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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
喧嘩腰罵倒会
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喧嘩腰罵倒会 開幕戦①

「オラァァっ!こん糞ボケがぁッ!おどりゃ脳味噌が糞でできとるんかい!?」

週末の親子連れで賑わう、プラズマモールのアトリウム。

場違いな怒声が響き渡る。


「あ〜ん、怖いよ〜!」

三歳位の女の子が泣き叫ぶ。

「見ちゃいけません!……さ、行くよ!」

そして母親はその子を抱き抱えると、小走りで走り去ってゆく。


「いいぞっ!そのまま押せッ、ボケカシウス!」

毛深い足の生えたナマズのような小便の結晶、ボケカシウスのトレーナーの男の子が声援を送る。

「ええぞコラァ!ワシゃおどれに張っとるけぇのぉ、サッサとタマぁ取ったらんかい!」

ビールを片手に観客席に座っている、スキンヘッドにサングラスの男がヤジを飛ばす。


──ボウゲンバトル界の頂上決戦、喧嘩腰罵倒会。

小便の結晶による、胆力と知力の戦いの火蓋は、切って落とされた。


****************************************************

「ありがとう、お父さん。

……それじゃ、頑張ってくるね!」

走り去る父の車に手を振って見送る。


肩からクーラーボックスを下げたまさとし君は、郊外の商業施設、プラズマモールの入り口に立っている。

「よし!」

パチンと両の掌で頬を張り、気合いを入れる。

今日は、待ちに待った勝負の日、『喧嘩腰罵倒会』当日だ。


自動ドアの横に、紅白の幕が張られ、花輪が並んでいる。

『祝・喧嘩腰罵倒会開催 呂敬統会 本家』

『祝・喧嘩腰罵倒会開催 呂敬統会 岩本組』

『祝・喧嘩腰罵倒会開催 呂敬……

達筆な行書体の立て札が、それぞれの花輪に取り付けられている。

花輪の中央には、まさとし君の胸に輝くジム所バッジと同じ、トゲトゲの丸縁に暴の文字のロゴが太陽の光を反射している。


「みてー!お花きれい!」

小さな子供が指を指す。

「……はるなちゃん、ちょっと今日は別なお店にしよっか。」

顔を引き攣らせた父親が、その子の手を引いて引き返していく。


「……よし、行くぞ!」

まさとし君は自動ドアをくぐり、店内に足を踏み入れていった。


「えっと、会場は……。」

迷う要素はなかった。

アトリウムのど真ん中に、ステージが設営されている。

そして天井からは、達筆すぎて読みづらい行書体の『喧嘩腰罵倒会』の文字と共に、トゲトゲの丸縁に『暴』の文字のロゴ──暴力団呂敬統会の代紋だ──がしたためられた巨大な幕が吊るされ、ポップな内装の店内に異様なオーラを放っている。


そしてステージ前にはずらりとパイプ椅子の観客席が並べられ、そこには黒スーツや黒紋付に身を包んだ、どう見てもカタギではない人間がぎっしりと腰を下ろし、談笑している。


ステージには『喧嘩腰罵倒会・ボウゲンバトルステージ 提供:ボウゲンリーグ興業株式会社』というのぼりが建てられ、やり過ぎというくらいに目障りなLED装飾灯が点滅している。


ステージの右隣には、『ニコニコメダル販売株式会社』というのぼりの立っている屋台があり、コワモテのテキ屋の親父が店番をしている。


そしてステージの左隣には、『ジャパンエコリサイクリング株式会社』の屋台があり、パンチパーマに鉢巻きのテキ屋が店番をしながら暇そうにビールを啜っている。


「あっ、博士だ!」

紋付袴のボウゲン博士──いつ出所してきたのだろうか──の姿を見かけたまさとし君は、駆け寄ろうと半歩踏み出し、踏みとどまる。

何やら警察官と言い争っているようだ。


「ワレェ!おどれ、性懲りも無くこがぁ堂々と賭場ぁ開きよって!

今度という今度は実刑覚悟せェ!」

唾を飛ばしながらボウゲン博士を怒鳴りつける警察官。

遠巻きにスマホで動画を撮る買い物客の若者。


「あァ?おどりゃ、アヤぁつけるんも大概にせぇよコラァ!

『ボウゲンリーグ興業』は喧嘩腰罵倒会を主催するただの芸能事務所。

『ニコニコメダル販売』は、記念品のメダルが欲しい奴にメダルを売るだけ。

『ジャパンエコリサイクリング』は持続可能な社会に貢献する、メダルなんかの金属資源買取業じゃろうがい!

これのどこに博打の要素があるんか、説明できるんか?おォ?」

ボウゲン博士は一歩も引かずに警察官を怒鳴りつける。

動画を撮っていた若者のツレが、袖をひっぱり動画撮影をやめさせる。


「なっ……!

……悪知恵ばかり回しよって!

ええか、どうせ全員、お前らの筋のモンじゃろう?ナンボ小細工しても、身内じゃったら……」

喚き散らす警察官に、ボウゲン博士はスッと紙を突きつける。


「どっからどう見てもカタギじゃろうがい!

よう見さらせ、これが証拠じゃ!……こりゃアソコの店番張っとる奴らの破門状じゃい。

ここに書いておろう、『右の者は今後当家とは一切の関係がございません』とのォ。」

勝ち誇ったように、ボウゲン博士は紙をヒラヒラさせる。


「……ぐぬぬ!

ええかコラ!ちぃとでも法令違反あったら、すぐしょっ引いて行くからのォ!

覚悟せぇやコラァ!」

捨て台詞を吐いて、警察官は去ってゆく。


「ガハハハ、おととい来やがれバカタレがぁッ!」

高笑いする博士に、まさとし君は駆け寄る。

「おはようございます、博士。今日はよろしくお願いします。」

「おォ、まさとしィ!来ると思っとったでワレぇ!

目ェかけとるけぇのォ、一発カマして来いや!

……ささっ、向こうが受け付けじゃ。しげはるもおるけェ、二人とも頑張れや!」


博士の指差す先には、折りたたみ机があり、受け付けの札がかけられている。

片目に眼帯を嵌めた、頬に傷のある角刈りの男が、パンチパーマの黒紋付の男の応対をしている。

「旦那ァ。今日は一山当てに……じゃなかった、観戦ですかい?」

「オウ、兄弟。精が出るのォ。……そうじゃ。一山張らせてもらおやないかい。」

「いや〜、今日はワシゃ破門って扱いになっとりますけぇ、その呼び方はやめてつかぁさいや。

……ほな、テラ銭……じゃなかった、『ご祝儀』をこちらに……。」

受付の眼帯男が指差す先には三宝が立てられており、山のようなご祝儀の封筒が積まれている。

パンチパーマは懐から熨斗のついた封筒を出すと、三宝に乗せる。

「ほな、楽しんで行ってつかぁさいや!」

眼帯男に見送られながら、パンチパーマは『ニコニコメダル販売』の屋台に向かっていった。


受付の眼帯男がパンチパーマを見送ると、まさとし君の順番だ。

「らっしゃい、坊ちゃん。エントリーですかいや?」

眼帯男は愛想良くまさとしくんに話しかける。

「はい!よろしくお願いします!」

まさとし君は、元気よく挨拶をする。


「そいじゃぁ、挑戦料の400円、頂戴しますで。

……はい、出場トレーナーバッジをどうぞ。」

挑戦料を支払ったまさとし君に、特別カラーの代紋……ジム所バッジが渡される。

喧嘩腰罵倒会出場者専用の、限定品のレアものだ。

「じゃぁ、坊ちゃん。頑張ってつかぁさいや。」

エントリーを終えたまさとし君は、出場者席に向かう。

パイプ椅子が一塊に並べられた出場者エリアには、ひと足先にしげはる君が座っていた。


「おはよう、まさとし君!

……いよいよだね、喧嘩腰罵倒会。

アルチュウ達の調子はどう?」

肩からクーラーボックスをぶら下げたしげはる君が、まさとし君に挨拶をする。


「あっ、おはよう、しげはる君!

うん、絶好調だよ!……バトル、楽しみだね!」

親友にして最高のライバルであるしげはる君に、まさとし君も挨拶をする。


「この戦いが終わるまで、僕たちは敵同士だ。

……楽しみにしてるよ、まさとし君!」


「望むところだよ、しげはる君!

決勝戦では僕と勝負するんだから、それまでは負けちゃダメだよ!」

そしてまさとし君はしげはる君と隣同士に座り、お互いの肩を叩き合った。


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