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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
決戦前夜
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イレズミドレスアップチューン①

「オイ、コラぁ……。ちぃと待たんかい、のォ?

おどれの気持ちも分からんでも無いがのォ、早まったマネしくさる前に、まずは腹ぁ割って話そやないかい。

……じゃけェ、そがぁな物騒な道具、下ろさんかい、のォ?」

イテマウドンは、額に油汗を浮かべている。


その恰幅の良い甲羅は、万力に挟まれ、身動きが取れないでいる。

手足は甲羅に引っ込められ、頭だけが出ている状態だ。


「うん、イテマウドン、ちょっと動かないで!お腹、ホントに割れちゃうよ。」

しげはる君は、真剣な顔でイテマウドンの腹を凝視する。

……その手には、彫刻刀が握られている。


その横の工作机の上に立つアルチュウを、子供たちが取り囲んでいる。

「うわ~、かっこいい……。」

アルチュウの腹の、見事な閻魔王の彫り物に魅入っている。


前回のイカレヴィシャスとの戦闘。

『墨を彫る』のスキルにより、派手でいかつい彫り物をその腹に入れたアルチュウ。

地獄の業火を背景に鬼の形相で睨みを利かせる閻魔王の彫り物は、派手でなんかカッコいいものを求める小学生男子の感性に深く刺さった。


ところで小学生男子といえば、自分の持ち物を改造してデコレーションするのが基本行動だ。

ゲーム機等には派手なシールを貼って自分だけのカッコいい筐体に仕立て上げる。

プラモデル等には後付けの部品を取り付け、友達とカッコよさを競う。

──自分で手を入れて改良し、カッコよくする。これこそ、少年ホビーの醍醐味なのだ。


彫り物を入れることにより、そのボウゲンの属性に、『狂気系』をサブ属性として付けてやる効果があるのだが、少年たちにとってその目的は二の次。

──自分の相棒であるボウゲンを、自分で手を入れてカッコよく叩き直す。

……刺青を入れたアルチュウの帰還は、暴言トレーナーの間に、『強化改造を建前としたドレスアップ』という流行を持ち込んだのだった。


「うーん、ドラゴンもいいけど、ロボットの模様も悪くないなァ。

ねぇイテマウドン、どっちの模様がいい?」

彫り物の意匠の参考の、漫画雑誌の切り抜きを前に、しげはる君は無邪気に迷っている。


「どっちも嫌じゃ。やめんかい、マスターや。

ワシの腹にそがぁ落書き入れる必要が、どこにあるんじゃい?

……ちぃとこの万力、外してくれんかいのォ。」

イテマウドンは、いつもの剣幕をおさめ、拝むような声でしげはる君に懇願する。


「うん、迷うよね。……どっちもカッコいいからなァ。

……ロボットがいいかな?」

「それだけは絶対嫌じゃ。……ドラゴンにしてつかぁさい。」

イテマウドンは観念し、生気の抜けた声でボソリと呟く。


「うん、わかった。

それじゃ、カッコよくしてあげるからね!」

しげはる君は、ドラゴンの絵を万力の近くに置き、彫刻刀をイテマウドンの腹にあてがう。

イテマウドンは脂汗をにじませ、歯を食いしばって目を閉じる。


「ぬぉおお!い、痛ってぇ!

マスター、後生じゃ!止めぇ!……痛って!

頼みますけェ、どうか止めてつかぁさい!……ウギャーっ!!」

目からボロボロと涙を流しながら、イテマウドンは懇願する。

──ボウゲンは、言葉こそいかついが、所詮は口だけの小便の結晶だ。

頭のネジが吹っ飛んでどこかに行っている狂気系のボウゲンならまだしも、痛みには滅法弱い。


「あ~!……もう、線が曲がっちゃったよ!

動かないでって言ったのに!」

彫刻刀を振るうしげはる君は、どこまでも無邪気だ。

「ここをこうすれば……もうちょっと待っててね、イテマウドン。

カッコよくしてあげるから。」

「のぉぉおおお!」

イテマウドンの絶叫が響く。


「……だ、ダメじゃ、コイツはサイコパスじゃ!

ワレぇ、そこの金玉タヌキ!……頼む、ちぃと酒を分けてくれんかいのォ……。」

威勢のいい啖呵は尻すぼみとなり、最後は涙声となる。

腹に彫り物を入れられる痛みに耐えられなくなったイテマウドンは、その痛みを誤魔化すため、アルチュウに酒をせびる。


「あぁん?何じゃいワレ、舐めとんのかいコラ。

人様にモノを頼む時には頭地べたに擦りつけてからケツを舐めて、それから指詰めるんが礼儀じゃろうがい。

それをそがぁダラしねぇ腹ァ晒して寝そべって、頭の一つも下げんとは、何様のつもりじゃいワレぇ!!」

無駄にでかい金玉をブラブラ揺らしながら、ぴょこんとイテマウドンが彫り物を入れられている工作台に飛び乗ったアルチュウが、万力に拘束され身動きの取れないイテマウドンに無茶を言う。


「……金玉タヌキに酒を出せ抜かしとったのぉ、コラァ?

スマンが、金玉タヌキ呼ばわりするボケカスには酒は出せんのじゃ。

──小便なら出しちゃるがのぉ!オラァっ、これでも喰らいやがれボケェ!」

そしてアルチュウは、その無駄にでかい金玉で狙いを定めると、イテマウドンの顔面に放尿する。


「フゴっ!?……ゴホッ!」

イテマウドンは、むせた。

「うわっ!……あぁ〜っ!」

しげはる君は、アルチュウの突然の放尿に手を滑らせ、彫刻刀が跳ね、彫りかけのドラゴンの輪郭が「ガッ」と不自然にえぐれた。

ドラゴンの筈が情けないモグラのようになり、泣きそうな顔をしている。


「あぁ〜っ!……酷いよ、アルチュウ。

……ゴメンね、しげはる君。アルチュウが酷い事しちゃって。」

まさとし君は、アルチュウを非難する。


「……酒言うてたな。ホレ、飲まんかい。

……大の男が泣きべそかいて、みっとものうて見てられんわい。」

アルチュウはバツが悪そうだ。腰の徳利を取ると、逆さにして徳利の口をイテマウドンの口に突っ込む。


「ウップ……!?オゲェェエ!!」

イテマウドンの口から、酒が溢れる。

「オラァ!溢すんじゃねぇ!ワシの酒が飲めんのかいコラァ!」

パワハラ系のスキル、『アルハラ絡み』を発動するアルチュウ。

イテマウドンは目を白黒させて、徳利を突っ込まれた口からだらしなく酒と涎を垂らしている。


「やめなよアルチュウ、今はバトルじゃないんだから……。」

まさとし君がアルチュウをたしなめたその時、ガラガラっと図工室の扉が開く。


「オラァっ!ガキ共、こんなところでタムロして何をさらしとるんじゃい!」

今朝の朝礼で、「綺麗な言葉を使いましょう」という訓示を垂れていた校長先生が、額に青筋を立ててまさとし君達男子十数名を怒鳴りつける。

「ワレェ、ワシの学校で舐め腐った真似しよって、ええ度胸しとるのぉ、コラァ!

……シバき上げちゃる!校長室に来んかい、このボケカスがあっ!」


まさとし君達は校長室に連行され、そこで校長先生からこってりと油を絞られた。


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