『壁の中の魚』あらすじ
以下の文章は「なろうコン大賞」用に用意されたあらすじです。
作品の結末にまで言及していますので、未読の方はご注意ください。
小夜子の家の台所には不思議があった。その壁には時折、魚の影が映るのだ。魚は水を泳ぐように壁の中を横行し、壁面に波紋を起こしていく。
最初は恐れたものの、やがて小夜子は魚を、波風ひとつない自身の日常の一風景として受け止めるようになり、生ゴミを餌として投げ与えもするようになった。
しかし日々を波風ひとつないものと考えていたのは、当の小夜子だけだった。
小夜子の不倫を知り、証拠を掴んだ夫は、ある日彼女に離婚を突きつけ家を出る。
追い詰められた小夜子は発作的な暴力で未夜を殺めてしまい、そして死体の傍らで、壁の中の魚の事を思い出す。
これは生ゴミで、それならば餌になる。証拠は全て壁向こうに投げ捨てて片付けてしまえばいい。魚に食べさせてしまえばいい。
そのように未夜の遺体を処理し、魚を味方と信じた小夜子は、夫もまた同じように片付けようと企みを巡らす。
けれど魚が次に餌食としたのは、不用意に壁面に近づいた小夜子自身だった。
彼女の死の後も、巡らした謀は滞りなく動く。小夜子の夫は自宅に戻り、そして彼の背後の壁に浮かび上がるのは、人の味を覚えた魚の影だった。