喧嘩腰罵倒会 決勝戦③
……流石はしげはる君、僕のライバルだ。
アルチュウ、持ち堪えてくれッ!
まさとし君は、祈るような仕草をする。
アルチュウとイテマウドンの最終決戦。
実力が拮抗しているだけに、長期戦に突入している。
そして……実力の等しい相手との長期戦だけに、オラァットとの連戦となっているアルチュウには、厳しい。
スタミナ切れが目に見えてきた。
アルチュウの足元の代紋魔法陣が、急速に光を失ってゆく。
「ええかコラァ!調子に乗っとるとしばき倒すでワレェ!
まずはテメェのその無駄にでけぇ金玉から叩き潰したろうかい!」
金属バットのような棒状の結晶を生成したイテマウドン。素振りをしてビュウビュウ風切り音を立て、アルチュウを威嚇する。
連戦に消耗しているアルチュウは、つい、目を閉じてしまう。
……それどころか、体勢を崩し、ステージ上に尻餅をつく。
──大失点だ。
「相手は弱っているッ!畳みかけろ、イテマウドン!」
人差し指でアルチュウを指差し、声を枯らして指示を出すしげはる君。
ニヤリと、笑みを浮かべるイテマウドン。
金属バットの結晶を放り投げる。
「やぁれやれ、ワシゃとんでもないヘタレを相手にしとったようじゃわい。
こがぁ腑抜け、道具を持ち出すまでもないわい!」
イテマウドンの周りに立ち昇っていた地獄の業火は、燃料が切れたかのように勢いを弱める。
そうして、イテマウドンはそれから何を言うでもなく。軽蔑の目をアルチュウに向けて黙りこくる。
足元の幾何学模様の淡い光が、不気味にイテマウドンを照らし出している。
……あれっ?さっきのアルチュウのミスには、脅迫系の高密度の悪意を叩きつけてゴリ押しで畳み掛けるのが定石のはず。
イテマウドン、奴は、一体何を?
──まさかッ!
「気をつけろ、アルチュウ!……これは、口撃の隙じゃない。罠だッ!」
警告を発するまさとしくん。
……しかし、消耗したアルチュウに、その声は届かない。
「ほぉ〜ん、何やらカッコつけとるつもりかもしれんが、ようはブクブク太りすぎとるけぇ、腕が張ってその棒っきれ、振り回せんようになったんやろ?」
先ほどの失点を取り返そうと、アルチュウは残された力を振り絞って攻勢に出る。
雷鳴が轟き、激しく点滅する青い光が観客席の奥まで包み込む。
しかし、イテマウドンは、動かない。
「ま、ええ判断やないかい。
無理してさっきの棒っキレ振り回して、肉離れでも起こしよったら目も当てられんけぇの。
怪我せんように、そこの玩具屋で、軽いプラスチックのヤツ買うてやろか?おォ?」
アルチュウの体力も限界に近く、決着を焦るアルチュウは追撃をかける。
しかし、まだイテマウドンは、動かない。
じっと目を閉じ、表情を変えないでいる。
「わりゃオツムの足りんアホじゃが、その判断ができたことだけは褒めてやるわい。
さ、あとはマスターと一緒に家に帰って……」
その瞬間、カッとイテマウドンの目が見開かれる。
イテマウドンの足元の代紋魔法陣が赤色の閃光を放ち、瞬間的に光の粒子が立ち昇る。
修羅の表情を纏ってアルチュウに突進するイテマウドン。その後ろには、赤色の残影が幾重にも重なって連なる。
「オラァァアッ!!!
さっきから黙って聞いとりゃブチブチと舐め腐った事抜かしよって、ブチ殺すぞボケェッ!!」
アルチュウは、凄まじい剣幕で唾を飛ばしながらがなり立てるイテマウドンの気迫におののき、口を開いたまま固まっている。
ステージ上を爆炎が包み込み、プラズマモールの天井を焦がさんばかりに上空高く立ち昇る。
「なるほど、タメからの脅迫系の超必殺技、『イキリカチコミ』か。
発動のタイミングは完璧じゃのぉ。」
ボウゲン博士は解説席から、感心したように技の説明をする。
「タメに入ったタイミングは、少しばかり危なっかしいと思うとったが──マスターのまさとし選手は気づいておったようじゃがの──アルチュウは、疲労もあって、勝ちを急ぎすぎたようじゃな。」
賭け札……ニコニコメダル預かり券を握り締め、狂喜している者に、落胆のやけ酒を煽るもの、ここからの大逆転を信じて手を合わせて拝む者。観客席は一気に盛り上がる。
「何じゃいワレェ!さっきはワシがあの棒っキレを振り回せねぇとか、好き勝手抜かしてくれたのぉ!!
ほな、試してみるかコラァ!
……見さらせッ!ドタマぁカチ割ってやらぁ!!!」
イテマウドンの手の中に、巨大な金砕棒のような結晶が生成される。
トゲトゲの鋲の打たれた棍棒に、アルチュウは尻餅をつく。
そして地獄の業火を身に纏ったイテマウドンの全身を覆う棘が長く、鋭く伸び、頭にも二本のツノのような棘が生える。
……もはや、アルチュウには戦いを続ける力は残っていなかった。
戦意を喪失したアルチュウ。トボトボと、まさとし君のクーラーボックスに帰っていく。
「そこまでっ!
勝者、しげはる選手のイテマウドン!」
ボウゲンファイターの、試合終了を告げる掛け声がプラズマモールに響き渡る。
一瞬の静粛ののち、割れんばかりの喝采が店内を包み込む。
呆然と立っているしげはる君の元に、まさとし君が駆け寄る。
そして、その手を握りしめる。
「おめでとう、しげはる君!
……君を倒せなかったのは残念だけど、負けた相手が君だったのが救いだよ。
初代チャンピオンの栄冠は君に譲るけど、二代目は僕だ。
それまで、絶対に他の誰かに負けるんじゃないよ!!」
我にかえったしげはる君の目から、涙がこぼれ落ちる。
「そうか……!僕は……イテマウドンは、やったのかッ!
ありがとう、まさとし君!今日は最高の日だッ!」
そしてそれだけ言うと、顔を覆い、男泣きに勝利の嬉し涙を流す。
その肩をバシバシと叩き、勝利を讃えるまさとし君。
しげはる君の右手を取り、高く掲げる。
会場は再び、喝采に包まれた。
「おめでとう、しげはる君!」
緒戦で敗退したトレーナー達が、優勝したしげはる君に賛辞を送る。
「いんや〜、メダル5枚スッてもうたわい!じゃけんどええモン見さしてもろたわ!
安っすい見物料よ!ホンモノの男と男の絆っちモンを拝ましてもろたんじゃけぇ!」
大一番で予想を外した博徒も、どこまでも爽やかなまさとし君としげはる君の友情に感激して賞賛する。
「ようやった!しげはるぅ!おどりゃワシが見込んだ男じゃけぇのぉ!
……しっかしちぃと飲みすぎたな。漏れそうで限界じゃが、表彰式までは持つかいのぉ?」
草野組長は、しげはる君を讃えながらも、不穏な事を口走っている。
洞括斎先生は酔い潰れ、床でいびきをかいている。
その周りには、草野組長と一緒に飲み干した紙コップが散乱している。
飲み残した焼酎水割りの氷が、カランと音を立てる。




