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100話記念 間違いにもほどがあるラブパレード

作者: 長門葵

最悪な結果がここにある。


なぜ、こうなった。


誰もがそう思った。


「こんなはずではなかったのに…」


彼女は白衣に顔を埋めて、ただただ嘆いた。


そんな彼女の後ろの校庭で、ある二人をターゲットとするおいかけっこが開かれていたのだ。



*****



僕の名前は鬼ヶ島渚。


こんなしゃべりだが、一応女だ。


「おはよう。今日は珍しく遅刻じゃないんだな」


で、今、教室前で爽やかな挨拶をしてきたのが、不愉快だが、本当に不愉快だが、僕がす、すす、好きになった男だ。


名前は間宮千尋。


悲しいかな、同じクラスだ。


「…って、間宮。お前、ケンカ売ってんのか?高く買うぞ」


「はは。残念ながらそんな高価なものは扱ってないよ」


……


僕はそこそこケンカっぱやい。


しかも、強い。それこそ、そこらのヤンキーが集団になっても勝てないぐらいには。


周りはこんな僕を腫れ物のように接してくる。


だけど、こいつは毎回、笑顔で接してくる。


「よ!渚ちゃん。朝からそんなにやにやしてると新聞に載っちゃうよ♪」


「……」


「!Σ( ̄□ ̄;)。無言のまま机を拳で叩き割らないで」


こいつは前園敏樹。


クズだ。人間と認めたくないぐらいやなやつだ。


「おはようございます、渚さん」


「…おはよう」


もう一人、とても上品に挨拶をしてくる女子生徒。


間宮絢。


間宮千尋の義理の妹にして、僕の最大のライバルだ。


なんせ

間宮はどうしょうもないシスコンで、この妹たちもどうしようもなく兄が好きだからだ。


妹たちと表現したのは、間宮にはあと4人の義理の妹がいる。


しかも、全員が異性として兄を愛しているらしい。


まったく、なんてやっかいな家族関係だろうか。


「なに難しい顔してんの?せっかくのかわいい顔が台無しだよ」


「なっ!!何を言ってんだ!!」


「ん?本音を言っただけだよ?」


「っ!!」


この唐変木は普通にこんなこっ恥ずかしいことを平気な顔して言ってくる。


なんだか、顔が暑い。


まったく、人の気を知らずに。


「…ま、そんなとこもあわせていいんだけどな」


「ん?なんか言った?」


「なんもいってねえよ」


でも、さすがにこの反応はちょっと、そうちょっとだけムカつく。


そんなモヤモヤを抱えたまま、朝のHRは始まる。


*****


「相変わらずデカイ弁当箱だな」


「まあね」


僕と間宮は今、校舎の屋上でのんびりと過ごしている。


二人っきりならきっといい雰囲気になるんだろうな。


ま、実際は違うけど…


「おにぃ。はやくご飯にしようよ 」


「前園が今、飲みもん買ってきてくれてるからもう少し待とうな」


そういってやつは四女の頭を撫でる。


それに答えるように四女は目を細め、気持ち良さそうな表情をする


……いいな


「なにが?」


「はっ!?」


き、聞かれた!?よりによって頭の回転が半端じゃない葵ちゃんに!?


「な、なな、なんのこと?」


「いやいや。にぃにの方を見ながら思いっきり『いいな」って言ってたじゃないですか


どうやら誤魔化しは聞かないらしい。


「ふふふ」


「な、渚さん。な、なんで拳を握りしめてるんですか」


「ふふふ。人間って何発殴れば記憶が消えるのかな?ねぇ…葵ちゃん」


「ま、待って!!落ち着こう渚さん!!記憶を無くすほど殴られたら死んでしまう!!」


「私は落ち着いているよ。ふふふ」


「よ、よして!?」


ん?


「それはなに?」


「へ?」


葵ちゃんの手には2つの小瓶。


「あ、ああ、えっと、これは昨日開発した惚れ薬です」


ふ~ん。惚れ薬か…


…えっ!Σ( ̄□ ̄;)


「惚れ薬!?」


「ちょっと声が大きい!!」


口を両手で塞がれた。ふむ…少し取り乱してしまったよ。


「でも、惚れ薬って…」


「たまたま、出来ちゃって…あはっ」


……なんかやな予感がするよ。


「ねぇねぇ、渚さ~ん」


ほら、来た


「さっきのこと黙ってあげますから…ねっ☆ミ」


しかも、説明なしの脅迫だよ。


「はぁ~」


僕のため息は屋上の賑やかな声に消えていった。


*****


『こっちを男性にこっちを渚さんが飲んでくださいね♪』


と手渡された2本の小瓶。


こんなもののせいで授業に集中できやしない。


「ねぇねぇ、鬼ヶ島さん。次、体育だよ。着替えなきゃ」


「えっ。ああ、そうだっけ。ありがとう」


声をかけてくれた女の子にお礼をする。感謝の心は大事。


『きゃー♡』


こんな黄色い声を出されても。


すぐに体操着に着替えて、校庭に出る。


今日はなんでも体育の女子生徒担当の教師が婚カツで休みらしく、男子と合同でマラソンらしい。


マラソンってやだよな。何が楽しくてずっと校庭を廻らなきゃ行けないんだよ。


「開始!!」


あだ名がゴリラで有名な体育教師の声で始まるマラソン。


ま、とっとと終わらせよ。


*****


「よっ」


走り終わって、木陰に入ろうとすると既に終わらせていた男が声をかけてきた。


ま、その男は間宮なんだが。


「速いね。さすが」


「っち。嫌みか」


陸上部やら、専門的なやつらには負けたが、それでも男子と遜色ないスピードで走ったつもりだ。というかそこら辺の男子よりは速かったと思う。


だが、こいつは僕よりかなり早い段階で課題をクリアしたらしい。


なんか…ムカつく。


「なんだよ。そんな睨むなよ」


「……うるさい」


くそっ。そんな優しい顔をされると悪態もつけないじゃないか。


「でさ、渚。その手に持ってるのは栄養ドリンク?」


ん?


「あ、ああ。これは、その…」


はっ!?


僕の頭のなかにとてつもないひらめきが!!


「親の知り合いの会社の栄養ドリンクなんだけど、モニター頼まれて。で、物は相談なんだが、向こうの人が多く意見が欲しいってんで今、試してくれる人を探しているんだがどう?」


「え、えぇっと」


早口でまくし立てると間宮は苦笑した。

ま、当たり前といえば当たり前の反応だろう。

しかし、ここで諦めては女が廃るってもんだ。


「やってくれるのか?それとも僕の手助けなんてくそくらいだとでも言いたいのか」


「な、なんだよ。飲まないとは言ってないだろ」


よし!!


*****


「「うぇっ…」」


葵さん特製ドリンクは最悪に不味かった。


「これは味に難あり…だな」


「うぇ~…まだ口の中から味が消えない」


マジでそこらの雑草を口に放り込まれた気分だ。

…しかし、今、問題としているのはそこではない。

その効果だ。


「間宮…どうだ?」


「どうだってなにが?」


「効果だよ。効果 」


「効果と云われても……」


「ドキドキしたり、顔が熱くなったりはしないのか!?」


「ま、まあ、しないかな」


(;・ω・)


「ど、どうしたんですか、鬼ヶ島…さん?」


なんて…こった…


「お~い。無視か?」


こんな恥ずかしい想いをして


「本当に大丈夫か?しっかりしろ~」


ただ不味いドリンク飲まされただけじゃねぇか!!


「お~…」


「てか、うるせぇ!」


きれいに決まる僕の右ストレート。

それは見事に間宮の腹に着弾。


「ゴンザレスっ!!」


意味のわからないセリフとともに後ろに軽く飛ぶ間宮。


「す、すまん。大丈夫か?」


「な、ナイス…ストレート」


ぐっと親指をたてて、苦しそうな笑みを浮かべている。


マジ…すんまそん


「に…しても、ごめんな?」


少ししてからダメージから復活した間宮がいきなり謝ってきた。


「なんだよ。急に


「なんか力になってやれなくてごめんな」


間宮の力の抜けた笑顔。

こいつはいつでも人のために気を張っている。

誰にも優しいやつなんだ。

わかってる。

でも、それでも僕は…



ドドド


「?」


ドドドドドド


「なんだ…この音」


足音のような地響きが、こちらに向かってくる。

それを黙認した自分達の顔は言葉を失ったように口をあんぐりと開けていた。


『間宮ぁぁぁあぁあ!しねぇいっ!!』


『鬼ヶ島様ぁ~。好きでぇ~す』


男女教師生徒関係なく大軍がこちらに向かってきた。


「「なんじゃこりゃ!!」」


『『まってぇ~』』


*****


「ゴリラ隊長!!二人とも体育館に向かったもようであります」


「報告ご苦労!!では、全軍で体育館を包囲しろ!!」


『イエッサー』


授業しろよ、教師。


「行ったな」


「まったく、みんなどうしたんだ」


…多分、原因はあの薬だ。

葵ちゃんと連絡を取りたいがいかんせん携帯は教室だ。


「ま、時間が解決してくれるだろ。だから、心配しなくても大丈夫」


そういって間宮はまた微笑む。

それを見た瞬間にチクリと小さな痛みが胸を刺す。

本当に小さな痛み。

でも、それは全身を締め付けた。


「あ、あのな…」



*****



僕は間宮に葵ちゃんとのやり取りを話した。

もちろん、ドリンクが媚薬ということは抜いてだ。

それを聞いた間宮は無表情のまま、すっと立ち上がった。


「間宮?」


僕の声が届いたのか、僕ににっこりと微笑んだ。

何故だろう。

すごく優しい笑みなのに……脚が竦み上がるぐらい怖い。


間宮はそのままてを壁にあて…


ドォーン


腕が壁を貫通した。


「にゃ、にゃにゃ、にゃにお!!」


「ん?ちょっとまっててね。…あった」


そのまま間宮は壁から腕を引っこ抜く。

その手には携帯が握られている。


「誰のか分からないけどお借りします」


間宮はそういってどこかに電話をかけた。


『もしもし~、あ、にぃに?』


「……」


『あ、もしかして、お、怒ってる?』


「すぅー」


間宮は大きく息を吸い、そして…


「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」


モザイクを流さないと放送できない怒号を大声で放った。



*****



「ふぅ~


事件は葵ちゃんが持ってた解毒薬(?)により解決された。

不味かった。

ま、そこはおいといて…


「にゅふふ」


災い転じて福となるとはまさにこのことにゃ♪


「ど、どうした?」


間宮は心配そうに顔を覗いてきた。


「な~んでもな~い♪」


「?」


むふふ。

状況を説明すると、二人で帰宅なうなわけです。

詳しく言うと、薬の影響を心配して間宮が送ってくれるということらしい。


「今日は本当にごめんいも妹が迷惑をかけて」


「いいよいいよ。気にすんな」


葵ちゃんには申し訳無いが、僕は幸せだな。

こんな時間が続けばいいな

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