【LETTER】
2015年6月2日に、三題噺を元に書いた短編です。
後書きに実際使った3つのキーワードを載せています。
「あたしは子供のいじめが心配だわ。」
子供を幼稚園から迎えに行く途中、偶然居合わせたママ友の長原さんが話題を振った。
「心配ですよねぇ。学年が上がっていくにつれてエスカレートしていきますし。」
出戸さんが言う。私もいろいろ思い出してみると、小学校や中学校で男子からイタズラされたなぁと思った。
「中学生の低学年の頃なんか、虫とか投げられたりしましたね。」
虫はイヤ~、なんて、小さな悲鳴が上がる。
「八尾さんは虫は大丈夫なんですか?」
長原さんが言う。幼稚園に通う一人息子が虫取りが好きすぎて、通学路の帰り道で毎日素手でお持ち帰りするものだから今はスッカリ慣れてしまった。
思い返してみればそれはかわいいイタズラだ。中には心をえぐるようなものだってある。
そんなことを話しながら気付けば幼稚園に着いていた。お迎えの時間までちょっとだけ早かったようだ。
「あたしはあれが許せなかったわ。好きでもないのにラブレター書いて机に忍ばせるやつ。」
「ああ、ありますねそういうイタズラ。いじめられてる男の子が書かされたりして。」
「ああ~懐かしいな。私まだその手紙持ってますよ」
私が言うと長原さんと出戸さんがじっとこっちを見る。
「八尾さん、なんで取ってるんですか…」
長原さんが言いかけて子供達が駆けだしてきた。自分の子供を見つけて駆け寄ると、子供は私を無視して外へ飛び出していった。別に仲が悪いわけではないのだが、息子は虫が好きすぎるのだ。
「コラ!待ちなさい!あ、長原さん、出戸さんすみません!また明日!」
あわてて息子を追いかけて草むらへ飛び込んでいく。
「いやぁ…八尾さんのところは男の子だから大変ですねぇ…」
野生児のような息子を連れて家へ帰る頃には頭に葉っぱが刺さっていたり腕にかすり傷ができていた。落ち着いて麦茶を飲みながら、ふとさっきの話を思い出していた。
「(そんなに時間もかからないよね…ご飯の支度までに探してみよっかな…)」
「ただいまー帰ったよー…うぎゃっ」
夫の声が聞こえたと同じくらいにその手紙は見つかった。見つかったのだが……
「どうしたの?泥棒でも入ったのか?」
台風が通った後のような部屋の散らかり具合に、夫が言った。しまった、ご飯も作ってない……
なんて言い訳しようと思った矢先に、悪知恵が働いてしまった。
「ごめんね、ちょっと捜し物してたんだけど……」
そう言ってチラッと手紙を見せる。
「げっ」
夫はうめき声をあげると白目をむいて固まってしまった。
「今日は出前でいいわよね?」
イタズラっぽい笑顔で言った。
終わり
三題噺のキーワード
【悪ふざけ】【若返り】【紙】