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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
喧嘩腰罵倒会
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喧嘩腰罵倒会 開幕戦②

「それでは、只今より、ボウゲンリーグ興業主催・喧嘩腰罵倒会 開会の儀を始めるぞッ!」

ステージ上の実況席、旧田ふるたと名乗るヤクザが、ドスの効いた野太い声ながら、子供に配慮した明るい口調で開会を宣言する。

「実況は私、ボウゲンファイターこと旧田ふるたが。

解説は、ボウゲン博士こと呂敬統会顧問、じゃなかった、ボウゲンリーグ興業専務取締役、大木おおきが努めてまいります。

それでは解説のボウゲン博士より、ルール説明だッ!」


「ボウゲントレーナー諸君、ボウゲンバトル界の頂点、喧嘩腰罵倒会へようこそ。」

ボウゲン博士は、真顔でマイクを握り、解説席に立ち上がる。

「本日のバトルは、トーナメント形式の勝ち抜き戦で進行する。

ルールは公式ルールにのっとった、小便の結晶一体対一体のタイマン形式。

予選は各自、一体のみ使用可能な一発勝負ルール。

決勝戦は、交代アリ、使用数無制限じゃ。」


ボウゲン博士からマイクを戻された、ボウゲンファイターが、口を開く。

「それではトレーナー諸君!これが本日の賞品だ!」

ステージ袖から出てきた若い衆が、中央に置かれた折り畳み机にかけられた幕を払う。

……そこには、何やらシールのようなもの、盃と三宝のようなもの、ボイスレコーダーのようなものが並べられている。


「第三位の賞品は、これだ!

『ドレスアップモンモンステッカー』だ!

このシールを君のボウゲンに貼れば、君の結晶にカッコいい彫り物が入って貫目も上がるぞッ!」

トレーナー席の小学生から、お~っ!という羨望の声が上がる。

例え100均で仕入れてきたタトゥーシールであっても、呂敬統会の代紋を入れて入賞賞品として渡せば、小学生男子にとってそれはドレスアップモンモンステッカーなのだ。


「続いて第二位の賞品はこれだッ!

『クミチョーサカズキ』、大会限定のレアアイテムだぞッ!

『アニキサカズキ』は君たちも持っているだろうが、これはその強化版だ。

中の酒……じゃなかった、『サカズキエーテル』の質が違うから、どんなボウゲンでも仲間に出来るぞッ!」

トレーナー席がざわつく。

「えっ、凄い!」「絶対欲しい!」

トレーナーたちは、羨望の目でクミチョーサカズキを見つめながら、歓声をあげる。


「そして……これが優勝賞品だッ!これはタダのボイスレコーダーじゃないぞ?

ここには、ヤクザの中のヤクザ、呂敬統会の会長……じゃねぇや、伝説のボウゲンマスター、『宇呂うろ たかしの啖呵が録音されている。

これを再生して君の小便を凍らせると……誰も見たことがない、伝説のボウゲンが誕生するぞッ!」

「うぉおお!凄いッ!」

トレーナー席の小学生は総立ちで大歓声を上げる。

宇呂うろ たかし……あった、この人か。うわぁ、凄い迫力だ!」

ボウゲンバトル公式バイブル本──と少年たちが勝手に思っている、任侠実話雑誌──を広げた少年が、呂敬統会の会長の写真の入ったインタビューのページを広げる。

紋付袴を身に纏った、いかついオールバックの男が、サングラス越しに睨んでいる。


「すごいや……コッチの意味でも、負けられない戦いだね!」

「そうだね……。負けないよ、まさとし君!」

まさとし君としげはる君もまた、うっとりしたような視線を豪華賞品に注ぐ。


「さーて、それではッ!みんなの今日の対戦相手の発表だ!」

ボウゲンファイターが、ステージの後ろにトーナメント表の書かれた模造紙を貼りだす。

まさとし君と、しげはる君は、シード選手扱いだ。


「それでは記念すべき開幕の第一試合!赤コーナー、りく君!青コーナー、かなめ君!

ステージに立って、スタンバイよろしくッ!」

呼ばれたりく君とかなめ君がステージに立ち、カチリとクーラーボックスの蓋をあける。

「おっ、この戦いの勝者が君の対戦相手だね、まさとし君。」

しげはる君がまさとし君に話しかける。

「うん、そうだね。楽しみだなぁ。……二人とも、頑張れ!」

屈託ない笑顔で、まさとし君は二人を応援する。


「用意はいいかッ?それじゃぁ、ボウゲンバトル、レディー・ファイト!」


ボウゲンファイターの掛け声で、手に汗握るボウゲンたちの戦いが、スタートした。


****************************************************

「行けッ!ボケカシウス!」

かなめ君の前に、ナマズのようなボウゲンが二本足で立っている。

足元の代紋魔法陣が青色に発光し、辺りに稲妻がバチバチと弾ける。


「頑張れッ!ロジハラゴン!」

りく君の前には、血管の浮き出た梅干しのような、一つ目のボール状のボウゲンがプカプカと浮遊している。

その足元には緑色の代紋魔法陣が広がり、立ち昇った光の粒子が空中に渦を巻く。


「さあッ!バトルステージに降り立ったボケカシウス選手、ロジハラゴン選手!

闘志をたぎらせて睨み合っている!先に動くのはどちらかッ?」

「ホウ、ボケカシウスは侮辱系、ロジハラゴンは……珍しいのォ、論破系のボウゲンじゃ。

どちらも気迫より、論理で責めるタイプじゃが、その勝負筋は全然違う。

タイプ相性は互角じゃのォ。」

ボウゲンファイターの熱のこもった実況と、ボウゲン博士の説得力ある解説に、観客席は大いに盛り上がる。


先に動いたのはボケカシウスだ。

「あァ、コラぁ!おどりゃ、ワシの目の前で蝿みてぇに飛び回りよって、目障りなんじゃいボケェ!

そがぁプカプカ浮かびよるいうことは、おどれの脳味噌、空気より軽いんかいコラぁ!!」

ボケカシウスは唾を飛ばしながら、空中浮遊するロジハラゴンに躙り寄る。

その凄まじい剣幕で詠唱される暴言と同期するかのように、代紋魔法陣が激しく点滅する。

その光は、十数メートルの高さのあるリノリウム天井を青く染め上げる。


ロジハラゴンは、ボケカシウスの暴言に動揺した様子はない。

冷静に、まっすぐにボケカシウスを見据え、静かに言い放つ。

「いや、空気より軽いっていう根拠はどこにあるんですかね?

浮いてる=脳みそ軽いって、論理的に繋がってないですよね。

……それって、ただの感想ですよね?」

自らを取り囲むように光の粒子で出来た幾何学模様を張り巡らせるロジハラゴン。

ボケカシウスの生み出した稲妻を中和してかき消し、緑色に激しく点滅する。


「さあ、喧嘩腰罵倒会の開幕を彩る第一撃。動のボケカシウスと静のロジハラゴンの対比が鮮やかです!

ボウゲン博士、両選手の口撃、どうご覧になられますか?」

「うむ、ボケカシウスの初撃は、『因縁を付ける』口撃じゃのォ。

これは脅迫系、被害者系のボウゲンでも共通じゃが、侮辱系の第一撃としては定石の、教科書通りの口撃じゃ。

この口撃に対する受け身は、同じ土俵に乗らないというのが定石なんじゃが、中々教科書通りにはいかん。

しかし論破系のボウゲンは、相手と同じ土俵に乗ったままで論理の隙や矛盾を突き、カウンターを撃ち込むことが出来る。

……あのカウンターは上手いのォ。ロジハラゴンは、強いぞ。」

実況席からの解説に、観客席が熱気を帯びる。


「かなめ君、いいぞー!」

「頑張れー、りく君!」

選手席に控える子供たちは、ステージ上でバトルを繰り広げるボウゲンのマスターに声援を送る。


「ワレぇ!ワシゃメダル5枚張っとるけぇのォ!下手ぁ打つんじゃねぇぞコラぁ!!」

「おいコラ予想屋ァっ!あんナマズ大丈夫なんやろなァ?外しよったらケジメ取らすでワレぇ!」

観客席からの応援にも熱が入る。


「だったら何じゃと抜かすんじゃいこのフライング金玉ぁッ!

……感想とか抜かしよったのォ。ええで、感想言うてやるわい!

浮かんだ金玉ごときが屁ぇこいた後の残り香みてぇな屁理屈垂れよっても、誰にも響かんのじゃい!」

「……いや、アンタ今、『響かん』って感想を言うてたじゃないですか。

感想を否定しながら、自分も感想で返すって矛盾してますよね。

つまり、アンタは自分の論理を自分で壊してるんですよ。」

ステージ上の二体の小便の結晶の鍔迫り合いも白熱してゆく。


「二人共、強いね、まさとし君。

……ボケカシウス。あれは君のアルチュウと同じ、侮辱系だ。侮辱系の強さは、僕も身をもって知っているからね。

そしてロジハラゴン。迫力みたいな怖さは感じないけど、何だろう……不気味だね。

この二匹の勝った方と君が戦うことになるけど……勝てそうかい?」

しげはる君がまさとし君に話しかける。

その顔は、ステージ上で罵り合っているボウゲンの放つエフェクトのカラフルな閃光に照らされている。


「うん、流石は、この喧嘩腰罵倒会にエントリーするような強者だ。

きっと、これまでにない難しい戦いになるだろうね。

──でも、やることは一つ。全力でぶち当たるだけだ!どっちが相手でも、負けないよ。僕のアルチュウは!」

まさとし君は、ニカっと笑顔を見せて爽やかに答える。

そして、次の自らの対戦相手の戦いを、真剣な顔でじっと見つめていた。


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