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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
伝説のボウゲン
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老害系のボウゲン⑥

……すごい!

今までのアルチュウも強かったけど、なんだか今のアルチュウは……まるで別人みたいだ!


「なぁ〜んやら、偉そうな事を抜かしとったがのぉ。

ワシらが身体かけとるボウゲンバトルには、ワシらの作法があるんじゃい!

骨壷から抜け出してきたような老害が何やらガタガタ抜かしとったが、ナンボのもんじゃい!

ワレェ!ワシらの作法にアヤぁ付けよるたぁ、どういう了見じゃいコラァ!!」

アルチュウの暴言の詠唱が進むごとに、足元の代紋魔法陣からは稲妻とともに光の粒子が立ち昇り、あたりを埋め尽くしてゆく。

その光に当てられ、覇道系に返り咲いたキングクミチョーが発していた老害波が、霧散してゆく。


「あっ……あれは、スキル『主権宣言』。

──古い体制を否定し、自分の基準で上書きする、体制破壊系の暴言。

間違いない。アルチュウは、進化したんじゃ。

アレは、閉塞した古い体制に引導を渡し、新時代を築く革命のボウゲン……『アルツィン』じゃ!」


……えっ?アルツィンだって……?

まさとし君は、アルチュウだったボウゲン……アルツィンを見つめる。

あれだけ重苦しくのしかかっていたキングクミチョーの老害波を消し去って尚、消耗した様子はなくピンピンとしている。

対するキングクミチョーは、アルツィンの口撃により権威を失い、再び老害系に転落させられ、忌々しそうにアルツィンを睨みつけている。

……その身体からはダラダラと溶けた小便が伝い、足元に小便の水たまりを作っている。


「……こん腐れ外道がぁっ!」

キングクミチョーは、再び拳銃の結晶を構える。

「アルツィン!気をつけろ!また、『粛清』が来るぞッ!」

まさとし君は、声の限りに警告する。

しかし、アルツィンは全く臆した様子もなく、ステージ上に転がっていたポリタンクにちょこんと飛び乗ると、堂々と言い放つ。

「撃てるモンなら撃ってみやがれヘタレがぁッ!

ワシらの流儀じゃ、ンなもんルール違反じゃい!

チャカに頼らんとなぁんにも出来ん無能が、イキがっとるんじゃないわい!!」


その言葉に、キングクミチョーは手を出すことが出来なくなる。

発砲すればアルツィンは倒せるかもしれないが、それをやってしまうと暴言によりアルツィンを屈服させることが出来ず掟破りのチャカに頼った外道であることを自ら認めることになる。

かと言って撃たなければ、キングクミチョーの権威は地に落ちる。

もはや、何をしても詰みである。

キングクミチョーは、自らの敗北を悟る。


アルツィンは、腰に手をかけ、徳利を手に取る。

そして徳利に口を付け、そのままグビリと喇叭飲みする。

アルツィンの口から、一筋、酒が流れる。

「何じゃいワレぇ、シケたツラぁ晒しよって、酒が不味くなるじゃろうがい。

……どや?おどれも一杯やるか?

その前にピザでも買って来んかい!腹が減ったんじゃけェ。」

余裕綽々の表情で酒を飲むアルツィン。意味不明な事を言う。

カラフルに光る足元の幾何学模様が、アルチュウの余裕の表情を際立たせている。


「ほう、『先制飲酒』か。

あの技は、老害系には効果抜群じゃ。

……序列を、破壊してしまうけェの。」

ボウゲン博士は解説する。

──老害系または、それと表裏一体の覇道系にとって、酒に口を付ける順番は、組織内の序列そのものである。

最上位者は、その威光を示すため、数日間かけて練った乾杯口上を詠唱することで、自らの名の下に下位者の飲酒を解禁する。

これは上位者が上位者であることを定義する神聖不可侵の儀式であり、上位者にのみ許された特権だ。


しかしアルツィンは、この乾杯口上の詠唱を破棄。『粛清』に失敗して瀕死のキングクミチョーの前で、これ見よがしに酒を飲んでみせた。これは、『お前の飲酒のタイミングは俺が決める』というのと同義だ。

本来であれば老害系スキルの『説教』を詠唱することで作法の逸脱を糾弾し、この先制飲酒で演出された序列をひっくり返すことが出来るが、『粛清』の失敗で下手を打ったキングクミチョーにはもはや、打てる手はない。

……この瞬間、キングクミチョーより上の序列にアルツィンが君臨することが、確定した。


キングクミチョーはもはや、輪郭を維持できない程に消耗している。

ダラダラと表面が溶けて小便に戻り、バシャバシャと床に垂れ落ちて水たまりを広げている。


「のォ、白骨死体。

老婆心で言うてやる。……おどれ、今、惨めやろ?

分かるで。傍から見とっても、見てられんからのォ。」

チビチビと酒を飲みながら、アルツィンはふてぶてしく言い放つ。

直立不動でアルツィンの前に突っ立っているキングクミチョーは、何も返すことが出来ない。


「……これをやる。使うかどうかはおどれが考えんかい。」

最後にゴクリと一口、酒を嚥下したアルツィン。

キングクミチョーに、刃物のような結晶を生成し、投げて渡す。

「むゥッ!あれは……『ケジメブレード』かッ!!」

ボウゲン博士は、息を呑む。


──ケジメブレード。それは、下手を打ったボウゲンが、自らの命と引き換えにその名誉を回復する、贖罪と赦しの刃だ。

自らの過ちを認め、その証として指を詰めることで、男らしく見事に散った者として記憶され、敗北や失態はリセットされるどころか、信義に殉じた者に昇華することが出来る。

これを使えば、キングクミチョーはその名誉と引き換えに、ボウゲンとしての命を終える。

しかし、年長者の最後の仕事は、舞台を去り、後進に道を譲ることだ。

……アルツィンは、ただ惨めに敗死させるのではなく、その花道を用意したのだ。


「まぁったく、若いモンにこれだけ気ィ使わせるたぁ、ワシもヤキが回ったもんじゃ。」

キングクミチョーは観念したように天を仰ぐと、ボソリと呟く。

その足元の代紋魔法陣から立ち昇る光は、穏やかだ。


そして、再び前を見る。

眼窩の奥にはぽっかりと漆黒の闇がのぞき、その表情はうかがい知れないが、どこか、清々しい様子で、ケジメブレードを手に取る。


「ええか、おどれらァっ!

よう見さらせッ!……これが、漢のケジメっちゅうモンなんじゃけェ!!」

ケジメブレードを左手の指に当てた瞬間、キングクミチョーの身体は紫色の光に包まれる。

そして、その光は蛍のような粒子となり、空へと散ってゆく。


その姿は、美しくも、神々しかった。


****************************************************

「まったく、君にはかなわないよ、まさとし君。

喧嘩腰罵倒会、折角僕が優勝したのに、美味しいとこは結局君が全部持っていっちゃった。」

しげはる君は、軽口を叩いて、まさとし君の肩を叩く。


「……ホント、イテマウドンを助けてくれてありがとうね、まさとし君と……アルチュウ。」

そして、まさとし君の肩に下がっているクーラーボックスに、目を落とす。

……信じられない強さを見せつけ、キングクミチョーを倒したアルツィン。

しかし、『先制飲酒』のスキルで深酒をやってしまったのが効いたようだ。

キングクミチョーが消滅すると同時に前後不覚となり、床にぶっ倒れて小便を漏らした。

アルツィンは結局、元のアルチュウに戻り、まさとし君のクーラーボックスに入れられている。


「フフッ!色々あったけど、いいバトルができたね。

……世の中には、とんでもなく強い暴言がいることが分かった。

まだまだ、アルチュウ達には強くなってもらわなきゃだね。

明日からまた、特訓の相手、お願いね!」

そしてまさとし君は、しげはる君に右手を差し出す。

まさとし君の最高のライバルは、ニッコリと微笑むと、まさとし君の手を取り、堅く握りしめる。


その後ろで、ボウゲン博士達は警官隊に取り押さえられている。

「何さらすんじゃいワレぇ!アヤぁ付けるんも大概にせェやこの腐れポリぃ!

賭博罪か?ンなもん、この三店方式じゃったら成立せんことは、おどれも納得しとったじゃろうがい!

おどれもサツなら、そこんとこキチっと筋通さんかい!!!」

屈強な警察官に羽交い締めにされたボウゲン博士の手に、ガシャンと手錠がかけられる。


「兄貴の言う通りじゃいボケぇ!

ワシらはこれまで、世界の危機を救っておったんじゃぞ!ちったぁ敬わんかい罰当たりがぁっ!!」

そしてその隣では、草野組長が関節を固められている。

抵抗虚しく、草野組長の手にも手錠がかけられる。


「この野郎テメェ、状もねぇのに何をしくさるんじゃいボケぇ!!

こがぁ筋の通らん事、なんぼワシらが極道でも許される思うとんのかい!!」

地べたに組み伏せられたボウゲンファイターは、建前上自分たちは破門されてカタギに戻っていることを忘れて怒鳴り散らしている。


「自分の胸に手ェ当てて考えんかい!

こがぁ、買い物客賑わうモールの中で堂々と立ち小便なんぞ弾きよって!

猥褻罪と、軽犯罪法違反の現行犯じゃい!!

……余罪はキッチリ追及させて貰うけェの!」

額に青筋を立てて怒鳴り散らす警察官にしょっ引かれ、ボウゲン博士たちはモールの外に連れ出されてゆく。


「しげはるゥ!まさとしィ!

こりゃあ陰謀じゃァっ!小賢しい別件逮捕じゃ!

じゃけんど、ワシは負けんぞッ!すぐ出て来るけぇ、また遊びにこいやァッ!!」

ボウゲン博士は、大声を張り上げてまさとし君たちに呼びかける。


「警察舐めんじゃねぇ!キッチリ起訴しちゃるけぇ、覚悟せんかいバカタレがぁっ!!」

その声を最後に、一行は自動ドアの向こうに消えていった。

ドア越しに、パトカーのサイレンの音が遠ざかっていった。


「博士、また、捕まっちゃったね。」

「おじいちゃん……。」

まさとし君としげはる君は、暫くの間、博士たちが出て行った自動ドアの向こうを見つめる。


「帰ろっか、アルチュウ。」

まさとし君の呼びかけに、クーラーボックスの中から小さくゲップが聞こえた気がした。


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