「ねこみみは、じゃすてぃすだお!」
□叉鏡ありすの非日常 A3-3
「ねぇ、ラビ。ほんとにこの格好で出るのぉ?」
自動販売機の陰に隠れているわたしは、胸に抱えたラビに問いかける。
もちろん頭にはネコ耳のカチューシャを装着していた。
「我の居場所が知れわたるのは時間の問題だ。ならば、こちらから討って出るのが得策であろう」
ここは人通りもそれなりにある商店街の一角だ。家の中にいたのでは敵を見つけられないから外に出るようにと、ラビ指示されたのだった。
「そりゃ、敵を殲滅することが目的なら守りに入るのは効率が悪いってのはわかるけど……だいたい、その『邪なるモノ』ってなんなの?」
「昨日説明したはずじゃ! 何度も云わせるな。我の敵であり放置しておけば人間を害する」
半分寝ぼけていたわたしには、肝心の知識は頭に残らなかったようだ。
「でも……そんなに簡単に見つかるかなぁ」
「我の匂いを嗅ぎつけて嫌でも向こうからやってくるわい。あの場所に居た時は結界のおかげで奴らから逃れることができていたがな」
あの場所とは古本屋のことだろう。あそこにいる時は封印でもされていたのだろうか?
「だったらあそこにずっといれば良かったのに……」
「戯け! それでは根本的な解決にはならん」
「わかってるよぉ」
わたしは覚悟を決めて自動販売機の陰から表通りへと出る。
その時、ちょうど前から歩いてきた若い男と目があってしまった。
「にゃっ!」
「フヒヒヒヒ」
相手の表情がニタリと不気味な笑みを浮かべたので、それが怖くて再び引っ込んでしまう。
「どどどどどうしよう。その手の趣味の男の人にビンゴだよぉ」
ラビに顔を寄せて泣きそうな声で呟く。
わたしに声をかけてきたその人は小太りで、そんなに気温も高くないってのに額に汗が噴き出している。
後部のデイパックにはポスターが刺してあり、アニメのキャラクターが描かれた紙袋を下げていた。
「コ、コスプレだよね。今時、そんなベタなオタクさんはいないよね。きっとテレビ局が『捏造隠匿』であり得ない格好をさせてるんだよね?」
「ね、ね、ねこみみは、じゃすてぃすだお!」
男の嬉しそうな顔が近づいてくる。
「さ、さよならー」
全力でその場から駆け出すわたし。その瞳には涙が溢れていた。




