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前編

 昔々、あるところにユータ君という少年が、お父さんやお母さんと一緒に暮らしていました。


「ふわぁ……」


 勉強机の前で、冬休みの宿題を目の前にして大あくびをしている通り、ユータ君は勉強が苦手な面倒臭がり屋でした。お母さんたちに言われてしぶしぶ宿題をこなしていましたが、あっという間に飽きてしまい、漫画を読んだり机の前で伏したりしながら時間を潰していたのです。勿論、ノートや問題集は真っ白のままでした。

 しかし、単に冬休みの宿題が大嫌いなだけではなく、ユータ君にはもう1つ、これらを嫌がる理由がありました。今日は12月24日、サンタクロースがプレゼントをたくさん抱えてやってくると言う、世界中の子供たちが待ちに待っていたクリスマスイブだからです。そんなめでたい日に、いちいち宿題なんてやってられないし、そもそも今こなさなくても明日以降にやればよい、と彼は考えていました。


 そして程よく時間が過ぎた後、全く手をつけていない宿題を放置したままユータ君は自分の部屋を後にして、お父さんやお母さんがくつろぐリビングへと向かいました。


「ユータ、宿題はどうなったの?」

「大丈夫だよ、俺ちゃんとやったからさ」


 勿論これは嘘ですが、彼は絶対にばれないと確信していました。いちいち部屋の中を覗きに来る訳がないし、デタラメを言ってもお父さんやお母さんは信じるだろう、と予想していたからです。

 そう、ユータ君は面倒臭がりなだけではなく、せこくてずる賢い考えを巡らせるのが得意なのです。今回も彼はうまく嘘をつけたようで、完全に信じてしまったお父さんやお母さんは満足そうな笑みを見せていました。


「ユータ、今日は早く寝なさい」

「そうだぞ、サンタクロースが来るかもしれないからな」

「はーい」


 だったら早く寝ないといけないな、とお父さんやお母さんの言葉を繰り返し、納得した素振りを見せながらおやすみの挨拶をしたユータ君でしたが、ここでも彼は嘘をついていました。

 自分の部屋に戻り、ベッドの上で横になった彼は、不機嫌そうな顔をしながら呟きました。お父さんもお母さんも、いつまであのような子供騙しをしているのだろうか、と。いつも楽しそうにクリスマスまでの準備をこなしている両親に文句を言うのは流石に気が引ける思いもありましたが、自分の元にやってくる『サンタクロース』は、玩具屋で買った玩具を届けるお父さんである事にユータ君はとっくに気づいていたのです。


「サンタなんて、いるわけねーよな……」


 それでも一応ユータ君は、両親に言われたとおりにクリスマスのプレゼントとして、人気の携帯ゲーム機と最近発売されたゲームソフトをセットでお願いするべくサンタクロース宛の手紙を書いておきました。しかし、その願いは今年も叶わないだろう、と彼はとっくに諦めていました。毎年彼の元を訪れる『サンタクロース』のプレゼントは、どこか違っていたり願ったものより安い玩具だったりする事ばかりだったからです。今回お願いしたどちらの機種も、玩具屋でいつも品切れだったため、ユータ君は半ば諦め半分でした。


「どうせ今年も変なプレゼントなんだろうな……ちえっ」


 そう文句を言いながら、ユータ君はいつものようにベッドの傍にあるスマートフォンを取り出し、自分が所属しているSNSのサイトにアクセスしました。夜寝る前には止めた方がよいとこれまで何度も注意されていましたが、今の時間に自分の部屋を訪れる事が無いことを承知していたユータ君は、またもやずる賢い考えを巡らせて堂々とスマートフォンを操作していたのです。

 そして、SNSの記事を寝ぼけ眼でのんびり見ていたとき、気になる記事が目に留まりました。


「さ、『サンタへの注文届け』……?」


 ユータ君がそのページにアクセスすると、現れたのはサンタクロースへの注文届けという内容のタイトルと短い説明文、そして注文欄と決定ボタンでした。どう見ても怪しさ満点のページでしたが、寝る前の暇つぶしも兼ねて、ユータ君は物は試しとこのサイトでサンタとやらに注文をしようと考えました。


「ま、どうせ嘘だろうけどなー」


 ませた思いを小声で吐きつつ、彼はスマートフォンを操作しながら、注文欄に欲しいプレゼント――人気の携帯ゲーム機と最近発売されたゲームソフトの名前を記入しました。そして、その下にある個数の欄を見て、彼はあるイタズラをしてみようと思いつきました。どうせこのサイトはクリスマスの余興で作ったインチキサイトだし、これくらいやっても別に平気だろう、と考えながら――。


「よーし、いっぱい0を押しまくって、と……ぐふふふ……」


 ――1の後ろに「0」を思う存分記入し、現実ではあり得ない数のプレゼントを注文したのです。

 先程の不機嫌な気分を思いっきり晴らせたユータ君は決定ボタンを押し、無数のプレゼントに四苦八苦するサンタクロースの様子を想像しながら笑顔で眠りに就きました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……タ君?ユータ君?」

「……ん、ん……」


 ベッドの中でぐっすりと眠っていたユータ君は、耳慣れない不思議な声によって目を覚ましました。女の人のような声ですが、お母さんや先生、同級生とは明らかに違います。一体誰なのだろうか、とぼんやりしながらベッドの周りを見回そうとした彼は、右側を見てびっくり仰天してしまいました。


「え、え、え……!?」

「うふふ、メリークリスマス♪」


 そこにいたのは、ユータ君が知らない1人のお姉さんでした。長く伸ばした髪に美しく優しい笑顔、テレビや雑誌で活躍するアイドル顔負けの外見を持つ彼女の衣装は、赤や白が混じった、まるでサンタクロースのような――いえ、サンタクロースそのものでした。


「お、お姉さん……」


 突然現れたお姉さんの正体を問い詰めようとしたユータ君でしたが、明るそうな声でお姉さんははっきりと言いました。自分は、ユータ君にプレゼントを届けに来た『サンタクロース』本人だ、と。

 ところが、それを聞いた途端ユータ君はすぐに目を瞑り、もう一度眠ろうとしてしまいました。サンタクロースなんている訳がないし、第一ひげをもじゃもじゃ生やしたおっさんのはずのサンタクロースがこんな美人のお姉さんだなんて滅茶苦茶だと考えてしまったのです。しかし、そんな彼を見たサンタクロースを名乗るお姉さんは、これを見れば自分が本物である事が分かるだろう、と告げました。そして、おもむろに白い袋から取り出したのは――。


「……え、ゆ、夢じゃない……ですよね……」

「大丈夫。これは本物だよ♪」


 ――ユータ君がずっと欲しがっていた、あの人気の携帯ゲーム機と最近発売されたゲームソフトだったのです。箱の重みも、取り出して触れてみたボタンも、指でつまんでみたソフトも、どの感触も完全に本物と全く変わらないものでした。

 そして彼は、目の前にいる美人のお姉さんは、本物のサンタクロースであると完全に信じてしまいました。


「で、でも……どうしていきなり……」


 どうして何の前触れも無く自分の部屋の中に入ってきたのか、と興奮や恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら尋ねられた問いに、サンタクロースのお姉さんは笑顔のまま応えました。眠る前にユータ君がネットで『注文』したプレゼントを、こうやって届けにやってきたからだ、と。


「注文……あ。あぁ、そういえば!!」

「忘れちゃ駄目だよ、せっかく持ってきたんだから♪」


 ごめんなさい、と言うユータ君は、待ちに待ったプレゼントと同時にベッドの横にいる美人サンタの存在に嬉しくなってしまいました。見ず知らずの存在が何の前触れも無く突然家に侵入したとなれば普通は怖がり悲鳴を上げてしまいますが、やって来たのはとびきり美人のお姉さん。怖がるどころか、逆にこれも立派なプレゼントだ、と彼は思っていたのです。


「お、お姉さん……あ、ありがとうございます!僕、絶対大事にします!」

「ふふふ♪」


 すっかり緊張してしまった彼でしたが、心の中はとても幸せな気持ちでいっぱいでした。願っていたプレゼントが届いたばかりか、美人のサンタに笑顔を見せられれば、当然でしょう。そして、嬉しさで緩んだ表情のまま、ユータ君はお姉さんに見守られながら眠りに就こうとしました。



 ところが、幸せな心地のまま目を瞑ろうとした直前、視界に信じられないものが飛び込んできました。


「メリークリスマス♪」

「メリークリスマス♪」


 彼を見守るサンタクロースのお姉さんの傍に、別の人影が姿を現したのです。それを見た途端、驚きのあまりユータ君の眠気は完全に吹っ飛んでしまいました。長く伸ばした桃色の髪に美しく優しい笑顔、そして赤と白で彩られた衣装――あのサンタクロースと全く同じ姿形をしたお姉さんが、新たに2人も姿を現したからです!

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