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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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ライバルのはずだが?

物語には大抵の場合ライバルが存在する。

いいライバルもいれば、悪いライバルもいる。


どこぞの世界には、相手を貶めるためならば、

手段を択ばない悪役令嬢とやらもいるらしい。

かくゆうフランには、そのような存在はいないし、

この世界にはそのようなものもいない。

原状において、フランのライバルといえば刺繍に関する、アレクシアンである。


フランは偶然にもそのライバル(フランは一方的に友人と認識する)を、

見つけることになる。



その日は、ローランドの姉である

ルイローゼ主催のお茶会だった。


正式な招待状を受け取ってしまったので、(立場上突き返せないうえ強制参加)

フランは嫌がる妹のリリアンを無理矢理連れて、公爵家に向かった。

リリアンは不良債権アンリスタの一件以来、ローランドを苦手としている。

「顔が良くて権力も持ってる男になんて怖くて近づきたくない」らしい。

その意見にはフランも大いに同調したいところだ。


けれど、何が気に入られたのか、

しがない伯爵家のしかも行き遅れ気味のフランと、

何が何でもローランドは婚約を推し進める気でいるようで、

フランは日々負けられない戦いの重圧に耐え忍んでいる。

(楽しく刺繍をしている状態である)


今日は夜会とは違うので、軽装のデイドレス。

その胸元には、フランの刺繍が施されている。

実は招待状を押しつけられたその日から、

アレクシアンとの勝負の刺繍はいったん置いて、

このドレスにあう模様の美しい刺繍を施したのだ。

勿論、リリアンの刺繍もフランの作だ。


馬車に揺られて二の核から、一の核の公爵家へ時間通りに到着し、

(実は逃げられないようにするためか、馬車の手配も公爵家という徹底ぶり)

色とりどりのドレスを身にまとった貴婦人たちを見て、フランは目を輝かせる。

当たり前だが、ドレスや人の美しさにではない。


ドレスやフロックコートに施されている刺繍をみて感嘆の声を上げたのだ。


あれだけ、参加を渋っていたが、フランにとってここは天国だ。

様々な刺繍がただで見られるのだ。

なんと複眼であろうか。

役得だ。


あのドレスの刺繍は可愛い金魚だの、

あっちのドレスの刺繍はバラだの、

そっちのフロックコートは裾まで銀の刺繍だのと、

茶会などそっちのけになったフランを心配したリリアンが、耳打ちする


「お姉さま、お茶会です。刺繍の見本市ではございません」


と、リリアンにたしなめられて押し黙ると、

今日の主役であるルイローゼが姿を現した。


招待されたお礼の挨拶や、馬車の手配のお礼は、ルイローゼを取り囲む人垣が消えた頃にしようと、フランはその場を静かに、

こっそり離れて目立たない場所を見つけると、そっと移動する。

リリアンはすでに友人を見つけて、そちらに行ってしまっている。


用意されていたベンチに腰掛けほっと息を吐く暇もなく、

フランは突然、ある女性に宣戦布告(友達になろう)を受けた。


「ちょっとそこのあなた」


美しいドレスに、鮮やかなストロベリーブロンドの髪がよく映える。

なにより薄茶色の瞳をはじめとして顔のパーツは「美人」というよりは

「かわいい」部類の女性だった。

フランは、自分が呼ばれたとは思っていないので、

あたりをきょろきょろと見渡すが、人影はない。


「どこをみてるのよ。あなたよ、あなた」


再び、フランが周囲を見渡すと、

じれた相手がフランの目の前に来て、仁王立ちする


「あなたよ、鈍いわね」

「それは、申し訳ございません。このような場に慣れていないもので…」


とても申し訳なさそうに言われて、相手の気勢がすこしそがれた。


「こほん。それよりあなた、ローランド卿と非公式とはいえ、お見合いしたというのは本当なの」

「……いえ…お見合いではなく勝負です。負けられない戦いなのです」

「はぁ? なんですの、それ」


予想外の返事を返されて、思わず閉口したが、体勢を立て直すあたりは、

見た目に反してフランとは違った意味でのたくましい令嬢だ。


「まあいいわ。それよりあなた、私の名前を憶えておきなさい」

「はぁ…」

「いい? 私はルーデンス侯爵家の娘、アデラインよ」


そこまで聞けば普通なら、みな態度を変えるのだが、フランはなぜか、

きらきらとした瞳でアデラインを見ている


「まあ、なんて愛らしいのでしょう」

「あら、それほどでもないわ」


褒められていい気分になって、アデラインは多少デレる。


「あなたも、なかなかよ。ローランド卿には地味だと思うけれど」

「いいえ、あなたの方が私より断然かわいらしいです。そのようなかわいらしいものは初めて見ました」


もの?

いま、ものといった?

アデラインが急にいぶかしげな瞳をすると、フランは目をキラキラとさせて告げる


「あなたのドレスの刺繍、とても愛らしくて、可愛いです」

「あなた、いま、わたくしを褒めたわけではないの」

「いいえ、違います」


即答されてアデラインの高揚していた気分が一挙に荒む。

それでも、それを押し込めて、笑顔を作っているあたりはさすがに高位貴族の令嬢だ。


「ドレスをわざわざ褒めてくださってありがとう。我が家のお抱えの職人です」

「まあ、そうでしたか。桃色の糸の使い方がとても愛らしいです」

「とにかく、こちらをみなさいよ。あなた」


視線を胸元の刺繍が上げないフランに再び焦れる。

なお、これを男性がやったなら、変態ですのでご注意ください。

そろそろ、アデラインの自制心にもヒビが入ってきた。


「話を戻すわよ」

「戻されましても、どんな会話をいたしてましたかしら」

「人の話を聞きなさいよ。失礼な人ね」

「刺繍が見事だったもので…つい」

「変な人ね。あなた。ローランド卿も物好きだわ」


ちょっと危ないものを見る視線がフランに刺さる


「いいこと、私は、あなたとローランド卿とのお見合い、認めていなくってよ」

「なんと、あなたは私の協力者ですか! 神は私を見放していない」

「なに言ってんのよ」


フランは歓極まって涙目になりつつ、アデラインの両手を包み込む。


「周囲は敵ばかりで…私、刺繍勝負で負けると、うかつにもダンスの約束をしてしまったのです」

「はぁ? 何が困るのよ。あの方は素晴らしい方よ。だから、それなりに美しい方と一緒になっていただきたいのよ。あなたみたいな地味な家の令嬢ではなく」

「そうなのです。これほど話が分かる人と出会えるなんて、今日の私は運が良いです」

「あなた、ずれてるわよ」


などと、延々30分ほど会話(一方的な押し問答)が続き、

とうとう、アデラインが根を上げた。


「もういいわ。続きはまたにしましょう」

「まあ、今後もお会いいただけるのですか。私、初めて友達ができました。嬉しいです」

「友達じゃない。勘違いしないで頂戴」


と、これまた、そこから30分ほど間の時間を要し、

とうとうアデラインは「あなたと話すのは二度とごめんよ」という捨て台詞を残して去っていった。

その現場を見ていたローランドとルイローゼは顔を付き合わせて静かに笑う。

人目がなければ、腹を抱えて二人して笑っているところだ


アデラインは、ローランドの遠縁にあたる令嬢で家は同じ侯爵家であり、

家格もほぼ同等だ。

昔からや王城にもよく出入りしていて、王家の人間たちとも近い。

しかも母親は王家とも縁続きの娘なので、ローランドの嫁候補からは外れている。


アデラインは弱く言えば気高く令嬢の鏡だが、

悪く言えば、矜持が高すぎて高飛車なところがある。

他の令嬢をいじめることは一切ないものの、

社交界の令嬢の派閥のボスでもある。


社交界の女性陣の派閥には疎いローランドだが、

すくなくとも、3つは認識している(ルイローゼにたたき込まれた)。


そのうちの最大派閥のボスがアデラインだ。

そのアデラインが、言い負けしたうえ這々の体で逃げ出すほど、

フランのズレた天然さはずば抜けている。

天然というよりも、本当に刺繍以外は興味がないのだろう。


「アデラインが逃げ出すのをはじめてみました」

「私もよ。あの子なかなかの曲者なのに」


これは意外と、磨けば社交界でトップをはれる逸材になるかもしれないと、

ローランドとルイローゼの意見は一致する。

と、ますます結婚から逃げられない様相のフランであった。

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