「なんか恥ずかしいよ」
□種倉ありすの日常 B2-1
それは微睡みの夢の中だった。
ぼんやりと浮かぶ景色はどこか異世界の王国のよう。
お城の前の広場では、まるで人間のように二本足で立った動物たちが華やかに踊っている。
わたしが立っているのはお土産用の商品を販売する店内。洒落た感じの造りで幻想的な雰囲気の一部となっていた。
一面に飾られたぬいぐるみやキャラクターグッズをぼんやりと眺めている。エプロンドレスを着た女の子、懐中時計を持ったウサギ、ニヤニヤ笑ったネコ、双子の兄弟、大きな卵のような身体をした得体の知れない物体等々。
ずっと昔、誰かとこのテーマパークへ来た事があった。
「ねぇねぇ、タネちゃん。あれ買わない?」
ふいに聞き覚えのある声がする。わたしと同じ黒髪で三つ編みの女の子。
名前は……思い出せない。とてもとても懐かしい香りがする。
女の子が示す方向にはネズミやネコやウサギやロバの耳が付いたカチューシャがあった。
それぞれがこのテーマパークに存在するキャラクターたちのものだろう。
「なんか恥ずかしいよ」
そう言いながらどんなものかと手にとってみる。
フワフワとした感触が心地よくて毛並みを撫でていると、隙を突くかのようにその子はわたしの頭にカチューシャを被せた。
「かわいいよ」
心の準備もなしにそんなことを言われたものだから、わたしは恥ずかしくて照れてしまう。
「お返し!」
わたしは手に持っていたネコ耳のカチューシャをその子に被せ『お揃いだね』と笑う。
相手の子もにっこりと笑い返してくれた……ような気がした。
これは昔の記憶だ。
あの子の名前なんだっけ? わたしは記憶の引き出しを探る。
自分はあの子になんと声をかけていただろう。そうわたしは考え、ふと思い出す。
『キョウちゃん』