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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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18/22

勘違いが勘違いを産む

(沈黙が…ささっている…気がする)


逃げ出したい衝動をフランは必死に耐えている。


テーブルには、美しい芸術品のような茶器がおかれて、

芳香もよい紅茶が用意されているものの、

ローランドもフランも口にすらしていない。


フランの両親は同席している宰相閣下にひたすら恐縮しているばかりで、

こちらも固まっている状態。

とにかく、ずっと沈黙が続いており、とてもお見合いの席とは思えない。


「これはお見合いよ? お互い聞きたいことはきいてみては?」


と、ルイローゼが口にするも、フランもローランドもうつ向いたままだ。

あまりにも沈黙に耐えかねて、ルイローゼはローランドの脛をける。

その拍子にローランドがチラリとフランを伺えば、

フランの視線はローランドのフロックコートの袖口に注がれている。


(顔より刺繍を気にする令嬢か……本当に刺繍にしか興味が無い…?)


と、再びかなりのダメージを喰らうローランドを見かねたルイローズの夫が、

その場を二人にした方がいいと判断して、

ルイローゼだけをその場に残して、フランの両親とともに場所を移動することにした。


話がこじれそうなの(※夫はルイローゼを理解している)で

本当はルイローゼも連れて行きたいのは山々だが、

公爵夫人としてははしたなくも、

堂々と陰からのぞき見でもされては、困ると考えて、

仕方なく、ルイローゼをその場に置いておくことにした。


宰相とて、自分の部下であり義弟ローランドには、

そろそろ身を固めて欲しいと思ってもいるし、

フランならば政治的な意味合いでも問題にならない良縁なので、

うまくまとまれば良いと考えている。




この一時間後、この場の誰もが“事件”と呼ぶことになる事態が起きる。



「あの……」


その日フランが初めて言葉を発しつつ、顔を上げた。

最も、ローランドとは視線がかみ合わない。

なぜならフランはローランドの袖口の刺繍にしか興味が無いからだ。


「先日は、その突然、…その、申し訳ございませんでした」

「あ、いえ。それはもう気にしなくても大丈夫ですよ、フランジェール嬢」


ローランドもこの日、初めて言葉を口にした。

聞いているルイローゼは歯がゆくて、全身がかゆくなる。

ハンティングが得意な肉食獣ルイローゼには、

このじれったいやりとりが、叫び出したいほどにイライラするのだ。

そしてローランドの朴念仁ぶりにもいらだちが押さえられない。


(顔だけはいいうえに、この私の弟のくせに、なんでこんなに女性に対して鈍いのかしら)


と、ローランドが女性を敬遠している最大の原因たるのは、

その肉食獣ルイローゼなのだが、そこはご本人は理解していない。


「あの…邪魔しません」

「?」


フランの脈絡のない突然の言葉に姉と弟の頭にはてなマークが浮かぶ。


「あの…、その袖とシャツの刺繍はマダムアレクシアンですよね?」

「そうですが…」

「美しいです。美しいだけではなく、深い愛を感じるのです。刺繍に対する愛といいますか、だから、邪魔は致しません」


いや、フラン。

多分、二人には意味がわからないから説明してあげてくれ。


「その刺繍には深い愛があります。刺繍に対する愛だけではなく、それを身に纏う人間への敬愛です」


突然何を言い出すのかと、再び、ルイローゼの貴婦人の仮面が落ちる。

ローランドに至っては、状況が良く飲み込めなくて、唖然とするしかない。


「ローランド卿に対するマダムアレクシアンの愛情の深さはすごくわかります。なので、私は邪魔はしません。お見合いをきっぱりとお断りしてくださってかまいません」


いやいやちょっと先走りすぎのフランである。

このお見合いは、取り持ちは公爵家であるが、

グリーンフィールド侯爵家とて正式に申し入れている。

申し入れた側が、そう簡単にお断りするわけがない。

何より、政治的な意味合いでも、ルイローゼの夫である公爵も、

宰相としての立場で賛成しているのだから、そう簡単に流れる話ではない。


「私はお針子として生きていきたいと考えております。ただ、どうしても弟子入りをしたいだけなのです。お二人の愛を邪魔はしません。どうか、どうか、弟子入りだけは認めてください」


と、懇願する様子を見て、ルイローゼもローランドもフランが明後日の方向にローランドとアレクシアンの関係を勘違いしていると気がつく。


(このフランジェールの思考、斜め上で本当に面白いわ。飽きない!!)


何をどう解釈すれば、

ローランドとアレクシアンが愛し合っているという結論に至るのか、

二人にはさっぱり理解できない。

刺繍は確かにローランドが自分で刺したものだが、

そこに愛があるとか敬愛がとか言われても、ピンとこないのに、

フランだけがひとり、刺繍の出来映えに感激しつつ、

邪魔しないから弟子入りさせてくれと懇願しているのだ。


まるで喜劇を観ているようで、ルイローゼはますますフランを気に入る。

そして、勘違いされているローランドに至っては、

話が飛躍しすぎていることに笑いがこみ上げてきた。


自分の顔をきれいだからと振った令嬢が、

なにをどう勘違いしているのか、ローランドとマダムアレクシアンが愛し合っているという。

そしてこの場に至っても、彼女は刺繍しかみていない。

こんな令嬢は初めてで、ローランドはやっとフランに興味が出てきた。


そこからは何故か突然、ローランドは饒舌になった。

こんな面白い令嬢フランジェールははじめてで、

確かに見合い相手としては大変、好ましいし、伴侶としても申し分ない。

なにより、刺繍を愛しているというのは高ポイントだ。


とても今まで理想の女性像で悩みまくってぶれまくった男とは思えない反撃を開始した。

そのあたりはやはり、ローランドも肉食獣ルイローゼの弟であった。

が、フランジェールも然る者。


刺繍から目を離さないどころか、質問はマダムアレクシアンの刺繍の事ばかりだ。

彼女フランジェールの優先順位は明確である。

1 刺繍

2 マダムアレクシアン

その他 ローランドとルイローゼ


に区分されている。

確かに、面白い令嬢だ。


ローランドの質問に、

「はぁそうでございますねぇ。して、その刺繍は何日ほどで」などと返すばかりで話の進まないフランにじれたルイローゼはある提案をした。


「ねぇ、提案があるのだけれど」


獲物を見つけた肉食獣のように、にんまりと笑う。

その笑みを観たフランが肩をびくりとさせて、小さく震える。


「刺繍で対決するのはどうかしら」

「は?」

「え?」

「フランジェール嬢が勝てばローランドがマダムアレクシアンの弟子にするように頼む。逆にマダムアレクシアンが勝てば次の王家主催の舞踏会でファーストダンスを踊る」


その提案に、ローランドとフランは二人同時に叫び声を上げた。




「ところで、そのファーストダンス…というのは、その…開幕の挨拶のようなものでしょうか?」

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