喧嘩腰罵倒会 決勝戦①
「やはり決勝での僕の相手は君か、まさとし君。
……嬉しいよ。君は僕の最高のライバルだからね。
ボウゲンバトル界の頂点、この喧嘩腰罵倒会で──君を倒す!」
しげはる君は、クーラーボックスのスナップに手をかける。
「僕も、最高の気分さ!
望むところだよ、しげはる君!
──さあ、思う存分、やろうじゃないか。ただし僕は、負けないよ!!」
まさとし君もまた、肩からかけていたクーラーボックスを床に下ろし、蓋を開ける。
「行けっ!バイショックス!!」
「沈めてこい、ヨロシオス!!」
二人同時にクーラーボックスの蓋を開け放つ。
モクモクと冷気が立ち上り、ステージを包む。
霞むステージの上に、生足の生えた鯨のようなボウゲン……バイショックスと、薄汚い野良猫のようなボウゲン……ヨロシオスの影が現れる。
「さあっ!始まりました、喧嘩腰罵倒会のフィナーレを飾る最終決戦、決勝戦の開幕です!
赤コーナーのまさとし選手、青コーナーのしげはる選手共に、ボウゲンバトル黎明期からの戦歴を誇る、歴戦のトレーナーだッ!
どちらが栄冠を手にするのか……先の読めない、目の離せない大一番ですッ!」
ボウゲンファイターの実況にも熱が入る。
「決勝戦は、手持ちのボウゲンが全滅するまで交代させて戦わせる、殲滅戦じゃ。
しげはる選手もまさとし選手も、手持ちのボウゲンは三体。貫目も互角。
本当に、どちらが勝つか、読めない戦いじゃ。」
ボウゲン博士の解説に、観客席のヤクザ……コワモテのお兄さんたちは、賭けたメダルの控えを握りしめる。
「親ッさん、お勤め、ご苦労様です。」
観客席の一角が一斉に立ち上がり、最敬礼の姿勢で腰を折る。
その中を、紋付袴に身を包んだコワモテの男と、その後ろを黒い作務衣に身を包んだ男が鷹揚に手で挨拶を返しながらゆっくりと歩いてくる。
さらにその後ろから、ピンストライプのスーツに身を包んだ狡賢そうな男が猫背でヒョコヒョコと歩いてついてくる。
そして、この奇妙な一行は、観客席の最前列、周りのパイプ椅子より格段に上等な、革張りの椅子にどかっと腰を下ろす。
「オウ、坊ちゃん方ァ!応援に来てやったけぇ、気張りぃや!」
先日まさとし君達に3つ目のバッジを授けた、暴力団草野組の草野組長だ。
「あぁ、メダル屋さん。ちょっといいですかな?
『記念メダル』を2枚、頂けますかな?……ええ、二人とも2.0倍、両方に張っても意味がないのは分かりますよ。
師匠とお客……二人とも応援する意味で、一山張らせていただくだけですから。」
ニコニコメダル販売の屋台の小僧を呼びつけ、記念メダル……という名の賭博チップを買っている作務衣の男は、彫師の墨鬼・洞括斎先生だ。
「ちょっと先生、今日はやめておきましょ。
……アンタ、執行猶予中なの、分かるでしょ。草野さんといい、今日の大舞台に間に合うように地裁と掛け合うの、大変だったんですから……。」
釈放早々に賭博をおっ始め、執行猶予を潰しかねない洞括斎を慌てて制止しているのは、人権派弁護士の籾芥子先生だ。
先日ボウゲン博士と一緒に草野組長、洞括斎先生が猥褻罪で逮捕された際、起訴猶予を勝ち取るため奔走したが、草野組長は現役の反社のボスであったことから、洞括斎先生は逮捕時に通行人に局部を見せてしまったことから、この二人はがっつり起訴されてしまった。
……それでも籾芥子先生の尽力により、実刑は免れ、出所もなんとか喧嘩腰罵倒会決勝戦には間に合った。
「あっ、リーダー!見にきてくれたんですね!ありがとうございます!」
まさとし君は、ステージ上から草野組長達に手を振る。
「正々堂々やらせてもらいます。恥ずかしい戦いはしませんので、応援してくださいね!」
しげはる君もまた、ステージ上からちょこんとお辞儀をする。
そして、観客席は、静まりかえる。
どちらが先に動くか。
ステージ上のボウゲンの一挙手一投足に、観客席の視線が集まる。
睨み合う両者。
その時、ステージ上に目のくらむような閃光と共に、稲妻が走る。
「ワレぇ!こんクソ野郎、誰のせいか分かっとぅのかい!!」
バイショックスの怒号が、静粛を破る。
「ええかコラぁ!おどれがこがぁこの世の終わりみてぇな大会に出よるけェ、ワシまでこうやって駆り出されとるんじゃろうがいッ!
こりゃあ強制連行じゃ!どう落とし前付けよるんじゃい!
誠意見せェ!詫び入れェ!ゼニ包んで持って来んかいボケぇ!!」
被害者系の暴言を詠唱するバイショックス。
ヨロシオスの額から、汗のように、溶けて液体に戻った小便が伝う。
「さあ始まりました決勝戦!
しげはる選手のバイショックス、初手は『因縁を付ける』口撃だっ!
恥も外聞もかなぐり捨て、相手が非を認めるまで粘着する連続攻撃の構え。
はたして、まさとし選手のヨロシオスは、抜け出せるかッ!?」
ボウゲンファイターのアツい実況が観客席を大いに熱狂させる。
「まあまあ、それはそれはなんとも痛ましいどすなぁ。
お辛いでしょうし、入口と同じ道からお戻りになった方がよろしおすなぁ。
迷わはるといけませんさかいに、ワシ、旗持って道案内さしてもらいまひょか?」
体勢を立て直したヨロシオス。ドス黒い悪意を練り込んだ皮肉を返し、バイショックスの連続攻撃のループを断ち切る。
ヨロシオスの足元の幾何学模様から、白い光の粒子が立ち昇る。
一瞬ののち、ステージ全体を包み込むような閃光がほとばしる。
「ふむ、バイショックスのコンボ、『ムービングゴールポスト』を潰す一撃としては教科書通りじゃ。
……被害者系のボウゲンに対しては、どのような文脈であれ、加害を認めてしまうとそこから先は永久に謝罪と賠償をタカられる。
──ああやって、まともに取り合わず、丁重に関係を切っちゃうんが、被害者系への対処方法の定石なんじゃ。」
ボウゲン博士の解説に、観客席から「うまいぞ、ヨロシオス!」と声援が飛ぶ。
……やってくれるね、まさとし君。僕のバイショックスの必殺コンボは潰された。
だけど、まだ、勝負は始まったばかり。──次で決めるよ!
しげはる君の握る拳に、力が入る。
……ふぅ、危ないところだった。よくやった、ヨロシオス!
さすがしげはる君。君はいつも、僕を本気にさせる。
──覚悟しな。止まらないよ、僕のヨロシオスは!
まさとし君もまた、硬く拳を握り、ヨロシオスの戦いを見守る。
ボウゲンバトル界の頂上決戦、喧嘩腰罵倒会決勝戦。
その戦いは、熱く、激しく、会場のプラズマモールの空気を震わせていく。




