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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
伝説のボウゲン
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老害系のボウゲン③

……クソっ、これまでか。

しげはる君は舌打ちする。


表皮が溶け、小便に戻ってダラダラと床に垂れる。

溶けすぎて一回り小さくなったイテマウドン。満身創痍で、単騎、キングクミチョーに対峙している。

もはや、消滅一歩手前まで消耗している。

並のボウゲンならとっくにクーラーボックスに帰還しているほどの重傷を負いながらも、イテマウドンは気合いで立ち、キングクミチョーに向かってゆく。


「もういい、戻れッ!イテマウドン!君はもう十分やった!

このままじゃ、君が……消えてしまうッ!」

無念の思いを滲ませながら、しげはる君が声を張り上げる。


しかし、イテマウドンは、動かない。

最後の力を振り絞り、口を開く。

消えかけていた代紋魔法陣。その幾何学模様から真っ赤に焼ける光の粒子が立ち昇り、爆炎を轟かせる。

「調子乗ってんじゃねぇぞ腐れ遺骨、コラァ、テメェ!!

……バイショックス。オラァット。アイツらは、ワシの舎弟じゃ。

ワレェ!おどりゃ、ようもウチの若い衆に手ェかけてくれたのぉ!!!」

そしてその右手に、匕首のような結晶を生成し、果敢にキングクミチョーに突っ込んでゆく。


「失うモノの無い奴を舐めんじゃねぇ!

死にさらせ、クソボケがぁっ!!!」

……懲役覚悟の捨て身の大技、『テッポウダマチャージ』だ。

キングクミチョーの喉元にドスを突きつけながら、イテマウドンは唾を飛ばして恫喝する。


そしてそこで初めて、キングクミチョーに動揺の色が現れる。

頭部の髑髏の表面がわずかに溶けて小便に戻り、ポタリと一滴、床に落ちる。


「おぉ!やりよったか、イテマウドン!!

……そうじゃ。あれが覇道系の弱点属性。失うものがない奴、つまりは『無敵の人系』の属性じゃ。」

ボウゲン博士は、小さくガッツポーズをとる。


──覇道系の暴言。これは、『老害波』による過去の威光を振り翳し、序列を確定させ、発言の内容による議論ではなく、立場の上下で勝敗を決するルールに書き換えることが本質だ。


しかし……『序列』を成り立たせるには、条件がある。

それは、相手が、「まだ上に行きたい」という意思があること。

それは、相手が、「評価されたい」という欲を持っていること。

それは、相手が、「立場、名誉、未来、そして居場所」などに執着があること。

つまり、『失うものがある』相手にしか、序列は成立しない。


ならば、今のイテマウドンのように、全てを投げ出してヤケクソになり、失うものがない相手に対してはどうか……

そう、『序列』が成立しないのだ。

覇道系の戦いは、過去の威光を振りかざして自らのルールで秩序を作り変えることが基本戦略ではあるが、その秩序の外にいる者……失うもののない、『無敵の人』に対しては、老害波も、過去の威光も役に立たない。


イテマウドンは、ドスを手に、ニィっと笑う。

……しかし、イテマウドンの力も、ここで尽きた。


「ほう、ええツラをしとるのぉ。

これまでの雑魚とは、心構えっちゅうヤツが違うようじゃのぉ。」

キングクミチョーは、喉元にドスを食い込ませながら、口角を上げる。

そして、続ける。


「……思い出すのォ。

ありゃ、雪の降る日の晩のことじゃった。

組の事務所の玄関を蹴り破ってくる奴がおってのォ……」

キングクミチョーは、小便の結晶にすぎない。

しかし、結晶化する際こめられた暴言は、伝説の極道、宇呂うろ たかしの肉声だ。

ゼロポイントフィールドを介して、宇呂うろの過去の功績と繋がっている。

キングクミチョーの語る物語は、宇呂うろの抗争史だ。


あれだけ威勢よくキングクミチョーに噛みついていたイテマウドンだったが、動くことができない。

そしてキングクミチョーの話が続くごとに、最後に残った精神力を消耗させてゆく。


「ぐぬぅ、このタイミングで、覇道系の必殺技、『武勇伝』がきよったかッ!

イテマウドンは……クッ、無念じゃ!」

ボウゲン博士は天を仰ぐ。

過去の栄光を物語化して相手に追体験させる『武勇伝』。

何の実績も無い者が使えば、それはただの与太話だが、キングクミチョー……宇呂うろのように、前人未到の輝かしい戦歴を持つ者の場合、話は別だ。


どんな支離滅裂な内容であっても、術者はそれで『死地を超えて生を拾っている』のだ。

迂闊に反論すれば、「あの状況を知らん奴が何を言うか。ならお前やってみろ。」になる。

無視すると、「黙りくさっとるいうことは、分かったっちゅう事じゃな。」になる。

肯定すると、「分かったなら黙っとけ。」と言われるのがオチだ。

……何をしても、術者の勝利となる。

この技の詠唱が始まった時点で、相手は詰んでいるのだ。


キングクミチョーの『武勇伝』の詠唱の中、イテマウドンは力なく崩れ落ち、そして静かに目を閉じる。

そして、その身体が青白い光に包まれてゆく。

「い、イテマウドンっ!!」

相棒の最期を目の前にして、しげはる君の身を切られるような悲痛な叫びが響き渡る。


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