喧嘩腰罵倒会 二回戦①
「まさとし君、この大舞台で君に相まみえることが出来て、光栄だよ。
……思う存分、楽しもうじゃないか!」
試合前、りく君は、まさとし君に右手を差し出す。
「りく君。さっきの君の試合、しっかり見させてもらったよ。
君は、本当に強いトレーナーだ。……どうだい、僕の手が震えているだろう?
君みたいな強いトレーナーとの勝負が、楽しみで仕方ないんだ。
──さあ、やろうか!思う存分!!」
その手を固く握ったまさとし君。大一番を前に、否応なしに闘争心を高ぶらせる。
「盛り上がってまいりました、ボウゲンバトル界の頂上決戦、『喧嘩腰罵倒会』!
いよいよこのボウゲンバトル界のトップトレーナーにして、優勝候補の一角、まさとし選手の登場です!!
さあ、初戦を勝ちあがったりく選手!はたしてこの暴言界の大巨人を打ち倒せるのかッ!?
この一戦、目が離せません!」
ボウゲンファイターの実況にも力が入る。
喧嘩腰罵倒会開会から3時間。各ブロック初戦を終え、二回戦進出メンバーが出そろった。
そしてまさとし君はシード選手だ。
この大会最初の相手は、初戦でかなめ君を降した論理の新星、りく君だ。
「さぁ、張った張ったァ!まさとし選手、1.5倍!りく選手、3.0倍ッ!」
「おゥ、まさとしに3枚!」「コッチはりく2枚じゃ!」
注目の一戦だけに、観客席の熱狂も際立っている。
「りく選手のロジハラゴン、中々に珍しい論破系のボウゲンじゃ。
その強さは、先ほどの戦いで見た通りよのぉ。
対するまさとし選手のアルチュウは、先ほど敗れたボケカシウスと同属性の侮辱系。
じゃけんど……アレは百戦錬磨のボウゲンじゃ。その戦歴の中で、様々なタイプをサブ属性として取り込んでおるけェ、単純なタイプ相性だけで勝敗を推し量ることはできん。
……これはなんとも、行く末が楽しみな一戦じゃ。」
ボウゲン博士の解説に、観客席の観客達はカリカリとメモを取る。
「よし、アルチュウ!行ってこい!」
まさとし君の掛け声とともに、クーラーボックスの蓋が開く。
モクモクと白い冷気が立ち上ると同時に、クーラーボックスからノソノソと設樂焼きのタヌキのようなボウゲンが這い出てくる。
ステージに立ち上がると、やたらと大きな金玉をプルンと震わせる。
それと同時に、代紋魔法陣が稲妻のような電撃と共に青い光を放ち、アルチュウの顔を下から照らし出す。
「何じゃい、聞いたことある声じゃと思うたら、いつもの年金暮らしのハゲやないかい。
どうした?パチンコで年金溶かして実況のバイトでもやっとるんか?」
しかし、暴言を放った相手は対戦相手のロジハラゴンではない。
ロジハラゴンなど存在しないかの如く、解説席のボウゲン博士を見据えておちょくり倒す。
「……やってくれるのォ、アルチュウ。
ありゃ『空気認定』のスキルじゃ。本来対話すべき相手を前にして、それが存在しないかの如く振る舞い、関係ないヤツと話す。
相手の価値を普段気にすることの無い空気と同じレベルに叩き落とす、無視系の先制の一撃じゃ。」
冷静に解説するボウゲン博士だが、その額には青筋が浮かび、ピクピクと痙攣している。
「あ……あの本家の顧問の知り合いか、アイツ?あの方にあんな舐めた口を聞けるなんて……。できるぞ、アイツ。」
「しもうた。……反対側のヤツにメダル5枚ぶっ込んでしもうたわい……。」
アルチュウのキレの良い暴言に、観客席がどよめく。
「さすがまさとし君だ……。でも、負けないぞ!
行けっ!ロジハラゴン!」
りく君もまた、クーラーボックスの蓋を開く。
立ち上る冷気の中、ひなびた梅干しのような球体がゆっくりと浮上してくる。
ゆっくりとその一つ目が開くと同時に、足元に代紋魔法陣が浮かび上がり、緑色の光を立ち昇らせる。
「あのー、関係ない人を貶して勝った気になるの、やめてもらっていいっすか?
年金とかハゲとか言ってましたけど、それって今回の勝敗に、何か関係あるんですかね?」
一つ目ながら、軽蔑のこもった視線をアルチュウに投げかけるロジハラゴン。
その後ろで、緑色の粒子が数式のような模様を形作り、ロジハラゴンを取り囲むように渦を巻く。
ボウゲン博士は、「よう言うた!」という顔をしてロジハラゴンを見ている。
「ほう……あの浮かんどるヤツ、中々に弁が立つのぉ。」
「うむ、なんちゅうか、『ムカつく』のォ。敵に回しとうないタイプよのぉ。
……ま、ワシはアイツに張っとるけぇ、儲けさして貰おうかいのォ。」
ボウゲン博士の心に傷を残したアルチュウの暴言にも引けを取らない威力の、論破系のボウゲン。
観客席の興奮は、最高潮に達する。
「さあ、まさとし選手のアルチュウと、対するりく選手のロジハラゴン!
両者とも、気合十分、一触即発だッ!世紀のベストエイト戦の、戦いの火蓋が今、切って落とされるッ!
それでは、ボウゲンバトル、レディー、ファイト!」
ボウゲンファイターの掛け声で、アルチュウとロジハラゴンの戦いの幕が華々しく開いた。




