狂気系のボウゲン③
「そういうわけで兄弟。悪いのぉ。
しげはるの勝ちじゃけぇ、貰うてくけぇのぉ。」
ニヤニヤしながら、長机の上の掛け金を回収していくボウゲン博士。
「……ったっく、何やら兄貴にハメられた気もするが、まあええわ。
しっかし面白いのぉ。……今度はコレで賭場でも開こうかいのぉ。」
草野組長は、渋々掛け金を差し出す。
……その時、キッチンの冷凍庫から、ドスの効いた怒声が響き渡る。
獣が吠えているようなその声は、何を言っているのか聞き取れない。
「おっ、丁度よく出来たようじゃのぉ。
……兄弟、お前の相棒が生まれたようじゃ。連れてきてやらんかい!」
ボウゲン博士に促され、草野組長はキッチンの冷凍庫に向かって行く。
そして博士は、しげはる君に向き直る。
「しげはるゥ。おどれはワシの孫じゃが、忖度はナシじゃ。
……挑戦料の400円、耳ィ揃えて払ってもらうで。」
ボウゲン博士は、試すような視線をしげはる君に投げかけながら言う。
「……うん、分かったよ。おじいちゃん。」
覚悟の決まった顔で、しげはる君はポケットから財布を取り出す。
100円硬貨を四枚、ボウゲン博士に差し出す。
ボウゲン博士の掌で、硬貨がチャリンと音を立てる。
「頑張ってね、しげはる君!」
まさとし君は、しげはる君の背中をポンと叩く。
「お~い、兄貴ィ!
コイツを見てくれや!……どうじゃ、キンキンに冷えとるわい!」
代紋の入った盆に、ビールの入ったジョッキと一緒に、黄色い小便の結晶を乗せた草野組長が応接に戻ってくる。
やせ細った野良犬のような見た目のそのボウゲンは、背中から頭頂部にかけてびっしりと細い針のような氷が生え、逆立っている。
首にはトゲトゲの首輪のような結晶が巻かれており、触ったらケガをしそうだ。
どこを見ているのか分からない虚ろな目と相まって、見るものを不安にするようなオーラを部屋中に立ち昇らせている。
「むゥ、やはりソイツが生まれたか。
……しげはるゥ、気合入れてかかれや。
コイツは『狂気系』のボウゲン、『イカレヴィシャス』なんじゃけェ!」
ニコニコ顔の草野組長とは対照的に、ボウゲン博士は厄介なものを見るような目で草野組長のボウゲン、『イカレヴィシャス』をねめつける。
イカレヴィシャスは唐突に、盆の上に乗っかっていたビアジョッキ──イカレヴィシャスのバトルを観戦しながら一杯ひっかけてやろうと草野組長が持ってきたものだ──に正拳突きを喰らわせ、叩き割る。
割れたグラスから流れ出たビールが盆から零れ落ち、草野組長のスーツにシミを作る。
「ぬわっ!?ワレぇ、何さらすんじゃいボケぇ!」
激昂する草野組長に、イカレヴィシャスは平然と言い放つ。
「あン?コップっちゅうモンは叩き割るためにあるんじゃろうがい。
割れたモンを直せるやつが文句言うてくるなら分かるが、直せもせんおどれがアヤぁ付けよるたぁ、そりゃ一体どがぁ筋なんじゃい!」
常人には理解不能な理屈を展開し、草野組長を黙らせる。
「……ほぉ、言われてみれば、そうじゃのォ。ほな、気合入れて一勝負打って来んかい!」
その言葉に納得した草野組長は、盆を下ろすと、長机の上にイカレヴィシャスを乗り移らせる。
「……ほぉんに、このマスターにしてこのボウゲンあり、じゃのォ。
はて、しげはるゥ、おどれもボウゲン、出してやらんかい。……おるんじゃろう、えげつない、手の付けられんようないかつい暴言が。」
イカレヴィシャスに負けず劣らずな草野組長の理解不能ぶりに呆れた後、気を取り直してしげはる君に向き直ったボウゲン博士が、口を開く。
まさとし君は、しげはる君のクーラーボックスに注目する。
「うん、わかったよ、おじいちゃん。
……よし、行けっ!バイショックス!」
しげはる君の掛け声とともに、クーラーボックスの蓋が開く。
すると中から、ブクブクに太ったクジラとナメクジの合いの子のようなボウゲンがノソノソと這い出てくる。
この体でどうやって陸の上を移動するのだろうと見ていると、オッサンの生足のようなものがニョキリと生えてきて、それでペタペタと長机の天板の上を歩いて行く。
控えめに言って、キモい。
「おし、ほうじゃ、ボウゲンバトル、レディー・ファイトじゃけぇ!」
ボウゲン博士の掛け声と共に、バトルの幕が落とされた。




