老害系のボウゲン②
「その意気やよしじゃ、まさとしィ。
頼むで、おどれらが頼りじゃ。
アルチュウがおらんのが痛いが……頼む、あの外道を始末してくれや。」
そして、ボウゲン博士はキッとキングクミチョーを睨みつけ、トレーナー達に号令をかける。
「行けっ!あん外道のタマぁ、キッチリと取ってこんかいッ!」
まさとし君達トレーナー一同は、博士の号令でキングクミチョーを取り囲んで散開し、ボウゲンを突撃させる。
「行けっ!ヨロシオス!」
まさとし君の掛け声に合わせ、猫のような瞳孔をスッと細めたヨロシオスがキングクミチョーに飛びかかる。
「まあ……なんと無駄のないお身体。
肉という概念を、ここまで思い切って省かれる方、なかなかお目にかかれませんえ。
……おや、骨の隙間から向こうが見えますなぁ。中身まで空っぽとは、恐れいりましたわ!」
強敵を相手に、初手で強烈な皮肉系暴言を詠唱するヨロシオス。
代紋魔法陣が発光し、光の粒子が舞い上がる。
「ブチギレろ、オラァット!」
しげはる君も、オラァットを前に出す。
「ウゼェんだよカス!
消えろやバーカ!
死ねやアホっ!!!」
突発爆裂系のスキル、『三連逆上』。
爆炎を巻き起こしながら全方位に刺々しい言葉を敷き詰め、反撃の隙を与えず面で攻める。堅実かつ強力な攻撃だ。
「どうだ、やったか?」
「……いや、まだだっ。敵の口撃が来るぞッ!備えろッ!」
最前線で奮戦するボウゲン達の背後で、まさとし君やしげはる君、暴言トレーナー達は各自のボウゲンに声援を送る。
「ほう……。」
キングクミチョーは、突如自身を取り囲んだボウゲンの集団に驚くでも、狼狽するでもなく、顔色ひとつ変えず鷹揚に辺りを見渡す。
足元の幾何学模様がゆっくりと紫色の光を放つ。
「……で?誰に向うて吠えとるんじゃい。
偉そうなことは一人前の男になってから言わんかい。」
キングクミチョーの背後から、凄まじい威圧感のオーラが立ち上る。
「なっ……?」
そのオーラに当てられたヨロシオスとオラァットの動きがぴたりと止まる。
蛇に睨まれたカエルのようになり、動けない。足元の代紋魔法陣が急速に光を失ってゆく。
……序列が確定したのだ。
もはや、ヨロシオスやオラァットが何を言っても、野良犬が吠えている程度にしか響かない。
それを悟った二体の体表がダラダラと融解し、足元に小便の水たまりが広がってゆく。
「なっ、なんて威圧感なんだッ!」
立ち上るキングクミチョーのオーラに、しげはる君の髪の毛が風に煽られたように靡く。
「うむ、あれこそが『覇道系』の力の源泉、『老害波』じゃ。
あれは伝説の極道、宇呂 敬の言葉の残渣。
……キングクミチョーの暴言は、言葉には大して意味はない。語る内容は何でもいい。
みんな、あの『老害波』にやられてしまうんじゃ。」
──この世界の森羅万象はすべて、量子のゆらめきである。
そして、それはすべて──いまここに物質として存在するまさとし君の肉体も、その意識も、行動や結果も──量子の波動となり、『ゼロポイントフィールド』という場に、波動の干渉としてホログラム状の情報として記録される。
伝説の極道、宇呂 敬の過去の華々しい功績もまた、波動の干渉縞に変換された状態で、未来永劫ゼロポイントフィールドに保存される。
そしてこの、宇呂の『過去の栄光』の波動が、現実世界の暴言に干渉するとどうなるか……
『前人未到の華々しい実績』の重みが言葉の威力に加算される、というよりは言葉の内容を上書きする。
『この人が言うんだから間違いない』という雰囲気を作り出し、他者の全ての発言の価値を無効化する。
ひいては、この『過去の栄光』の波動が『カリスマ崇拝』の状態異常を引き起こし、批判的思考を麻痺させる。
これが、覇道系の暴言に常時発動される、『老害波』のスキルの原理だ。
──誰も聞いていない。
トレーナーの少年たちは、強敵を前に博士の講釈に付き合っているヒマはない。
「ああっ!ヨロシオス!」
「大丈夫か、オラァット!」
至近距離で老害波に当てられたヨロシオスとオラァット。
相手は一言も発しない。しかし、老害波の威圧を受け、輪郭を保持していられず、身体の融解が止まらない。
足元ではバシャバシャと音を立てて小便のシミが広がってゆく。物の数分で完全に溶けてしまいそうな勢いだ。
「くっ、これまでかッ!戻れ!」
もはやこの二体は戦闘不能だ。
まさとし君としげはる君は、クーラーボックスを開け、放心しているボウゲンを引っ込めた。
「もういい、戻れ!チンカスラッグ!」
「無念だッ!……退けっ、シカット!」
キングクミチョーの老害波を浴び、いたる所で戦闘不能が続出する。
死屍累々のバトルフィールドに仁王立ちするキングクミチョー。
その髑髏の眼窩には漆黒の闇が広がり、思考は覗えない。
足元の代紋魔法陣から、ヌラヌラと紫色の炎のような物がゆっくりと立ち昇る。




