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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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17/23

顔ではなく刺繍を観る女

「顔がいいからと振られたのに、お見合いとはどういうことですか」


ついさきほど、ルイローズから、

フランとのお見合い話を聞いたローランドである。

それも、疲れ果てて仕事先である城から戻った矢先に、

玄関で仁王立ちして待ち構えていた姉に捕まって、引きずられて。


姉が玄関で待ち構えていたのは、ここ数日、姉からの呼び出しを無視していたせいでもある。

どうせくだらないことだと思っていたら、くだらない以上のことだった。


「あなたのお見合いを用意したわ」


と告げられたのだ。

それも相手はつい先日、

自分に「顔がきれいすぎてむり」とダメ出しを食らわせた令嬢だという。


「振られたんですよ、私は。一方的に否定されたんですよ、初対面で」


恨みがましい目で見られたところで、

居心地が悪くなるようなルイローゼではない。


「男が細かいことを気にしないのよ」

「しますよ。別に顔を自分で自慢するわけではありませんが、顔で振られるとは…」


はっきり言えばローランドはかなりのダメージを食らった。

この顔で女性陣から声をかけられたことは当たり前で、

この顔で困ることはあっても、否定されたことはなかった。

なのに、この顔が無理だとられたのだ。


「よく聞きなさい、ローランド。彼女フランジェールはあなたの理想の女性よ?」


自分ですら理解していない理想の女性といわれてもピンとくるものがなく、

逆に姉に胡乱な視線を送るも、そんなことで口をつぐんでくれる人ではないし、

へこたれるほどか弱くもない。


外で同じような視線を向ければ、

同僚や義兄からは「その涼やかな目元で睨まれると怖い」と言われるのに、

この姉にかかれば、そんなもの気にもとめない。

この姉が男として生まれていてくれたなら、

自分は次男という立場でもっと気楽に生きれたかも知れないと、常々思う。


「聞いているの、ローランド」


半ば意識を飛ばしていたローランドは、

姉の低めの声に、ビクッと反応して、姿勢を正す。

幼い頃から姉のこの声は苦手なのだ。


「よく聞きなさい。まず第1に、彼女の実家は新興でもなく、名門家でもない。けれど、古くからの続く家柄で位は伯爵家。侯爵家ともバランスがとれる。第2に、御父上の伯爵は、貴族院の発言力は低く権力欲も薄い。これは夫に確認したから確実」


夫の宰相まで巻き込んでいた。


「第3に、王家とも遠い。そして、最後ににここが大切。彼女は大の刺繍好き。断言してもいいわ。彼女はあなたの顔を覚えていなくても、袖口の刺繍は絶対に覚えているわ」

「そんなこと断言しないでくださいよ…もっと惨めじゃないですか」


思わず嘆いていた。

ローランドは自分自身が思っていた以上にダメージを受けているらしい。

「今まですました弟だった故にとても笑える」とはさすがのルイローゼも口にはしない。

落ち込んだままだと面倒なので、

ちょっとだけ弟を思いやるふりしたセリフを吐く。


「あのね、ローランドあの子はね、整った顔になんて興味がないの。縫い目が揃っているか、手の混んだ美しい刺繍の方が大事なのよ」

「それは…人を見る基準としては、だいぶ偏っていませんか」

「あの子にとってはそこが基準なんだと思うわ。だって顔は生まれつきでも、刺繍は誤魔化せないもの」


ローランドはふっと感銘を受けた刺繍のデザインを思い出す。

物語の一節を模した刺繍は色が鮮やかで、配置も申し分の無いものだった。

自分の創作意欲が刺激されるほどの秀逸なできだった。


その刺繍を刺したのは、その令嬢フランジェールだと言うことは、

つい先日、姉から聞かされている。

あのときも姉は、当人に会ってきたといいつつ、高位貴族の家の令嬢だと当てていた。

そんなことを思いつつ、

姉の選んだ人間ならば間違いは無いのだろうかと、ローランドの心にも迷いが生じる。


「あのね、ローランド。私がマダムアレクシアンと会いたくはないかって聞いたときに、彼女なんて答えたと思う。会いたいとか、刺繍を頼みたいではなく、弟子入りしたいと言ったのよ」

「……弟子入り…ですか」


さすがのローランドもあっけにとられる。

いや、普通にそこは、会いたいとかじゃないのかと思うが、

顔が美形過ぎて無理と言って逃げだした令嬢だけに、

その返答もあり得そうではある。


「彼女なら我が家とも家の格的に問題は無いし、父親は権力欲も薄いうえ王家とも遠いとなれば、あなたの政治的な立場からはこれ以上無い良縁でしょ。しかもご実家は裕福よ」

「なんか…いい事ずくめに聞こえますが…メリットばかりで逆に不安なのですが…」


絶対に良からぬ事を考えていると当たりをつけるけ、

ローランドがじっと姉を見つめる。

さすがのルイローゼもその沈黙に耐えかねて口を割る。


「だってあの子が義妹いもうとになってくれたら、退屈しないわ。あなたの人生にも刺激があった方が良いでしょう?」

「それは相手のご令嬢に失礼ですよ、姉上」


などという正論名が通じるように相手ではないが、

一応、ぶつけてみる。


「いいじゃない。どちらにしてもあなたには最適な嫁候補なんだから。お父様とお母様の了承は得ているわ。」

「手を回しすぎですよ。なんなんですか、その用意周到さは」

「本気なのよ。それだけ。いい加減、あなたも腰を据えて嫁選びをしなさいな。侯爵家の嫡男として義務を果たしなさい。とにかく、私と夫が取り持つのだから、絶対に決めなさい」


といわれて、ローランドは初めて自分を振った令嬢に同情した。

宰相夫婦から圧力がかかったのでは、伯爵家からはこのお見合いを断れるわけがない。


そもそも、お見合いの体だが、ローランドから断らない限りはほぼ結婚と同意語である。

かといって、ローランドからお断りしてのでは、令嬢に傷がつきかねない。

どちらにしても、ローランドもフランものっぴきならない状況下にいるのだ。

この肉食獣ルイローゼのお愉しみとやらのせいで。


ローランドはそれはそれは、深いため息をはいた。

結局は姉に逆らえない自分にもため息が出た。


(顔ではなく刺繍を観る令嬢とのお見合いか……)


と、心の中で嘆くローランドの横で姉は満面の笑みをえかべていたのだが、

何故だろうそれがで舌なめずりをしている肉食獣にみえてしまい、

さすがのローランドも小さく身震いした。




***



(本日はお日柄も良く……良すぎませんか)


雨でも降ったのなら、日が悪いといって延期ができるものの、

こんなに天気が良ければ、まさしく本日はお日柄も良く見合いにはもってこいの天気だ。


フランは朝から母親の半ば叫ぶような指示の中、

侍女達に髪を整えられ、ドレスを着せられ、

リリアンの懇願混じりの鳴き声に辟易しながら馬車に乗り込んだ。


父は、新調したフロックコートに身を包み、母も新調したドレスを身につけている。

当然、フランも新調したドレスを着ているのだが、

ドレスの胸元の刺繍が今ひとつ気に入らず、自分で刺したい衝動を押さえるので必死だった。


「針と糸を持ってきていないことが悔やまれてならない」などと思っているうちに、気がついたら、公爵家に到着していた。



PVがすごく増えてて嬉しいです。観てくださってる方がいると思うと頑張れます。

が、小心者なので、コメント解放できていません……。

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