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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
ボウゲンジム所攻略②
21/52

生理嫌悪系のボウゲン①

ピンポーン……バァン!

呼び鈴と同時に、鉄扉に衝撃が加わり重たい音が鳴り響く。


「ワレェ!コラぁ!開けんかいボケぇ!」

ゴクツブシの怒声が轟く。


ピンポーン……ピンピンピピピピポーーン!

呼び鈴が連打され、悲鳴のようにチャイムの音が鳴り響く。

「なんじゃいこの安もんのチャイムは!

開けんかいコラァ!扉ぶち破るぞワレ、ボケェ!」


アルチュウの罵声が閑静な住宅街に轟き渡る。

その横でゴクツブシが鉄扉に手をかけてガチャガチャと揺すっている。


「見てー、ママぁ!どうぶつさんがお喋りしてるー!」

「見ちゃダメ!行くよ!早く!」

親子連れが足早に通り過ぎてゆく。


「何じゃいコラァ!喧嘩売っとんのかいワレェ!

ええ度胸じゃねぇか、そこで待っとらんかい!」

インターフォンのスピーカーが破れんばかりに、この建物の主の怒声が返ってくる。


ここは暴力団呂敬統会の二次団体、花田組の事務所。

いかつい鉄扉の前に、アルチュウとゴクツブシを引き連れたまさとし君が立っている。


「おいコラぁ!ワレェ、どこの組のモンじゃい!ブチ殺すぞコラァ!

……おん?」

中からこめかみに青筋を立てたスキンヘッドの男が顔を出す。

その視線は、まさとし君の頭二つ分上の虚空を睨みつけていたが、そこには何もないことに気づき、視線を下に落とす。


「あァ、こりゃぁ、ボウゲントレーナーさんでしたかい。

しっかし、筋の通った強そうなボウゲンをお連れですなァ。てっきり本職のカチコミかと……。」

……そして、慌ててその手に握られていた黒い鉄の塊を後ろ手に隠す。

カチャリと、安全装置がかけられる音がコンクリ造りのガレージに反響する。


「しっかし坊ちゃん、次からは普通に訪ねてきてつかぁさいや。

コッチも心臓に悪りぃですけぇ。」

「あれ?おかしいなぁ。僕、てっきりこれがジム所に入れてもらう時の攻略法かと思ってました。

こないだ岩本のおじさんのジム所に行った時は、こうやって入れてもらったので……。」


──ボウゲンバトルは小学生男子の間で流行しているホビーだ。

この界隈では、真偽不明の噂話の形で、攻略法などが共有される。

まさとし君達が『ボウゲンジム所』と呼んでいる場所──まぁ、そう誤解されているだけで実際は暴力団の組事務所なのだが──は、建物に入れてもらうところが第一の試練。

まずは自分の連れているボウゲンにその暴言の迫力を披露させ、そして組ちょ……ジム所リーダーに認められた者だけが入ることを許され、ジム所バッジをかけた戦いに挑戦することができると噂されていた。


****************************************************

「はい、そしたら挑戦料の400円、いただきますね。」

ペルシャ絨毯と黒革貼のソファーが設られ、日本刀と鎧兜が飾られた殺風景な広間に通されたまさとし君に、スキンヘッドの男が言う。

「ええと……はい、これでいいですか?

……岩本さんのところではお金かからなかったんだけどなぁ。」

「あぁ……アレはキャンペーンってやつでっさ。

コレで勝てばバッジが貰えますけぇ、安いモンでっしゃろ?なァ。」


──今やボウゲンバトルは、男子小学生の6割が手をだすほどの大流行ホビーだ。

そしてここに広域指定暴力団・呂敬統会が注目。

新たな資金源としてこのブームを最大限利用する、公式認定制度やグッズ販売などの集金システムを立ち上げたのだ。


400円という挑戦料は、ヤクザのシノギとしては旨みがないように見えるが、男子小学生300万人の6割、実に180万人がプレイヤーの母数となる。

うち3割が月に一度挑戦すれば、400円を徴収するだけで、なんと年商26億円のシノギとなる。

呂敬統会は広域指定暴力団。全国に二次団体の事務所があり、その莫大な需要の受け皿となることができる。

かかる経費といえば、たいしたシノギもなく事務所でゴロゴロしている部屋住みの飯代と、その小便の原料となる酒代くらいのもの。これらは元々事務所の固定費であり、追加でかかる費用ではない。

勝者に渡す代紋バッジだけは変動費となるが、原価はたかだか数十円だ。

暴対法やらでシノギの細る暴力団組織にとって、コレほどうまいシノギはない。


お小遣いでギリギリ払えるような高額な挑戦料を取る必要はない。そんなことをすれば、一瞬で親バレして、社会問題となり、このブームは潰えるだろう。

こういう、小学生が親の決裁無しで自分の裁量で余裕で払えるくらいの少額を、幅広く集めてやるのが、このボウゲンバトルブームで最大限稼いでやる最適解なのだ。


「おいカズキぃ!

ボウゲンバトルじゃ!ワレ、ちぃと相手してやらんかい!」

まさとし君からミカジメ料を受け取ったスキンヘッドが、ジム所の奥に声をかける。

「え、兄貴それ今やる系です?

ちょい待ってほしいっす、今ちょうど推しの配信始まって……

リアタイ逃すと温度感変わるんで。」

やる気のない気の抜けた返事が返ってくる。


「あんのバカタレ!ほんに、Z世代っちゅうヤツはコレじゃけぇ……

親に見捨てられたニートなんぞ、なんぼヤクザのなり手がおらんでも拾ってくるモンじゃ無いわい!

……坊ちゃん、ちょいと待っとってつかぁさいや。あのバカタレにヤキ入れて来ちゃりますけぇ。」

スキンヘッドだけに、側頭部に浮かび上がった青筋がよく見える。

ツカツカと壁に立てかけられた木刀をひったくるように掴むと、部屋の奥に入っていく。


「何すか兄貴氏?……うわ、ちょっと!エッ!……ウギャぁ〜!!」

「こんのアホンダラがぁッ!ワレェ、親父に盃もろとる極道の端くれなら、盃の筋通さんかいオラァ!」

「うっわ、痛って!ちょ、やめて……何すかこのブラック案件……グエェエ!」

「兄貴の筋がやれ言うたら黙ってやらんかいコラァ!所作ァ叩き直してやらぁ!」

ドカッ、ボコっ!という鈍い音と共に、泣きそうな若者の声と、大音声で怒鳴り散らすスキンヘッドの怒声が隣室から漏れ聞こえてくる。


しばらくすると、瞼を腫らして鼻血を垂らした20歳位の若者と、折れた木刀を肩に担いだスキンヘッドが出てくる。

「いんや〜、内輪のドタバタでお待たせしましたのぉ、坊ちゃん。

……オラァ、さっさとテメェの小便の塊つれて来んかい、こんの穀潰しがぁッ!」

ふぁい、と歯の抜けたような声でキッチンの冷凍庫に向かってゆく若者。


「うわぁ、やっぱりジム所は暴言の迫力がすごいや。……どんなバトルになるかなぁ。楽しみだなぁ!」

まさとし君は目をキラキラと輝かせている。

「じゃがのォ、まさとしィ。ありゃ暴言どころじゃのうて、正真正銘の暴行なんじゃけェ。

親御さんに睨まれて小学生相手のシノギが……ゴホン、ボウゲンバトル界の健全な発展の足枷になるけぇの。ありゃ真似したらいけんど?」

いつの間にか隣にボウゲン博士が立っている。


叔父貴ィ!お勤め、ご苦労様です!と、ジム所に詰める男衆が最敬礼で博士に挨拶する。

鷹揚に挨拶を返すと、ボウゲン博士はソファにドカッと腰を下ろす。


「極道の世界も多様性の時代じゃけぇのォ。

まさとしィ、あのカズキっちゅう若い衆は、ちぃと普通の極道とは毛色が違うとるんじゃけぇ、おどれもこの先ボウゲントレーナー張りよるんなら、ええ勉強になるじゃろうて。」


ほどなくすると、先ほどボコボコにされていた若者が広間に戻ってくる。

……その足元には、蜘蛛のような多数の足と触角の生えた、鉢植えの花のようなボウゲンがぴょこぴょことついてきている。


「……あー、さっさと終わんねぇかな。

キショッピー、適当にやっちゃって。」

若者はやる気なさそうにボソっと言う。

「ワレェ!おどりゃ大木の叔父貴がおられるんが見えねぇんかいコラァ!キチっと筋通して挨拶せんかいボケェ!」

スキンヘッドは若者の頭にガラス灰皿を振り下ろす。

ガシャンと大きな音を立て、ガラス灰皿が砕け、タバコの吸い殻とガラスの破片を辺りに撒き散らす。

頭を押さえ、涙目になりながら若者はボウゲン博士の前で最敬礼する。


「……ほんに、最近の若い衆はクセが強いのぉ。

ほんじゃ、いっちょ、ボウゲンバトル、レディー・ファイトなんじゃけぇ!」

ボウゲン博士が、高らかにバトル開始を宣言した。


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