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」うんうん♪」…
お姉さんの言葉へ同調するように、周りのお姉さんたちも次々にユータ君に状況を説明していきました。自分たちがこの場所にやって来たのは、彼が覚えている通りプレゼントが欲しい、と言う注文を受けたから。でも、あれだけたくさんのプレゼントを1人で届けるのは大変だから、プレゼントの数だけ増えて、ユータ君の元へ運ぶ事にしたのだ、と。
その言葉を聞いたユータ君は――。
「……う、うわああああ!!」
――またもや大きな悲鳴を上げてしまいました。遊び半分でとんでもない数のプレゼントを注文してしまったという事実を、思い出してしまったからです!
ごめんなさい、本当に注文できるなんて知らずにイタズラでやったことです、どうか許してください、とユータ君は慌てて謝ろうとしました。ですが、そのような余裕が無いほど事態は深刻さを増していきました。彼が気づいたときには、既に部屋の中は一面、あの美人サンタのお姉さんでぎっしり埋め尽くされてしまったのです。
「メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」…
「ひ、ひいいいい!!」
次々に笑顔で全く同じプレゼントを突きつけてくる何十人ものお姉さんに耐えられなくなったユータ君はとうとう耐えられなくなり、涙を流しながらベッドから飛び起き、急いで部屋を脱出しました。いくら美人のお姉さんでも、いくら欲しいものをくれるサンタクロースでも、あんなにたくさんいれば喜び以上に恐怖を感じてしまうからです。ですが、廊下に出た彼を待っていたのは――。
「「「「「「「「「「「「メリークリスマス♪」」」」」」」」」」」」
――廊下の左右にずらりと並んで笑顔を見せてくる、全く同じ姿形をした美人サンタのお姉さんたちでした。ユータ君が注文してしまったクリスマスプレゼントの数は、2桁や3桁で済むものでは無かったのです。
恐怖で大泣きしながら、彼は急いでお父さんやお母さんが眠る寝室のドアを開けました。この事態を解決してくれそうなのは、もうこの2人しかいないと考えたからでした。しかし、残された最後の希望は、あっという間に打ち砕かれてしまいました。
「あ、ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」…
部屋の中にいたのは、ぐっすりと眠るお父さんやお母さんではなく、足の踏み場も無いほど大量に増えてユータ君を待ち構えていた何十何百ものお姉さんたちだったのです。しかもただ佇んでいるだけではなく、ユータ君の目の前で次々に新しい美人サンタのお姉さんが現れているではありませんか。
「うわああああ!!」
そして気づいたときには、リビングも台所も、洗面所も風呂場も、家の中のあらゆる空間が美人サンタのお姉さんによって埋め尽くされていました。全員とも顔に全く同じ笑みを浮かべ、全く同じ袋から、全く同じ包装に包まれたプレゼントを次々にユータ君に渡そうとしているのです。背後を埋め尽くす無数の声の方を見る余裕は、もう彼には残されていませんでした。寒空の中、パジャマだけで外に逃げ出し、近くの家に助けを求めるしか、助かる道は無かったのです。
「誰か助けてえええええ!!」
そして、月明かりに照らされているはずの夜の道へ飛び出したユータ君の目に飛び込んだのは、今まで一度も見た事が無い、信じられない光景でした。
ユータ君の家の周りにあるはずの家や並木、電柱、果ては山などは一切無く、家の周りを一面埋め尽くしていたのは――。
「メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」メリークリスマス♪」ユータ君♪」…
――後から後から次々に増えながらユータ君の家を取り囲む、何千何万何億、いえそれを遥かに超えるであろう数の、全く同じ姿形をした美人サンタのお姉さんたちだったのです。しかもそれは地上ばかりではありませんでした。月明かりが照らすはずの夜空を見上げたユータ君の目に飛び込んできたのもまた、空を自由に飛び交いながら遥か上空まで覆いつくす、美人サンタのお姉さんの大群でした。
もうユータ君には、逃げ場は一切なかったのです。
「う、うわあああああん!!!ごめんなさああああい!!」
そしてとうとう彼は、大粒の涙を流しながら無数のお姉さんに謝りました。あの時注文した数はイタズラで記入したもので、まさか本当にプレゼントをその数だけ持ってくるとは思わなかった、もう二度としないから許して欲しい、と。ですが、しばらく静まり返った後、サンタのお姉さんたちは笑顔のまま一斉に告げました。例えイタズラで記入したものだとしても、既にプレゼントはその数だけちゃんと用意しており、これからどんどん届けられる事になっていると。
「だから、ユータ君もちゃんとプレゼントを受け取らなきゃ駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」駄目だよ♪」…
その言葉は、ユータ君にとっては取り返しの付かない最後通告でした。
何故あのような馬鹿げた悪戯をしてしまったのだろうか、何故今までずっとお父さんやお母さんに嘘をついたりずる賢い考えを浮かべたりしてばかりだったのだろうか――様々な後悔を抱きながら叫んだユータ君の悲鳴は、一斉に押し寄せてきたお姉さんによってかき消されてしまいました。そして彼は、無限に増え続けるプレゼントと、それらを全て届け終えるまで永遠に現れ続けるだろう美人サンタの大群の中に埋もれていきました。
クリスマスを祝う、『100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000個』の嬉しそうな声を聞きながら……。
「メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」メリークリスマス♪」…
<おわり>




