「うそ? 喋るのコレ?」
□叉鏡ありすの非日常 A3-6
「にゃ?」
振り返ったわたしは仰天する。
そこには自分と同じくらいの年頃の女の子が、こちらを不思議そうに眺めていた。
はっと我に返ったわたしは急いでカチューシャを外そうとするが……。
「そのネコ耳……」
視線はすでに頭部に降り注がれている。
「……ねぇラビ。泣いていい?」
右手に握るラビにわたしはそっと告げる。
「コスプレ?」
そう呟いた少女と目が合ってしまう。
「……えーん、悲しすぎて涙が出ないよぉ」
目の前が真っ暗になった。
頭の中は真っ白だった。
一般人に目撃されるのは何度目だろう。
これで近所の人に噂されるのだろう。頭のおかしなネコ耳を付けた女の子がうろついていると。そのうち話は歪められ、小学校では怪談話として盛り上がるのだ『怪奇! 人面ネコ』と。いや、普通にネコ耳付けた人間なんですけど。
「あれ? そのぬいぐるみ」
少女の視線がわたしの右手に持ったラビへと向かう。それは予期せぬ言葉だった。
なぜなら、通常の人間にその姿が見えるはずがない。
「へ? 見えるの?」
右手に注がれていた視線が再びわたしに向く。その子と再び視線が交差した。立ち上がってみると背丈はわたしと同じくらいだろうか、顔立ちは整った美少女。ただ、衣服はかなり人目を惹く格好であった。
「それ、ウサギのぬいぐるみだよね?」
「ウサギではない、我が名は【◎&$=#@】である」
女の子の問いかけにホワイトラビットは怒声で反応する。けど、その存在が見えていることは確かだった。
「うそ? 喋るのコレ?」
わたしは驚いて口をぽかんと開けたまま。
それはそうだ。普通の人には確認できないラビが見えるばかりか、その声まで聞けるのだから。
「そうね。腹話術にせよ。口を開けたままじゃ少し無理があるかもね」
彼女は一人納得しているようだ。
「我が見えるとは素晴らしい。あと三日早く汝と会いたかったものだ」
ラビが喋って驚いたのは初めの一瞬だけであった。あとは怖がることも逃げ出すこともなく、彼女はにっこりと笑みを浮かべながら前に立っている。
「ちょっと待って。あなたは驚かないの? こんなぬいぐるみみたいな物が喋るんだよ」
「うん、不思議だと思うけど、それほど驚く事じゃないと思うよ。だって、すごくファンタスティックじゃない」




