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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
二匹目のボウゲン
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パワハラ系のボウゲン②

「うげぇ……気持ち悪い。吐きそう……。」

『第三労災丸』の冷凍室で、掃除を命じられたまさとし君は気持ち悪そうに床にうずくまっている。

マグロ漁船は兎に角揺れる。甲板で釣りに勤しんでいた時は気が紛れて何ともなかったが、こうして四方を壁に囲まれた密室で揺られていると、一気に船酔いがくる。


「まさとしィ!どがぁしたんじゃいワレ、死ぬんじゃ無ァ!」

ボウゲン博士は大袈裟に騒いでオロオロしている。

暑苦しく、まさとし君は余計に気持ちが悪くなる。

「待っちょれ!ちぃと親方ンとこ行って酒を貰ってくるけェのォ!酒は百薬の長じゃけェ!」

そう言うとボウゲン博士はドタバタと走り去って行く。

……やめてよ博士……。小学生の僕がそれを口にするような描写したら、表現の自由で守られる範囲を踏み越えちゃう。


「あァ~、涼しいのォ。こりゃぁ生き返るわい。

……ン?何じゃい、マスター。わりゃ脳味噌と頭蓋骨の間に隙間が空いとるけェ、揺すられてしもうたか?」

クーラーボックスから顔を出したアルチュウが、相変わらずの侮辱系の暴言でまさとし君を煽ってくる。

マスターをマスターとも思っていないような皮肉の利いた暴言、普段のまさとし君であれば目をキラキラさせて反応してくるところではあるが、船酔いにやられて反応がない。


「どりゃ。ワシは医者の心得があるけェ、治療したるわい。

……ほりゃ、これでも喰らいやがれ!」

アルチュウはうずくまるまさとし君の下に潜り込み、防寒着越しに腹をツンツンとつつく。

「やめて……アルチュウ。ホントに吐きそ……。」

ゲッソリした青い顔で、まさとし君は力なくアルチュウを制止する。


「ほりゃ、ほりゃ!」

アルチュウは汚い水に汚い言葉をかけて凍らせた結晶だけに、性格は腐っている。

苦しそうなまさとし君にさらにちょっかいをかけてくる。


ちーん!

その時、アルチュウは手が滑った。まさとし君の股の間に、アルチュウの拳がめり込む。

「ふごッ!?」

まさとし君は白目を剝く。

「……オゲェェェェエエエエ!!!」

そして盛大に、さっき食べたお弁当だったものを吐く。


数十秒、時が止まる。


「……どうしよう、アルチュウ……。」

出すもの出して船酔いはなおった。だがしかし、間違いなく船長に大目玉を喰らう。

いや、怒られるのはウェルカムだ。どんな暴言が飛びだすか、聞いてみたい気持ちはある。

しかし、まさとし君は善良な子だ。掃除を命じられたのに、床を汚して船長に迷惑をかけることは非常に申し訳ない。

「とりあえず水で流さなきゃ。…ええと、蛇口は……。」

ある訳ない。ここは冷凍室。水道管など凍ってしまい使い物にならない。


「ワシに任しとかんかい、マスター!

ワレん股の間にぶら下がっとるモノ、何のために付いとると思っとるんじゃい!」

そう言うとアルチュウは、床で湯気を立てているまさとし君のゲロに放尿する。

さすがはアルチュウ、無駄に金玉がでかいだけに、物凄い水圧で、どんどんとゲロが流されてゆく。


「わぁ、凄いや、アルチュウ!」

まさとし君が歓声をあげたところで、冷凍室の扉がガチャリと開く。

「ワレぇコラぁ!役に立たねぇだけならまだしも、何さらしとんじゃいこのバカタレがぁっ!」

額に青筋を立てて物凄い剣幕でがなり立てながら、船長が入ってくる。

「テメェみてぇな穀潰し、ここにおるだけで邪魔じゃあっ!魚の餌にでもなってくれた方がよっぽど助かるわいボケカスがぁっ!」


続いて一升瓶を抱えたボウゲン博士が入ってくる。

「ほう、こりゃぁ脅迫・侮辱の要素の混じった『パワハラ系』の暴言じゃのォ。

立派な暴言じゃが、まさとしィ、ちぃと詫び入れた方がええかもしれんのォ。」


怒りを逆なでするような暴言解説を飄々と垂れる博士の首を、船長がギチギチ閉めている横で……ゲロの混じったアルチュウの小便に異変が起きる。


ポぉっと現れた赤黒い光の玉が、床にぶちまけられた小便に降り注いでゆく。

そして、トゲトゲの鉄条網で描かれた円と、その中に交差する日本刀、そして『暴』の漢字の意匠の、まるで暴力団の代紋のような魔法陣が床に浮かび上がる。

その中心から赤黒い光が立ち上る。


「な、なんじゃい、ありゃぁ……!」

ボウゲン博士の首を絞めていた手を緩め、船長が恐れおののいたように後ずさる。

「……始まったんじゃけェ。暴言の結晶の誕生じゃ。

水に綺麗な言葉をかけて凍らせると、綺麗な結晶が出来上がる。……こりゃ、小学校でも教わる常識なんじゃけェ。

ほいじゃ、小便みてぇな汚ねぇ水に、さっきおどれが吐いとったような汚ねぇ言葉をかけて凍らせよったら、何が出来るか……。考えてみりゃ、分かるじゃろ。」

真剣な顔で、ボウゲン博士は説明する。


まるで床から怨嗟の残響が吹き上がるような振動が走り、魔法陣全体がビリビリと空気を震わせる。

そして光の柱がひときわ激しく輝きを放つ。

目を開けていられない。

『……オラァ!ゴクツブシ!……オラァ!ゴクツブシ!』

威勢のいい声に、恐る恐る目を開くと……そこには、ブクブクに太った豚のようなボウゲンが出来上がっていた。


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