狂気系のボウゲン①
「行けッ!ヨロシオス!勝負はこれからだッ!」
まさとし君の掛け声が、ヨロシオスを鼓舞する。
その掛け声に同期するかの如く、ヨロシオスの代紋魔法陣が白い光を立ち昇らせる。
「いやぁ、ええ声されてますなぁ。便所の行列に腹ぁ立てとるオッサンみたいな渋い声、カッコええですわ。
糞でも漏れそうなんで?ワシ、あっちの方向いときまひょか?紙は持っとられまっか?」
ヨロシオスの皮肉が刺すように響く。
強烈な皮肉系暴言の一撃。ピカピカに磨かれた長机の天板が、ヨロシオスの足元から立ち昇る白い光の粒子を映し出す。
「負けるなッ!イテマウドン!底力を見せてくれっ!」
しげはる君の声援を受け、イテマウドンの後ろ姿に気合いが入る。
灼熱の業火を身に纏い、足元の代紋魔法陣を激しく点滅させながらイテマウドンがヨロシオスに突っかかる。
「っだとコラテメェ!舐めとんのかボケェ!
後ろ向いた瞬間、テメェのケツの穴二つにしたろうかい!おォ?」
イテマウドンは指先の棘を伸ばし、ヨロシオスを威嚇する。
迫力の乗った恫喝系暴言があたりの空気をビリビリと震わせ、轟く爆炎がイテマウドンの鬼の形相の顔を照らし出す。
オーク材の長机の上でバトルを繰り広げる二体のボウゲン。
その背後には、ボウゲン博士と草野組長が、水割りを片手にソファに座っている。
「はぁ〜、これが『ボウゲンバトル』っちゅうもんかいな。面白いのぉ。
しっかし、何を食ったらこがぁ、この世の終わりみてぇな遊びを思いつくのやら……最近のガキは何考えてるか分からんのぉ、兄貴。」
草野組長が、隣に座るボウゲン博士に話しかける。
「まぁ、何考えてるか分からんという意味では、お前が一番危ないがのォ……。」
ボウゲン博士は草野組長に顔を向け、ニヤリとする。
「……ワレ、勝った方と勝負じゃけぇのぉ。しっかり見ときぃや。」
草野組長はそれには答えず、水割りのグラスを傾ける。
ゴクリと、草野組長の喉が鳴る。
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朝の教室に、場違いな怒号が響き渡る。
「ワレェっ!エンコ詰めて詫びいれんかい!ぶち殺すぞオラァ!」
その一撃に、対戦相手のナメクジのような形の小便の結晶はシナシナと縮み、スゴスゴとクーラーボックスに帰っていく。
「あちゃー、負けちゃった!やっぱり強いなぁ、しげはる君!」
敗北したたけお君は、爽やかにしげはる君の勝利を讃える。
「いや〜、たけお君。君のチンカスラッグがイテマウドンの弱点を突いてきた時には、やられたかと思ったよ。
……やっぱり侮辱系は手強いな。今度はどうやって強化しようかなぁ。
対戦してくれてありがとうね。」
勝利したしげはる君も驕らず、爽やかに対戦相手に感謝を伝える。
しげはる君とまさとし君の通う学校。
ボウゲンバトルブームは、教員達の願いとは裏腹に、沈静化するどころかさらに熱を帯びている。
強者の証のジム所バッジ持ちも増え、トレーナー達はバトルの傍ら、ボウゲンジム所攻略法の話題に花を咲かせている。
その中でも、ジム所バッジ2つを持つ、まさとし君としげはる君は別格の強さを誇っていた。
「あっ、おはよう、しげはる君!
……ねえ聞いた?草野ジム所のリーダー、帰ってきたみたいだね。」
「おはよう、まさとし君!
うん、知ってる。おじいちゃんも昨日帰ってきて、お父さんに怒られてたから。」
「あ、博士も出てこれたんだ!よかったね、しげはる君。」
逮捕されて勾留されていた、草野組長とボウゲン博士が出所してきたらしい。
「それじゃまさとし君、今日の放課後、ちょっと草野ジム所に行ってみようか?」
「あっ、いいねぇ!じゃ、一緒にバッジ貰いに行こうか!」
こうして、まさとし君としげはる君は、放課後に草野ジム所……もとい、暴力団草野組の事務所に、遊びに行くことにした。
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「おぉ、しげはるゥ、まさとしィ、よう来たのぉワレぇ!」
警官隊突入時のエンジンカッターの傷跡の残る鉄扉の向こう、草野組事務所の応接では、ボウゲン博士が部屋住みの出すお茶を啜っていた。
「どや、ワレら。ジュースがええか?お茶がええか?
ビールもあるで。」
「あのー、博士。こないだ何で捕まったのか、忘れちゃったんですか?」
「……オイ、ちぃと客人にジュース出してやらんかい!」
ボウゲン博士が大声で指示を出してから、ものの十秒ほどでまさとし君達の前に、部屋住みのチンピラがキンキンに冷えたオレンジジュースと熱々のおしぼりを持ってくる。
「いただきます、博士。
……ところで博士、ボウゲンバトルをしに来たんですけど、今日の相手は誰ですか?」
ジュースに口をつけながら、まさとし君が質問する。
「はて、聞いとらん。
……兄弟、ガキ共がボウゲンバトルに挑戦するんじゃけぇ。
若い衆に支度させぇ。」
ボウゲン博士が草野組長に声をかける。
「兄貴ィ、何じゃい、その『ボウゲンバトル』っちゅうのんは?」
草野組長が首を傾げる。
「お?聞いとらんか?本家からの状が回っとらんか……あぁ、そういやワレ、ああいう面倒臭い書きモンは読まんけぇのぉ……。いつか下手ぁ打って指飛ばすで、ワレ。
ええか、ボウゲンバトルっちゅうんはのぉ……」
ボウゲン博士は、大人気バトルホビーかつ暴力団呂敬統会の資金源である『ボウゲンバトル』について説明する。
興味なさそうにしていた草野組長ではあったが、話を聞くほどに目を輝かせていく。
「ほぉ〜、面白いのぉ、兄貴ィ!つまり小便にカマシいれて男見せてから凍らしちゃれば、何やら気合いの入った氷ができてええシノギになる、っちゅうこっちゃな!」
「……まあ、だいぶ雑な理解じゃが、そんなところじゃ。」
すると草野組長はガバっと立ち上がり、宣言する。
「ほいじゃ、ワシ直々に一丁やっちゃるわい!
オイ!ビール持って来い!ワシゃ今小便が干上がっとるけぇのォ。
材料が要るんじゃけェ。」
ものの数秒ですっ飛んできた部屋住みからジョッキをひったくると、草野組長は一気に飲み干す。
「わりゃ、こがぁ小ぢんまりしたジョッキで足りるかい!もう2〜3杯持って来んかい!」
部屋住みの頭を小突く草野組長。部屋住みは大慌てでキッチンに戻ってゆく。
呆気に取られるまさとし君としげはる君。
……もしかしてこの人、ちょっとクレイジーなんじゃ?
「ええか、まさとしィ、草野はヤクザの中のヤクザじゃが……馬鹿でなれず、利口でなれず、中途半端でなおなれないのがヤクザじゃ。
……ああいう大人になったら、いけんど。」
まさとし君としげはる君は、困惑した眼差しをボウゲン博士に向ける。
「おーし、きたきた!漏れそうじゃ!
ほいじゃ兄貴、ちぃと筋の通った氷、しばき上げてくるけぇのぉ!」
そう言うと、草野組長は飲み干したビアジョッキを片手に、トイレに走ってゆく。
……まさか、あの中にするんじゃないよね。
まさとし君がドン引きしながらトイレのドアに視線を向けていると、ジョボジョボという水音の後に、泡だった黄色い液体をジョッキにたたえた草野組長が出てくる。
「兄貴ぃ、見てくれや。こがぁ、生きのええブツが取れたんじゃけぇ!
……ほな、男見せてやりますけぇ、ちぃとばかし待っとってつかぁさいや。」
そう言うと草野組長はキッチンに走ってゆく。
「……バカタレ。あんなモン人様に見せんでええわい。」
ウンザリしたような顔でボウゲン博士がポツリと呟く。
ガチャリと冷凍庫の開く音がしたかと思うと、けたたましい怒鳴り声が響き渡る。聞いたこともないような声量が、キッチンのドアのガラスをビチビチと震わせる。
「ワレェ!コラァ、小便!テメェ、舐めとんのか!
……何じゃいオラァ、小便!聞こえとんのなら返事せんかいボケェ!」
勢い余ってジョッキから小便をこぼす、バシャッという音が聞こえる。
それなりのトレーナー歴を誇るまさとし君ではあったが、結晶化する前の小便との意思疎通を図ろうとする人を見るのは、初めてだ。まさとし君は、再びドン引きする。
しげはる君もまた、ポカンと口を開けている。
「相変わらずの型破りよのぉ……。
あがぁ、常人の斜め上を泳いで行くようじゃと、生まれてくるボウゲンはアイツかのぉ……。」
博士は、わけ知り顔でブツブツ独り言を言っている。
ほどなく、ジョッキを持っていた方の手を袖まで濡らした草野組長がキッチンから帰ってくる。
「仕込んできたで、兄貴ぃ。
筋の通った氷が出来上がるまで、この御客人のお子さん方にはどう時間潰してもらおうかのぉ。
……なぁ、坊ちゃん方。チャカでも触らしてやろか?
トカレフがええか?マカロフがええか?それとも米軍横流しのガバメントがええか?」
「やめんかバカタレ!こないだの逮捕容疑忘れたんかいワレェ!」
ボウゲン博士が慌てて止めに入る。
「ほうじゃのぉ、しげはるゥ、まさとしィ。草野の兄弟のボウゲンは一体。それに対して挑戦者は二人。
これじゃァ不公平じゃけぇ、トーナメント戦にしちゃるか。
ボウゲンができるまでおどれら、挑戦権賭けてタイマン張ってやらんかい。」
ボウゲン博士の提案により、まさとし君としげはる君は、一体のみ使用のボウゲンバトルを戦うこととなった。




