イレズミドレスアップチューン④
「ええかコラァ!ワシゃおどれら下っ端と違うて、貫目もしっかり通っとるんじゃい!
じゃけぇ、そがぁモンモンなんぞ入れんでも……あ、ちょ、待って!」
ジョボジョボと信墨鬼・洞括斎の小便を浴び、威勢のいい啖呵を切っていたゴクツブシの言葉は腰砕けとなる。
「……真空波動彫りッ!」
懇願するゴクツブシを無視した洞括斎の身体が青白い光を放ち、輪郭が揺らぐ。
作務衣どころか褌も脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿で針を振るう洞括斎。
背中の不動明王の彫り物もまた青白い光を帯びて揺らぎ、その後ろ姿は鬼気迫る職人の迫力そのものだ。
……しまうべきモノをしまっていない点を除けば。
「おおッ、流石は洞括斎先生じゃ!あがァ目にも止まらぬ早業で、ようもまァ、ワシのモンモンにも負けん、立派なモノを彫りよるたぁ……。」
「ウム、全くもって同感じゃのォ、兄貴ィ。……ワシの墨もそろそろ手ェ入れちゃろう思うとったところじゃけェ、楽しみじゃわい。」
ボウゲン博士と草野組長のヤクザ二人もまた、着物を脱ぎ捨て、褌一つとなり、ゴクツブシに彫られた見事な猛虎の彫り物と自分たちのモンモンを見比べている。
その横で、アルチュウの身体もまた青白い光に包まれる。
金玉に彫り込まれた亡者の姿が怪しく揺らぐ。
「馬鹿野郎!やめろやアホ!触んなやクズ!」
突発爆裂系の暴言を詠唱して威嚇するオラァットの声は、針を打たれる恐怖で震えている。
目の前で明後日の方に視線をやり、針を手に真空波動彫りの青白い光を放っているアルチュウにはその声は届かない。
「ハゴォァ!」
断末魔と同時に、オラァットの腹に見事な毘沙門天の姿が彫りあがる。
「ほう、アルチュウも負けてはおらんのォ。小便の塊が彫りよったモノとはとても思えん。
まっこと、先生の作と甲乙つけがたいのォ。」
「全くじゃ、兄貴ィ。純粋な技術じゃったら、先生には到底かなわんのじゃろうが、職人としての狂気っちゅうんかいのぉ、ソコに関しちゃ、アルチュウも引けを取らんのォ。」
褌一丁で腕を組んでフンフン頷きながら、ヤクザ二人は彫り物の論評を垂れている。
部屋の中では、全裸のジジイと目がイっているボウゲンが青白い光を放ちながら一心不乱に刺青を彫っている。
そしてガッチリと拘束されてその異常者と向き合っているボウゲン数体が、呪詛を吐きながら恐怖と痛みに震えている。
その横で、ほぼ全裸のいい年こいたジジイ2人が刺青を晒して講釈を垂れ、さらに小学生男子が2名が、カッコよく彫り物を入れられた小便の結晶にキラキラと目を輝かせてキャッキャッとはしゃいでいる。
異様な光景だ。
「こりゃぁ、今度の『喧嘩腰罵倒会』が楽しみじゃのォ。
あがぁ立派なモンモンが入った結晶が何体かおれば、そりゃあお客の盛り上がりも……ウン?」
ボウゲン博士が違和感を感じたその刹那、部屋の中に警官隊が雪崩れ込んできた。
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「離さんかいボケぇ!おどりゃ、一体どういう了見でこがぁ筋の通らんマネをしよるんじゃい!」
褌一丁の草野組長の手が後ろ手に回され、手錠がかけられる。
「こん糞カスがぁっ!
ワシらは孫共の頼み事を聞いとっただけじゃろうがい!
……ぬがーッ!首、首ィィイ!」
床に組み伏せられたボウゲン博士の首がゴキリと音を立てる。
褌一丁に映える見事な猛虎の彫り物の上に手が回され、ガシャリと手錠がかけられる。
「何じゃいコラァ!
ワシは免状もちゃんと持っとるわい!彫師のワシがモンモン彫って何がいけんのじゃい!
離さんかいボケぇ!」
褌すら纏っていない洞括斎先生もまた、警察官3人に押さえつけられ手錠をかけられる。
それでもなお不動明王の彫り物は鬼の形相を浮かべ、警察官を威嚇している。
「猥褻罪じゃいこん馬鹿共があッ!
子供に何ちゅうモンを見せくさっとるんじゃい!」
額に青筋を立てた警察官はこの素っ裸の刺青男三人を一喝すると、しょっ引いていった。
残されたまさとし君としげはる君は、顔を見合わせる。
「キャーっ!変態!」
窓の外から女性の悲鳴が聞こえる。
「この野郎!テメェ、まだ罪を重ねるんかい!」
「待たんかいコラァ!今のはワシのせいじゃないじゃろうがい!」
警察官と洞括斎先生の言い争う罵声の響いたあと、パトカーのサイレンが響き、その音が遠ざかってゆく。
「博士、『喧嘩腰罵倒会』までに出てこれるかなぁ……。」
まさとし君は、ポツリとつぶやいた。




