フラグが立つよ、アンリスタ
バンキンス伯爵家の元当主である、
フランの父方の祖父ははっきり言って屑だった。
男としてではなく、人としても最低な人間であった。
幸いにも、その祖父はフランが生まれてすぐに、
酔っ払ったあげく階段から足を滑らせ、首の骨を折って亡くなったので、
フラン自体は直接的に被害者ではない。
ただ、その祖父は、金遣いが荒く、
最悪なことに容姿にも恵まれていたことから、
女遊びの激しい人物であった。
実家の商売が上手く回っていたのは、
曾祖父の手腕のおかげであって、祖父のではない。
その証拠に祖父が死んだ後に判明した借金で、
バンキンス家は一時、邸を抵当に入れた位だ。
その祖父の元に嫁いできたのは、
家の将来を心配した曾祖父が、落ち目にあった侯爵家において、
しっかり者と言われていた祖母を、持参金なしでいいからと嫁に迎えたのだ。
祖母の人生はそこから我慢の連続だった。
まさに渡る社交界は屑ばかりの様相だった。
祖父の仲間と言えば、
類が友を呼ぶを地で行く人間ばかりで、
誰一人としてまともではなく、
また、祖父の金目当てにつるんでいたような、穀潰し。
祖父は見栄っ張りな性格も相まって集られていることも知らず、
気前よく金を邸から持ち出していた。
祖母はその持ち出し金を隠しては夫に殴られた
(これが下町の肝っ玉母さんなら、逆に殴り返して箒でたたきのめすところである)
時には愛人や妾を囲い、湯水のように金を使った。
何度も離縁を申し入れるものの、
落ちぶれた実家からは門前払いをくらい、
教会に逃げ込めば祖父が何故か怒鳴り込んで連れ戻しに来る。
そんな祖母に遅くに息子が出来ると、
祖父の暴力は止んだと同時に、
殆どを愛人宅で過ごして家に寄りつかなくなった。
たまに自宅に帰ってきたと思った矢先の事故死だった。
なお、金を使いまくった祖父は商売の才は一切無かった。
もっとも、苦労に苦労を重ね辛酸を嘗めまくった祖母も、
フランが10才を超える頃に他界している。
一方で、物事を長女にまるなげしている父親は商才があり、
10年ほどで伯爵家を盛り返した実績がある。
ところが、である。
家令が時々口にするように、
伯爵家(バンキンス家)の不良債権は、
その屑に「くりそつ」ってやつである。
祖母が存命なら、あまりの似すぎた性分に、発狂したに違いない。
その不良債権は、
いかにして姉に嫌がらせをしてやろうかと画策しており、
それは悪い友人達と悪巧みに様相を呈してきている。
そして、その悪巧みに乗っかっているのは、
学園でも家でも鼻つまみされているようにこれまた似通った屑が3人だ。
ひとりは、伯爵家の三男坊、一人子爵家の次男、一人は男爵家の末っ子。
みな、家督を継げない者ばかりで、
文か武で身を立てられなければ、平民に落ちぶれるのが決まったような人間達だ。
アンリスタはその中でも唯一の嫡男であるが、
最近、父親から「お前には家督を譲らない。跡取りは、フランかリリアンに婿を取らせるか、もしくは親類から養子をとる」と断言をされており、はっきりいって面白くない。
前までは盗めた金も最近では、
フランがしっかり管理してしまい(下町での修行の成果は出ている)、
自由に使えないばかりか、家に軟禁されることもしばしばだ。
学園で勉学もせずに悪巧みをしているのだから、
こいつらまとめてゴミ箱行きと言われても仕方がない。
「あいつ最近、婚約がきまりそうなんだよ。すくなくとも、家督を継ぐことはなさそうだけど、幸せになるとか腹が立つ」
と、どこぞの悪役令嬢(令息)のセリフだを吐き出す。
別に不幸になれとか死んでしまえとまでは思っていないのだが、
数年前までは自分の言いなりだった姉が急に、
生意気にも、自分に対して説教をかまし、教育的指導をしてくるのがむかつくのだ。
「お前のねーさんどこに嫁に行くんだよ」
「さあね、聞いてない。けど、今まで俺をコケにしておいて、嫁に行くとかありえないつーの。あいつは壁の花で俺に馬鹿にされて生きていくのがお似合いなのに」
だから、不良債権、
そのセリフは完全な悪役ポジションでざまあ一直線フラグが立っている。
立たせて頂く。
「じゃあさ、お前のねーちゃん傷物にしてしまえばよくね?」
と、3馬鹿の一人がほざくと、
「すでに20過ぎてんだろ? きっとろくな嫁ぎ先じゃないぜ」
と別の3馬鹿もほざく。
そして「ならさ、俺たちでちょっとやってやろうぜ」
と言われ、不良債権は、傷物という意味を、
軽い怪我程度だとおもっていたが、3馬鹿は別の意味の傷物とのたまっていたのだ。
まさに、あの日。
フランが逃げ出した際に話していた内容である。
屑というのは成長しない生き物なのだ。
けれど、その屑カルテットは、
フランの嫁ぎ先が、天下のグリーンフィールド家であると後に知り、
ガクガク震えて逆に傷物にされるカウントダウンが始まった。
**
「ねぇローランド」
また来たのか…とローランドはひとつため息を吐く。
「だから、姉上、ノックくらいしてくださいよ」
「だから、したわよ。きこえなかっただけでしょ」
絶対にしていない。
けれど、それを言ったところで、水掛け論どころか、
姉に押し切られるに決まっているので、ローランドは憮然とした表情で押し黙る。
「バンキンス家の調査はしているの」
「ええ、父上がすでに終えています。埃は殆ど出ず、宰相の言うとおり中立で、貴族院の派閥にも属さず、権力志向も薄いそうです。一時、商いに陰りがあったそうですが、現在の当主と妻が立て直したようです。先代はろくでなしを絵に描いたような人物だったそうですが」
「その、ろくでなしの血をフランの弟が継いでいるということも知っている訳ね」
「勿論です。そこも抜かりなく調査済みです」
ローランドは袖机の引き出しから束になった紙を出す。
それは、グリーンフィールド家の手のもの達が手分けして調査した、
フランの身辺調査報告書だった。
当然そこには、フランが下町で過ごした3年間の様子も記載されているが、
男の影などはなく、ひたすら刺繍に明け暮れていたことがわかる。
ここまで刺繍漬けの生活なのかと、さすがのローランドも若干引いたくらいだ。
「ローランド、屑というのはね、変なところばかり成長するから屑なのよ。そして、予想通りのことをするから屑なのよ。気をつけなさいよ」
「わかっていますよ、そこは抜かりありません。バンキンス家の不良債権の交友関係は調査済みです」
未来の義兄であるローランドにまで不良債権と言われる始末である。
「ひいては我が家とも縁続きになりますから、矯正はしっかりとするつもりです」
アンリスタの未来は暗い。




