儀式系のボウゲン①
「ここがボウゲンジム所かぁ……。」
街の外れに建つコンクリート造りの殺風景な建物。まさとし君は門の前に立ち、建物を見上げる。
入口らしき部分には扉のかわりに重厚な鉄のシャッターがはめられており、ところどころ電動工具で切り裂いたのを修理したような痕がある。
鉄格子の下りたガレージには黒塗りの高級車が佇んでおり、その窓は全く光を通さないスモークフィルムが貼られ、仮に誰かが乗っていたとしても全く分からないようになっている。
そして至る所に監視カメラが設置され、無言の圧を振り撒いている。
買い物帰りの中年女が大根の頭の飛び出た買い物袋を小脇に抱え、小走りに駆け抜けていくこの建物の表札には、いかついロゴが彫り込まれ、『呂敬統会 岩本組』と達筆な楷書体で書かれている。
『……ジム所はね、入れてもらうだけでも大変なんだ。』
たける君の言葉を思い出す。
たしかにこの『ジム所』は、訪れる者を歓迎する雰囲気はない。
まさとし君は恐る恐る、呼び鈴のボタンを押す。
『はい、岩本組本部。本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?』
一瞬で男の声が返ってくる。
その声は低く芯が太く、物言いは丁寧ながら強烈な威圧感を感じる。
「あの、こんにちは。僕、眞更町のまさとしです。ボウゲンバトルをやりにきました。
よろしくお願いします。」
まさとし君は丁寧に挨拶し、カメラの前にお辞儀をする。
『……またワケの分からねぇことを抜かしよるガキが来やがったか!
おい小僧、ここがどういうところか分かっとんのか?あァ?
ここはテメェみてぇなケツに糞つけたガキの来るところじゃねぇ!失せやがれこの馬鹿野郎!』
先ほどまでの落ち着いた物言いから一転、普通の子供なら小便を漏らして泣きながら走り去っていくような物凄い剣幕で暴言が飛んでくる。
……『普通の子供』なら……。
「うわぁ、凄いや!侮辱・脅迫の複合タイプの暴言だ!
…どんな結晶ができるかなァ!
あの、おじさん。僕、感動しました!中に入れてください!」
……そう、『ボウゲントレーナー』は『普通の子供』ではない。
日々の阿鼻叫喚のボウゲンバトルにさらされ、暴言に対する耐性が出来上がっている。
いや、耐性などという生易しいものではない。暴言を求めているのだ。
『あァ~!これだから最近のガキはよォ!…ったく。
兎に角ここはガキの遊び場じゃねぇ!帰れ帰れ!』
そう言われ、通話が切れようとするその刹那、まさとしくんのクーラーボックスが内側からブチ開けられる。
「ワレェ!コラぁ!開けんかいボケぇ!」
クーラーボックスの中からアルチュウが怒声を張り上げる。
『何じゃいワレェ!おどりゃ極道舐めとんのかコラぁ!
カタギ風情が本職に盾突くたァ、いい度胸じゃねえかコラぁ!』
完全に相手の逆鱗に触れたらしく、凄まじい脅迫がスピーカー越しに聞こえる。
「やかましいボケぇ!はよ開けェ!」
アルチュウが鉄のシャッターを拳で叩く。
小ぶりな体に似合わず、物凄い重量を感じさせる鉄拳だ。
ドォンという大きな音があたりに響く。
向かいの民家のカーテンが閉まり、ワンワンと犬の鳴き声が聞こえる。
『ほーゥ、ええ度胸じゃのぉワレェ、コラぁッ!…よし分かった、そこまでぬかすなら入れちゃるわいボケぇ!
開けに行ったるけェ、待っとらんかい!ケツ捲って逃げるんじゃねぇぞコラぁ!』
なんと、ジム所に入れてくれるのだという。
……やった!
まさとしくんは、ウキウキして待つ。
待つ間も、アルチュウは「開けんかいワレェ!」と罵声をあげながら、シャッターをガタガタと揺すっている。
ギィ……という重厚な音を響かせ、シャッターが開く。
その奥には、黒いスーツに身を固め、サングラスをかけたパンチパーマの浅黒い男が仁王立ちに立っている。
肩をいからせ、こめかみには青筋を立てている。
……そこへアルチュウが噛みつく。
「ワレェコラぁ!もっと早う開けんかいボケぇ!」
扉は開いたというのに、アルチュウはまだ開けんかい開けんかいとがなり立てている。
小便を凍らせた、金玉の大きな狸のような黄色い氷の結晶が暴言をまくしたてているのを見て、このパンチパーマの男はサングラス越しにも分かるほどに目を丸くする。
「ハァ~ッ!…最近のガキは面白いモン持っとるのォ!
なあ小僧、これが話題のエーアイっちゅうやつけェ?」
パンチパーマの男は興味深そうに尋ねる。
「いいえ、これは僕のおしっこです。」
まさとしくんは、丁寧に答える。
するとこのパンチパーマの男はガハハハッと豪快に笑うと、まさとしくんを事務所に招き入れる。
「気に入ったぞ小僧!面白い事ォぬかしよるのォ、おどりゃ。
どれ、ちいと中に入らんかい!ウチの親父に会わしてやらァ。」




