皮肉系のボウゲン①
「ワレェ!コラ、開けんかい!」
鉄扉に重たい一撃が入り、ドォンと重たい音が轟く。
「やかましいわボケェ!状はあんのかコラァ!」
窓からパンチパーマの男が顔を出し、額に青筋を立てながら怒鳴り声を上げる。
「ついさっき状が出たんじゃい!観念せェやドアホ!」
門の前に群がっている警察官が負けじと罵声を張り上げる。
「警部、道具使っちゃりましょうや!」
坊主頭の巡査が、エンジンカッターのスターターの紐を力一杯弾く。
マフラーから白煙が立ち上り、バチバチというエンジン音が轟き、ガソリンの焼ける匂いが漂う。
向かいの民家の二階の窓からスマホを構えていたメガネの小僧の首根っこを母親が引っ掴み、部屋の中に引き込むとピシャリと雨戸を閉める。
ブゥーンとけたたましい音を響かせながら、鉄扉に回転鋸が当てられ、火花を散らす。
「うわぁ、凄い迫力だ!大人の人のトレーナーは、やっぱり強そうだなぁ!」
警察とヤクザが鍔迫り合いをしている現場の後ろで、まさとし君は目をキラキラ輝かせている。
「アルチュウ、順番だからね。あのお兄さん達が終わるまで、外で待ってよっか。」
クーラーボックスを開け、アルチュウに語りかける。
「マスターや、アンタなんちゅうか、オツムがおめでたいっちゅうか、ズ太てぇっちゅうかのォ……。
ありゃ、ガサに入られとるんじゃ。」
アルチュウは、無邪気なまさとし君にドン引きしている。
ボウゲン博士から次のジム所を紹介されたまさとし君。
向かった草野ボウゲンジム所は、警察の強制捜査を受けているところだった。
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「ぶち殺すぞこらテメェ。」
「エンコ詰めさすでオラァ。」
「アホかテメェ、舐めとったらどつき回すど。」
「ドタマかち割ったろかい、懲役がナンボのもんじゃい。」
「い、い、い……あっ、見てアルチュウ!さっきのトレーナーが出てくるよ。」
待っている間、アルチュウと暴言しりとりで時間を潰していたまさとし君。
その後ろで、先客のトレーナー……とまさとし君が思い込んでいる警察官たちが、ダンボールを抱えてゾロゾロと出てくる。
「なんじゃいワレェ!離さんかい!
こがぁ筋の通らんマネしくさりよって、後でどうなるか覚悟は決まっとるんやろなぁ!おォ?」
続いて、ありったけの罵詈雑言を吐きながら手錠をかけられたパンチパーマの男が屈強な警察官三人に押さえつけられながら出てくる。
上半身裸で、背中の見事な般若の彫り物がまさとし君を睨みつけている
「やかましいわボケェ!公務執行妨害もついでに付けてやろうかいクソたれがぁっ!」
唾を飛ばしながら大声でパンチパーマを怒鳴りつけた警察官が、パトカーのドアをあけると乱暴に男をブチ込む。
サイレンを鳴らしながら、パトカーは走り去っていった。
「あっ、終わったみたいだね。じゃ、僕らの番だ。中に入ろう、アルチュウ!」
アルチュウをクーラーボックスに入れると、まさとし君は意気揚々とボウゲンジム所……もとい、暴力団呂敬統会・草野組本部事務所に乗り込んで行った。
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「こんにちは!ボウゲンバトルに来ました。よろしくお願いします。
……あれ?」
草野ジム所の中は通夜のような空気が漂っている。
棚が倒され、色々な物が床に散乱している広間で、若衆達は生気なくボケーっと呆けて突っ立っている。
オーク材の長机は足が一本折れ、傾いている。
壁には穴が空き、代紋の額縁が叩き落とされて床に落ちてガラスが割れて床に散っている。
タバコの煙に燻されてくすんだ色の壁にかけられた、紋付袴姿のこのジム所のリーダー、草野氏の写真だけが無事に残り、にこやかな笑みをたたえていた。
「ったく、あの外道共、滅茶苦茶やりよって。ちぃと手加減せんかい。」
天井板がパタリと外され、そこからノソノソとボウゲン博士が顔を出す。
「おう、まさとしィ!よう来たのぉ!
……スマン、降りれん。ちぃとそこの椅子を持ってきてくれや。」
まさとし君が椅子を引きずってくると、博士は背もたれに足をかける。
危ないなぁと思いつつ見ていると、案の定椅子はバランスを崩し、博士もろともぶっ倒れる。
博士は床に尻を打ち付け、首根っこを背もたれに強打して、大理石の床にのたうち回って悶絶している。
こういう時、ちょっかいを出さずにはいられないのがアルチュウだ。
クーラーボックスからのそのそ這い出ると、博士の目の前までトコトコ歩いて行く。
「何じゃいジジィ、そがぁ芋虫みたいにのたうちまわりよって。
歳食うと骨が脆うなるけぇのぉ。どや?2〜3本も折れたんかいな。」
博士は、痛みのあまり言葉を発することができないようだ。
涙目でのたうちまわりながら、首の後ろを指さしている。
「……なんや。キモっ。
そこをどうして欲しいんじゃ。
……あぁ、こういうことかいな?」
いうなりアルチュウは肩で息をしている博士の背後に回り込み、首の後ろに狙いをつけて放尿する。
「ほごぉ!?」
驚愕し変な声をあげる博士。……なんと、首筋に浴びた小便が、ピキピキと音を立てて凍りつく。
「あぁ……なんというか、絵ヅラは最悪じゃが、ええ感じに冷えて痛みが引いたわ。
助かったわい、アルチュウ。」
博士がのそのそと立ち上がる。
「まあワシゃ凍った小便じゃけぇ。おどれみてぇに棺桶に片足突っ込んで代謝の落ちたジジイの一人や二人、凍らしちゃうんは朝飯前よ。」
ほうか、ガハハハとアルチュウと笑い合う博士に、痺れを切らしたまさとし君は言う。
「あのー、いっこうに話が進まないんで、そろそろ何があったのか説明してもらっていいですか?」
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「ひどい!ボウゲンバトルは、ルールの上で相手と胆力と頭のキレを競う、紳士のスポーツだ!
それなのに……そんなの、ルール違反じゃないか!」
草野ボウゲンジム所を訪れたトレーナー集団。
挑戦料の400円も払わず、ボウゲンも出さずにトレーナーからの直接口撃で蹂躙していったのだという。
これだけでも重大なルール違反だというのに、あろうことか警棒を振りかざし、禁じ手である暴力行為まではたらいたという。おかげでジム所の中は滅茶滅茶だ。
ジム所リーダーの草野さんも、直接口撃の禁を冒して応戦するも、多勢に無勢。
善戦虚しく、草野ジム所のバッジはあの荒くれ者のトレーナー集団に奪われたのだそうだ。
あわれ草野さんは囚われの身。このままでは草野さんも、このジム所の存続も危ないのだという。
「まあ、何を食ったら今の話をそういう風に理解できるのか謎なんじゃが……だいぶ仕上がっとるのぉ、まさとしィ。
まあ、広い意味ではそういうことでええんかいのぉ。」
ボウゲン博士は、腕を組んで首を傾げながらもまさとし君の理解に太鼓判を押す。
「……行きましょう、博士!」
「待たんかい、ワレェ。どこに行くっちゅうんじゃい。早まったらいかん。」
「だって、こんなの、少年バトルホビーものの王道展開じゃないですか!
あのトレーナーの秘密基地に乗り込んで、草野リーダーを助け出して、バッジを取り返しましょう!」
博士は腕を組んで考えているようだ。
「おどれも若いのぉ……。まあ、ええじゃろ。ワレ、ワシが止めても一人で行きよるじゃろうて。
……サツんとこで大暴れされて、新聞沙汰にでもなりよったら目も当てられんけぇの。
じゃけんど、ちぃと待たんかい。
……助っ人を呼んじゃるけぇ。」
そう言うとボウゲン博士は電話を取り出し、どこへともなく電話をかける。
ものの10分もしないうちに、ジム所の呼び鈴が鳴る。
若衆に連れられ、身なりの良いピンストライプのスーツの胡散臭い男が入ってくる。
「まさとしィ。この方が、人権派弁護士の、籾芥子先生じゃ。
……ほな、いっちょ、サツんとこに挨拶にでも行っちゃろうかい!」




