とりあえず今日もフランは生きている
やっと、プロローグみたいな部分が終わります。
次からは、次からは、物語が始まるはずです…。
話はちょっと遡る。
今日も今日とて、泣きわめく妹にあっという間に屈した両親は、フランに対していつものように「お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい」と、いとも簡単にフランの「これは私の」という我儘を一刀両断にした。
それでも手放そうとしないフランに「わがまま言わないの、お姉ちゃんでしょ」という。
では、欲しいと泣き叫んでいるリリアンは我儘ではないのかという疑問をフランは幼いながらも感じた。
その日は、父方の祖母が久しぶりに王都のマナーハウスに訪れていて、その際にフランとリリアンにそれぞれに手土産を手渡していたのだが、リリアンは自分のだけではなく、姉のも欲しがったのだ。
祖母は泣きわめくリリアンに自分のを手渡そうとしたフランを制すると、リリアンに「いい加減に泣き止みなさい」と冷たく言い放った。
そのうえで、両親を説教しだしたのだ。
曰く姉だからなんでも我慢させるのは大きな間違いであること、
曰く姉だからとなんでもいうことを聞かせるのは間違いであること、
なにより、妹にきっちりと序列を教えなければ、この先、困るのは両親だと諭した。
諭したが、残念ながら理解できる頭を両親はもっていなかった。
その夜、祖母はフランを自室に呼んであることを告げた。
「もし、どうしても我慢ができないときは、これをあけて頂戴」と一通の封筒を手渡した。
「いい、フラン。これはもう、どうにでもなれって思ったときに開けるのよ」と。
実直だったフランはその言いつけをよく守った。
自分の限界がきて、どうにでもなってしまえと思うまでは本当に開けることはなかった。
今は亡き祖母も何かといっては、我慢を強いられた人生を送った人だった。
若いころは家の格は高くても、人並みの容姿と陰口をたたかれ、
婚姻も「お前でもがまんしてやる」などと夫に言われ、
浮気のたびに実家に戻れば「正夫人なんだから我慢しろ」と両親に言われ
我慢に我慢を重ねて、踏んだり蹴ったりの人生を送った人なのだ。
きっと、フランの現状を見て、自分と同じ道を歩むのではないかと心配になったのだろう。
そしてその祖母の想像は現実となった。
あの日、弟が話していたのだ。
「壁の花ななんて恥ずかしいからさ、修道院にでも行けばいいんだけどさ」
「じゃあ、その前に女の幸せってやつ、俺らが教えてやろうぜ」
まだ11歳の子供がどこまで理解して話していたかはフランにもわからない。
けれど、その言葉で、フランの限界は超えたのだ。
血のつながっている弟なのに、別な生き物のようで、とにかく気持ちが悪い。
同じ家に住むなんて吐き気がする。
だから、逃げ出したのだ。
それから、3年の月日が流れて、フランはいま、やっとの思いで生活をしている。
逃げ出しても行く場所のないフランは、まず、公園でひとしきり泣いた。
泣いた後におもむろに立ち上がると、突然、祖母の手紙を思い出した。
どうしてもだめになったら読むようにと言われた手紙。
伯爵令嬢として生きてきたフランには、できることは少ない。
突然、家を出たところで、生きていくすべがないのだ。
けれど、あの家にはもう、戻りたくない。
フランは、いつも肌身離さずもっていた祖母の手紙をそっと開いた。
祖母はそのために、フラン道しるべをくれたのだ。
まずフランはその手紙の示すように、王都の1の核にある商業地区に住む一人の老婆を訪ねた。
最初はフランの訪れに驚いた老婆だったが「生きているうちでよかったわ」と言って迎え入れてくれた。
なんでも祖母の父がメイドに手を付けて産ませた子供で、認知されず平民として生きた人だった。
フランは祖母の妹と一緒に生活をし始めた。
豪奢なドレスは古着屋に売ったら、そこそこの金額になって随分と驚いた。
今まで自分が身に着けていたものの価値を知って二重に驚いた。
次にフランは家事を覚えようとした。
これがとても大変だった。
少なくともフランは、両親がなにかと面倒ごとを良くできた都合のいい娘に丸投げするたちではあるものの、どこぞの話に聞くような、家族として扱ってもらえないであるとか、メイドのようにこき使われるような、ことはなかったのだ。
ただ、お行儀のいいよく出来た都合のいい長女だっただけだ。
そんなにフランは、火を起こすことから学んだが、これがとても難しい。
お湯を沸かすにも、水を汲む作業の大変で筋肉痛になった。
祖母の妹という人は、助けてはくれたが、そこはいろいろと難しい関係で、年を取って体が動かなくなったこともあり、フランを小間使いのように扱うようになってしまった。
フランにしても、置いてもらってる手前、反論もできない。
結局のところ、フランはまた都合のいい人間になってしまっている。
そうこうしているうちに、やっと料理を作れるようにまでなった。
包丁なんて持ったこともなく、野菜を切ったことなかったから、何度も指を切りかけた。
世の中の料理人をフランは尊敬した。
掃除をしては筋肉痛になり、邸のメイドたちたちの体力に驚愕した。
フランには自分の部屋を与えてもらえた。
小さな家ではあったけれど、祖母の妹の母がつかっていた部屋だという。
そのうち、フランは本を読み始めた。
自宅では読むことのなかった、巷ではやっている恋愛小説だ。
感想としては、とても微妙だった……。
そのうち、祖母の妹の体調がすぐれなくなっていった。
医者にかかるにも金はかかる。
ドレスを売って、渡したお金は底をついたといわれたので、フランは家事をすることで身を立てようと考えた。
奉公先はわりとすぐに決まった。
この辺では有名な大きな商家だ。
そこにメイドとして洗濯ものや食器洗いなどの下働きだが、お給金はもらえる。
フランは必死に働いたけれど、ある時、その商家に役人が現れた。
なんでも不正な貿易をしていたらしい。
「ついてないなぁ、また新しいところを探さないと」
その日は、とぼとぼとフランは自宅に帰ることにした。
結局フランは1年のうちに4回も奉公先をやめることになった。
1回目は商家に手入れが入り解雇。
2回目の商家は、倒産。
3回目の商家はではセクハラされて、つい、ひっぱたいて解雇
4回目の商家も倒産
と、そのためフランについたあだ名は「倒産を呼ぶ女」と呼ばれ悪評が立ち、どこのお店も商家からもお誘いがかからなくなった。
「どうしてこうなるのかしら…」
などと悩んでいる間に、祖母の妹が呆気なく他界してしまった。
残されたのは、小さな家だけだが、住むところがあるだけましだった。
フランはそのうち、自宅でもできる仕事がないかと考えるようになった。
ドレスを作る仕事はどうだろうかと考えた。
貴族相手ではなく、庶民のちょっとお出かけやおめかしのためのドレス。
とても名案に思えたのだ。
この時は。
結局、フランは詐欺にあい、自宅すらもなくしてしまった。
近所に店を構えている被服屋の女主人がフランを気の毒に思い、自分の雑用係として住み込みで置いてくれることになった。
時々は、デザイン画を描いたり、ドレスに刺繡も出来る。
生活は楽ではなく、ランプの油すら満足に買えず、食事も時々事欠くが、それでもとりあえず、生きていられているので、フランは十分満足している。
なにせ、平民は貴族と違って20を過ぎても壁の花などと揶揄されることがない。
ただ、フラン自身もこの生活がいつまでも続くは考えていないから、そのうち、どうにかせねばと考えるものの、日々の生活で手いっぱいで余裕がないのだ。
そんなにフランの唯一の救いは、今までは読むこの出来なかった庶民の本だ。
恋愛から冒険談まで、活字という活字を読み漁っている。
もちろん、自分で買うお金はないので、貰い物が大半だが。
「フラン、そろそろお店を開けるよ」
「はーい。今、行きます」
下から自分の雇い主の声が飛んできたので、フランは急いで身支度をして、降りていく。
「また、本を読んでいたのかい?」
「はい」
にっこり笑って、いつものように看板を出すと、空を仰ぐ。
「さあ、今日も一日、頑張りますか」
ブックマークありがとうございます。とても嬉しいです。他の作品との兼ね合いでしばらくは、更新が1週間に1度になりそうです。




