喧嘩腰罵倒会 決勝戦②
「オーイ、ビールくれや、ビール!!」
草野組長が、上機嫌で声を張り上げる。
たちどころに、呂敬統会がケツをもつ、『スナックゆーりん』の出張屋台のボーイがすっ飛んでくる。
「オウ、一番デカいコップで持ってこいや。釣りはいらねぇ!」
仰々しいクロコ革の長財布から一万円札を取り出した草野組長。
ありがとうございますと受け取ると、ボーイの体が青白い光に包まれる。
次の瞬間、ボーイの輪郭が揺らぎ、姿が消えたかと思うと、なみなみとビールの注がれた紙コップを手に、再び草野組長の前に現れる。
──太客からの法外なチップを受け取ること数十回。莫大な報酬を触媒に、このボーイは瞬間移動のスキルを開花させていた。
「あのー、親分さん?あんまり飲みすぎますと、肝心なところでトイレに行く羽目になって、試合を見逃しますよ?」
籾芥子先生は、さっきから数リットルは呑み続けている草野組長を嗜める。
「あァ?その辺で弾いたらいけんのかい?」
『呂敬統の狂犬』の二つ名を持つ草野組長。平然とモール内での立ちションを宣言する。
「ダメに決まってんでしょ。軽犯罪法違反です。せっかく執行猶予付いたんだから、自重してください。
……それより、組長。この勝負、どう見られます?」
籾芥子先生の指差す先では、まさとし君のアルチュウが、しげはる君のイテマウドンと対峙している。
初戦は、まさとし君のヨロシオスの勝利に終わったが、次のバトルでしげはる君のオラァットがヨロシオスを瞬殺した。
ヨロシオスが長ったらしく皮肉系の暴言を詠唱している間に、「死ねや」「うっせ」と、突発爆裂系の暴言で口撃を成立させる前に葬り去った。
その後、ヨロシオスと交代したゴクツブシがパワハラ系暴言を連発するも、全く歯が立たず、二連勝。
三番手のアルチュウが侮辱系スキル『境界知能認定』でようやくオラァットを沈めたところだ。
草野組長は、ぐびりとビールを飲み干すと、紙コップをくしゃりと握りつぶす。
「……勝ちは、しげはる。」
ボソリとそれだけ言うと、スナックゆーりんのボーイを呼び、水割りを注文する。
「……それは、どうしてです?」
籾芥子先生は、怪訝そうに問う。
カランと、草野組長の手の中の紙コップで、氷が鳴る。
草野組長は、籾芥子先生の方を向き、ニカっと微笑む。
「カンじゃよ。」
ステージ上では、アルチュウから立ち昇る青色の光と、イテマウドンから立ち昇る赤い光がぶつかり、境界でバチバチと空気の爆ぜる静かな音を立てている。
****************************************************
……まったく、やってくれるね、しげはる君。
これだから、ボウゲンバトルはやめられない!
突発爆裂系のオラァットを前に二体立て続けに撃破されたまさとし君。
三番手のアルチュウの渾身の一撃でオラァットを葬り去ったものの、相応のダメージを受けている。
アルチュウの体表が液体の小便に戻り、閻魔王の彫り物が艶やかな立体感を放っている。
……だけど僕のアルチュウは、負けないよ!逆境でこそその真価を発揮する、最も純粋なる小便の中の小便だ!
「相手は強い!気をつけろ、アルチュウ!」
まさとし君の応援が、アルチュウを鼓舞する。
……流石はアルチュウだ。何度戦っても、勝ち筋が見えない。
だからこそ、君は僕を熱くする!
三番手のイテマウドンを繰り出したしげはる君。
先ほどのオラァット戦で多少の消耗は見えるが、そんなものは大した問題ではないことは、これまでのライバルとしての戦いの中で身に染みて分かっている。
……気を抜くな、イテマウドン。お前はここでアルチュウを下し、全ての小便を従える王となるんだッ!
「イテマウドン、僕は君を信じる!全力で行けッ!」
しげはる君の渾身の応援に、会場の空気も一段とヒートアップする。
アルチュウと睨み合っていたイテマウドンの姿がゆらめき、一瞬のうちにアルチュウの半歩先に移動する。
額をピッタリとくっつけ、唾を飛ばしながら凄まじい剣幕で啖呵を切る。
「オラァっ!金玉タヌキぃッ!
ワレェ、誰の許可取ってそがぁ生意気なモンモン入れとるんじゃい!
調子こいてんじゃねぇぞコラァ!!」
イテマウドンの脅迫系スキル、『因縁を付ける』が炸裂する。
爆炎が辺りの空気を震わせ、観客席に赤い光を投影する。
「あァ?コラァ!……何じゃい、誰かと思えばいつぞのメタボ亀やないかい!
そういや、こないだお前に似たやつの腹に龍の彫り物彫ってやったが、そいつ、彫ってもらう時に痛い痛い言うてピィピィ泣いとってのぉ。情けのうて見ておられんかったわい。
……おんやぁ?おどれのその腹の龍、見覚えがあるが、人違いかいのぉ?」
アルチュウは相手の過去を何度でも掘り返して当て擦る侮辱系スキル、『エターナル擦り』で応戦する。
アルチュウの足元を中心に、ステージの床を伝線するように稲妻が走る。
お互い、初手の大技を浴び、精神ダメージにより体表が少し溶けて小便に戻る。
互いの暴言が炸裂するたびに、小便の飛沫がステージ上に飛び散る。
「さあッ、お互いこれが最後のボウゲンだッ!
この戦いに勝利したトレーナーが、栄冠を手にする。
最後に笑うのは、まさとし選手か!?しげはる選手か!?」
ボウゲンファイターの実況に、買い物客も足を止め、ステージ上の二体の小便の結晶に見入る。
「まさとし選手のアルチュウは侮辱系。そしてしげはる選手のイテマウドンは脅迫系がメイン属性じゃ。
二体とも、このボウゲンバトル黎明期から戦い続けている原初のボウゲンにして、宿命のライバル。
技のアルチュウに力のイテマウドン。……勝敗は、ワシにも読めん。」
ボウゲン博士の解説に、観客席の博徒達は賭け札……ニコニコメダルの控えを握りしめる。
「オーイ、焼酎ロック2杯!」
ボーイに一万円札2枚を握らせる草野組長。
「ほな、乾杯じゃ、先生。」
洞括斎先生に紙コップを一つ渡し、草野組長はゴクリと喉を鳴らす。
「……そんなに飲んで、酔っ払ったりトイレに行きたくなっても知りませんよ……。」
ひっきりなしに酒を飲み続ける草野組長を、呆れたように横目に見る籾芥子先生。
「お、親分さん……ワシゃもう……オゲェェッ!」
草野組長と同じペースで付き合わされている洞括斎先生は、ついに盛大に口から色々な酒の混じった液体を吐き出し、床にぶっ倒れる。
プラズマモールを熱狂の渦に包みながら、最終決戦が進行する。




