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水からの暴言  作者: 叡愛禅師
二匹目のボウゲン
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突発爆裂系のボウゲン②

「あァ~、何じゃい、臭ッセェのォ。

こりゃタバコの匂いっちゅうより、おどれの口臭じゃのォ。

──ワレぇ!おどりゃ口が並のケツより臭いんじゃけェ、ヤニ吹かしよるならケツで吹かさんかい!!」

まさとし君のクーラーボックスからノソノソ這い出してきたアルチュウが、イテマウドンにちょっかいをかける。

トコトコと歩く足が床に触れるたびに代紋魔法陣が発光し、パチパチと稲妻の爆ぜる音が響く。


「オッ、バトルが始まるのォ!

……ええかしげはるゥ。おどりゃ二匹持ちじゃがのォ、まさとしは一匹しかおらん。

ええか、ボウゲンバトルは紳士のホビーじゃけェ、二匹でかかってフクロにするようなマネは反則じゃけェのォ。

勝負は、タイマンの勝ち抜き戦じゃ。」

ボウゲン博士は、ボウゲンバトル開始を宣言する。


「何じゃいワレェ!……オウ兄弟、ちィとあのバカタレのタマぁ取ってこんかい!」

イテマウドンがオラァットに指示を出す。

「へい、兄貴!あのボケ、ぶっ倒してやりますけェ。

……ワレェ!コラぁ!ブチ殺したろかいタコ!」

そしてオラァットはアルチュウににじり寄る。

オラァットの足元に代紋様の幾何学模様が浮かび出し、橙色の光を立ち昇らせる。


「ほう、まずはオラァットが出るか。……ありゃ『突発爆裂系』の、中々強いボウゲンじゃ。」

ボウゲン博士は、解説する。

突発爆裂系とは、思考を経ずに瞬間的に発せられる暴言であり、反射的な怒りや苛立ちが主成分だ。

「うるせぇ!」「死ね!」「黙れや!」等、IQの低い罵倒がその具体例だ。


「こらまたエラい小物が出てきよったのォ?ワシも随分……」

アルチュウは、侮辱系の詠唱を開始する。

……いいぞ、アルチュウ!先手を取った!

まさとし君は心の中で喝采をあげる。


「うるせぇわオラァ!」

しかし、アルチュウが二の句を繋ぐ前にオラァットのカウンターが入る。


物凄い剣幕だ。アルチュウもこれにはたまらず、詠唱を止めてしまった。

渾身の暴言を不完全燃焼のまま潰されたアルチュウは、口を開けたまま固まっている。

その額が少し溶け、液体に戻った小便の雫が一筋、その頬を流れ落ちる。


「まだ大丈夫だッ!建て直せ、アルチュウ!!」

まさとし君の声援がアルチュウに落ち着きを取り戻させる。

代紋魔法陣を爛々と発光させ、青い光の粒子を立ち昇らせるアルチュウ。

教室内を激しく点滅させながら、渾身の第二撃を叩きこむ。

「何じゃいワレェ!人の話は最後まで聞けって幼稚園児でも知っとるで。ワリゃ幼卒……」

「るせぇ殺すぞオラァ!」

またしてもオラァットのカウンターが決まる。

怒涛の雷と同時にアルチュウが詠唱を完了させる前に、オラァットの放つ暴言が可視化された橙色の炎が雷を呑み込む。


「ふむ、これはちィとアルチュウには分が悪いかもしれんのォ……。」

ボウゲン博士は顎を撫でる。

「アルチュウは、その言葉によって相手の価値を下げて相対的に自分が優位に立つ侮辱系のボウゲンじゃ。

……皮肉と論理で組み立てられた暴言はまともに決まれば強力である反面、詠唱が長くなりがちで勢いが弱まりがちという弱点もあるんじゃけェ。

それに対して見てみィ、オラァットのキレのいい口撃を。」

……確かにそうだ。

まさとし君は握った手に力を籠める。

アルチュウは巧みにオラァットの痛いところを突くような暴言を捻りだそうとしている。

しかしその詠唱が終わる前に、オラァットの短く鋭い暴言にかき消され、話の腰を折られてしまうのだ。

オラァットの暴言には、内容は無い。勢いだけで押し切り、相手に最後まで言わせない。

それが、突発爆裂系のカウンター、『話を聞かない』の要諦だ。


「死ねやバ~カ!」

オラァットの怒声が響く。

耳元で爆ぜる爆炎が、透き通った結晶体であるアルチュウの輪郭を照らし出す。

アルチュウの顔面を構成する氷がまた少し溶けて小便に戻り、床に垂れて小便のシミを作り出す。


「押し切れ、オラァット!大金星はすぐそこだッ!」

しげはる君が、優勢なオラァットを鼓舞する。

「アルチュウ!負けるなッ!自分を信じろッ!」

まさとし君も負けずに声をからして応援する。


その時、アルチュウの手がスゥっと動く。

腰に掛けられた徳利を取ると口を付け、喇叭飲みに中の清酒を喉の奥に流し込む。

ゴクリと喉が鳴るたびに、代紋魔法陣の輝きが脈打つように強まってゆく。

……補助スキル、『酒を飲む』攻撃だ。

「ほう……。」

ボウゲン博士が呟く。そして、試すような視線でアルチュウの次の行動を見守る。


アルチュウの代紋魔法陣がひときわ明るく輝きを放つ。

青い光が、バトルの推移を見守るまさとし君の頬を明るく照らす。

代紋魔法陣から蛍のように立ち昇った光の粒子がアルチュウの右手に集まり、激しく点滅する。

まさとし君は思わず目を閉じ、再びその瞼を開けた時、アルチュウの手にはメガホンのような結晶が生成されていた。


『アァ~、キャンキャンやかましいのォ、この畜生はのォ!

しかも会話も通じとらんけェ、脳味噌が病気になっとるんかもしれんのォ!

……どや、ワシがちィと診てやろうかい!』

そしてキ~ンというハウリングを起こしたあと、耳をつんざくような爆音でアルチュウの声が轟き渡る。

凄まじい大音声だ。教室のガラスが共鳴してガタガタと激しく振動する。

遠巻きにバトルの推移を見守っていた女子たちが、キャッと小さく悲鳴を上げる。

そして男子達は、目の前で繰り広げられるトップトレーナー同士の、大迫力の暴言バトルに歓声をあげる。


オラァットは目を大きく見開き、額に青筋を立てて口を大きく開け、唾を飛ばしている。

しかし、その声はアルチュウの大音声にかき消され、何も聞こえない。


「やりよるのォ、アルチュウ。

突発爆裂型のボウゲンは、会話の流れとは関係のない、強烈な、意味の薄い暴言を、猛烈な勢いの大声で連発することで相手の発言を封じ、何も言わせないことが勝ち筋となる。

……そう、勢いと声量がキモなんじゃ。

じゃけんど、もし、そのさらに上を行く勢いと声量の暴言で上書きしてやれば……声のデカい奴が勝つんじゃけェ。」

ボウゲン博士は感心したように言う。


「それと見てみィ。

……仕掛けるようじゃのォ、アルチュウは。」

博士の指さす先。アルチュウの頭から、ネジのような結晶が弾け落ちる。

『酒を飲む』の追加効果により発動する、『ネジを外す』攻撃だ。


アルチュウの足元の代紋魔法陣が、狂ったように点滅する。

メガホンをキンキン言わせながら、不規則な足取りでオラァットににじり寄っていく。

そしてオラァットが暴言を吐いて口を開けたところを手で押さえ、口の中を覗き込む。

『どりゃぁ、診察しちゃるけェ、口ん中診せんかいやコラぁ!

……ありゃ~、こりゃアカンのォ。おどりゃさっきからギャンギャン犬っころみたいに吠えとるけェ、喉が潰れて膿んで、口が臭っそうなっとるわい!

どりゃ、ワシが一肌脱いで治療しちゃるけェ、じっとしとらんかいワレェ!』

そう言うとアルチュウはその巨大な金玉に手を添え、オラァットの口にジョボジョボと放尿する。


『ええか、ワレェ!早期発見早期治療じゃ!

小便でうがいしてやりゃぁ喉の腫れも治まるけェのォ。』

オラァットは喉に小便を注ぎ込まれ、ゲホゲホとむせている。


「……突発爆裂系の暴言っちゅうのは、本質的には無視系に近い系統よ。

相手との会話をかみ合わせないことで相手より優位に立つ。

それはつまり、『相手がこちらの話の土俵に乗らざるを得ない程のキチガイじみた蛮行』をやってのけるという、無視系に対する攻略法も、ある程度有効っちゅうことなんじゃけェ。」


オラァットはせき込みすぎてゲロを吐き、涙ぐんだ目で恨めしそうにアルチュウを睨みつけている。

「オラァ……げほっ」

そしてまだ喉が落ち着かず、啖呵を切るのも苦しそうだ。

オラァットの足元の代紋魔法陣は、急速にその橙色の光を失ってゆく。

体表の凍った小便が溶けて液体に戻り、ボタボタと教室の床に垂れて水たまりが出来ている。


「だいぶ喉の調子がよくなったようじゃのォ。ワシに感謝せェやワレェ!

『ありがとうございますアルチュウ様』って言うてみィやオラァ!」

メガホンをしまったアルチュウが、顔をピッタリとオラァットにくっつけて恫喝する。

形成を逆転させたアルチュウ。その足元の幾何学模様は、いつもの青色ではなく、烈火のような赤い光をたたえている。

足元から煌々とした光に照らされたアルチュウの顔が、妖しく赤色に染まっている。


あれっ?いつものアルチュウじゃないみたい。

まさとし君は怪訝に思う。

「……ほう、アルチュウも貫目が上がって新しい暴言を覚えたようじゃのォ。

岩本の兄弟ンとこで、脅迫系の暴言も使えるようになりよったか。

ここで畳みかけるようじゃのォ。」

ボウゲン博士はフンフンと頷きながら解説している。


アルチュウの代紋魔法陣から立ち昇った赤色の光の粒子が、盛大に爆ぜる。

「何じゃいワレェ!世話になっといて礼の一つも言えんのかいコラぁ!あァ?

そいとのォ、治療しちゃったけェ、ゼニ払えやオラァ!

おォ?何かしてもろたらゼニ払うんが筋じゃろうがい、コラぁ!!」

アルチュウのドスの効いた恫喝は続く。


ここでオラァットの心が完全に折れた。

オラァットは泣きべそをかきながら、すごすごとしげはる君のクーラーボックスに帰っていった。


「ウム、勝者、アルチュウ!」

ボウゲン博士の厳かな声が響く。

まさとし君達を取り囲んでバトルの行く末を固唾を飲んで見守っていた男子達は、ワーッと一斉に沸き立つ。


その時、しげはる君の背後から、真っ赤な火の玉のような光の塊が飛び出していった。


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