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そして、旅立ち。

あなたは、あの魔導書を9回も禁忌を破ったのね、すごいわ。そう俺に声をかけたのは、椅子に座り、ハープを片手に抱えた女性。


 俺を()き殺し、しかも、階段から突き落とした、あの同じ学校の制服を着た女子高生はすぐそばに座っていて、俺を覗き込んでいた。


 俺自身は、寝具らしき上で寝かされていた。


 上半身を起こし、その俺を突き落したそいつに一体どういうことか、何がどうして、何がどうなっているか、何から聞き出そうかとしゃべりかけようとすると。


 ハープの音の、弾く透明な音が部屋中に鳴り響いた。


 ハープを奏でる。


 レースで身を纏った。銀髪の女性が、何やら曲らしいものを爪弾きながら、何かを口ずさんでいた。

 俺は、上半身を起こしたまま、周りを見渡した。

 すると、ハープをつま弾いている手を止めこっちを向き直し、あなたの事を詩にして歌っていたの。

 吟遊詩人の様に、人の一生を書き留めるのが私の生業ですので、と。

 なんなんだ、俺は、()き殺されたうえ、こんな訳の分からない状況。

 と、思っていると。



 ガチャと扉が開き、俺が通っている学校と違う制服のメガネ女子がはいってきた、後ろから、あの、おれを突き落した同じそいつが、するりと入ってきた。ただ違うのは、その着ている制服が、今入って来た女子と同じものだった。

 女子のその手には一片の皮でできた何か一枚の皮紙をもっていた。 


 それは、と自分自身も同じもの。

 あの図書館で、見たものと同じものが、ずっと自分でも気が付かないほど握り締めていた。


 続いてまた、扉が開き、一人の女性が入ってきた。

 扉の前には、皮の表紙でできた本をかかえた女性が立っていた。


 ここは? 


 俺達二人と、黒い目玉の女子高生、そしてハープを弾いている女性に向け、同じ質問を、我々に投げかけてきた。


 問われた、自分も、今ここに来たものだから、解答を持ち合わせているわけもなく。


 代わりに、ハープを引いていた女の人は、ここは幽世、あなたたちで言う異世界と言われるものね。


 そう答えていたら、本を抱えた女性が入って来て、その後から、あの目玉の黒い女子高生が入ってきた。


 二人が入ってきたのを確認すると、ハープの女性は。

 そこにある本棚を見て下さいな、と指し示した。その方を見るとパーテーション。衝立。があった。


 俺は寝具からようやく立ち上がり、彼女達と衝立をどけて、その本棚の区画はいると、本で圧迫されるほどの本の多さだった。


 衝立の向こう側には壁一面、本が整然と並んでいた。


 棚は壁と一体となっていて、高い天井まで、それは敷き詰められていた。

 手前をごらんなさいと、促されどけた衝立の裏側を覗くと、本棚に本が並んでいない空きの空間があった。


 そこの彼女、ショートヘアの、そう、あなたが持っている本が仕上がったら、そこの本棚の空いたところに納めて、終わり、そう、一巻の終ね、文字通り。

 と、クスクス笑っていた、こっちとしては、全然面白くとも何ともないのだが。

 それでもクスクス笑いながら、ハープの女性はつづけた。その本を完成させ、そこに納めるの。


 この幽世、異世界を旅してまわり、見聞録を書き留めるの。その本一冊分ね。それが、あなたをここに呼んだ、召喚したのはそういった理由。


 切れ端、と言えども魔導書。それを読んでも禁忌を耐えることができる、力。


 力があったから。召喚できたの。


 そう、例えば、10キロも走れない人が、マラソンを走れて?25メーターも泳げない人が、何キロも遠泳ができるかしら。

 そして、決定的なことは、あの夢で試したの。9回も見たから。


 じゃあ、俺達は、彼女たちは、その力と言うものがあって、そのために()き殺されて。

 召喚されて、この世界を書き留めるまで。終わらないと・・・。





 大丈夫でしょうか、と三人の黒い目玉の女子高生は、三人を送り出しそろって言った。


 大丈夫です。とハープを持った女性は言った。


 お兄さまが、この世界の事を思い出す、そのための旅です、将来の司録(しろく)司命(しみょう)を従えて。

 きっと思い出してくれるわ。でなければ現世と幽世の境界のバランスが崩れ出しているのです。一刻も早く思い出していただかなければ。


 そなたたちも行きなさい、そう言うと女子高生は。彼女たちは、その姿を三本足のカラスとなり、一声鳴くと、窓から、一行を追いかけて飛んで行った。


 きっと、私の事を思い出させて見せる。

 今まさに旅路についた一行の。遠く離れて小さくなった。


 後姿に向け。


 彼らに届くことはないが、そうつぶやいた。


 きっと私が、ヤミーが、ヤマお兄さまを、思い出させて見せる。

 閻魔大王様だったことを。


 繰り返しそうつぶやいていた。 

ここまで、読んでいただき本当に有難うございます。一旦、この物語はここで終わります。続きはいつか書けたらと思います。拙作はカクヨム様に出品した物です。

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