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ドアマットヒロイン? いえ、ドアはございません  作者: 六軒さくみ


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15/23

面白いという理由です

「…私はいま、顔がいいからと振られたのでしょうか……」


呆然自失というよりは、

まず何が起きたのか理解できないローランドは唖然としている。


そもそも振られるも何も、互いに自己紹介すらしていない段階で、

「美形すぎてむり」と言われたのだ。


言い方は悪いが、美醜の「醜」で振られることはあっても、よもや「美」で振られるとは。

顔がいいと持て囃されて、

ちやほやされることはあっても、よもや美形だからとフラれたのだ、今さっき。

普通逆では。


少なくとも顔がいいからとフラれるなんて、社交界では聞いたことがないし、

ローランド自身も今まで一度も言われたこともない。


自慢ではないが、ローランドは、夜会に出れば大抵は女性に囲まれる。

グリンフィールド侯爵家の嫡男という身分もあるし、

本人の容姿も整っていることから嫌でもモテる。

望まなくとも注目は集まり、好意も向けられる。

そんな、自分ローランドが今しがた、

名前も知らない令嬢から「美形過ぎて無理」とダメ出しを受けたのだ。

とにもかくにも、あっという間の出来事だったので、ローランドは唖然とするしかなかった。


「ますます、面白い子よね…」


などと、紅茶に口をつけつつ、言葉をこぼすルイローズ(姉上)。

ローランドはゆっくりと姉のいる方向に顔を向ける。

その瞳は少々剣呑だった。

ローランドとて、フラン同様に今日の茶会の事は一言も知らされなかったのだ。


昨日のことだ。

「どうしても相談したいことがあるから、邸に顔を出せ」という、

ルイローズ(姉)からの一方的な手紙(召喚状)を受け取った。

嫌な予感がしたものの、無視するという選択肢はない。

そして出向いてみたら、暢気に茶会などしているという。


人を呼びつけて(召喚して)おいて、何事だ。

こっちだって忙しい身なのだと、

一言、進言(愚痴)を言わねばならぬと(おそらくは倍にして言い返されるのが落ちだが)、

乗り込んでみたら、一人の令嬢フランが座っていた。


そして、今に至る。


「どう、ローランド。あの子面白い子じゃない? 義妹になるなら、あの子がいいわ」


楽しげに微笑みながらルイローズが告げる。


「そよりも…」


ローランドは未だに状況が飲み込めない顔をしている。


「私はいま、美形だからと振られたのですが…」

「だからよ」


あっさりと言う。


「だって面白い子じゃない。刺繍の美しさには目を輝かせるのに、美形を見て逃げ出すなんて、価値観がズレていて最高だわ」


(まったく面白くない…)


ローランドは喉の奥でつぶやく。



思い返せば、おそらく逃げ出した令嬢フランも、

今日、この席に自分ローランドがいるとは思っていなかったに違いない。

けれど、ルイローズにしても予想外の出来事だ。

まさか、名前を聞く前に逃げ出すとは斜め上の行動をとられたのだ。


「私は何か失礼をしたのでしょうか」

「していないわよ」

「ではなぜ逃げたのでしょう…というより振られたんでしょうか」

「あなたが美形だからよ」

「……顔は変えられませんが……」


どうにもまだ、現実を受け止めきれないローランドの言葉に、

ルイローズは貴婦人らしからぬ笑い声を上げる。


「ねえ、あの子と正式にお見合いしてみたら?」

「…振られたんですよ。名前も知らない顔すらちゃんと観なかった令嬢に」

「だからいいんじゃない。それにあの子、例の刺繍の子よ」

「え?」


瞬間的にローランドが立ち上がって、フランが走り去った方向を見る。


「何故、それをもっと早く教えてくださらないんですか」

「教える前に逃げちゃったんだもの、仕方ないでしょ」

「是非とも刺繍の話を聞きたかったのに残念です」


ローランドのその声には先ほどまでの困惑ではなく、明らかな落胆が混じっていた。



一方、顔の良すぎたルイローズの弟が、

憧れのマダムアレクシアンだとは知らないフランは、

はしたなくもスカートの裾を蹴りつけて、公爵家の広大な庭をひたすらに走り抜けた。

砂利道を踏み、花壇を避け、噴水の横を駆け抜ける。


そして途中ではたっと立ち止まる。


ルイローズといえば生家は侯爵家。

弟といえば、グリンフィールド侯爵家の令息一人しかいない。

自分はなんという無礼で失礼なことをしたのだと、

息も絶え絶えになる(決して、運動不足から来る息切れではないはずである)。


どうするのが最善か考えて考えがまとまらないフランは、

やっぱりこの場から逃亡することにした。


逃亡しても、ハンターであるルイローズからは逃れられないのだと、

後日再確認するのだが、それはまた別の話である。

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