事の発端 1
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
図書館の隅で、突っ伏して、寝ていた。
落ちる感覚。体が、組んでいた、足が落ちたのか、本の上に置いてた手が落ちたのか、その振動で、目が覚めた。
もう、図書室には誰もいなく、遠くで、吹奏楽部の管楽器の音色と、運動部の掛け声が遠く遠く聞こえていた。
カーテンの向こうには、夕日が建物の間に挟まりつつあった。
その光量は、徐々に少なくなっていき、目の前にある読みかけの本の文字が、見にくくなっていく事で、確認できた。
あの夢。
そう、この目の前にあるこの本を読みだしてからだ。
正確に言うとこの栞だ。
初めは、栞か何か挟まれていて、誰かが、抜き忘れたのだろう。と思った。
それくらいの、感想だったが、よく見ると何か文字の書かれた、革でできた、結構使い込んでいる古いものだった。
何か代わりに使ったというような。元々栞としてではなく何かの本の切れ端を、栞の代わりにつかっていた。と言った方がいい。
薄暗くなった、この部屋を出ようと。間延びをした、下校チャイム、を。合図に動き出した。
何かおかしい、と思ったのは廊下に出たからだ。
不自然に長い廊下。たかだか、四階奥にある図書室から、靴箱があるエントランスまですぐそこのはず。おかしい。階段もいくら降りても、降り切らない、一階に辿り着かない。
立ち止まり上の階を見上げると、上の階が、永遠に続いている、バカな、と階段の手すりの間から、顔を出し下の階を除くと、そこもまた永遠に続いていて、降りる階段が永遠に続いている。
やっと、憑き殺すことができた。
声の主は、真後ろにいた。
長い髪を、自分自身の体半分もあるだろうか。
同じ学校の制服、同じ背格好の女子高生がこっちを見ながら。
そう、その目は黒いガラスでできた、生気のない眼が印象的だった。
俺が問い返すと。それには答えず。
やっと憑り殺すことができた。と繰り返し、繰り返し、続けて。やっと、こちらの世界に誘うことができた。と。念を押すように言っていた。
続けて。
あなたが読んでいた本の、栞。魔導書の本の切れ端なの。
それを一節でも目を通したら、普通すぐ幽世の門が開き異世界に飛ぶはずなのに、あなたは、9回もそれを無効化して、普通に生活していた。おかげで、何回もあなたに憑りつくのにどれだけ苦労したか。
しかも9回も。
だから、俺はあんな夢を見たのか。
彼女は、続けて言った。魔道の力を振り切るぐらいの力があることが分かり。
おかげで、あなたが余計にこちら側に来てもわらなければならないことが、確定したの。
確定したの、って俺死んでるよね。と問うと、コクリと頷き。
いきなり。
少し、彼女の口角が上がったの見届けると同時に。
階段から俺は突き飛ばされた。
前に突き出している彼女の両手を見ながら、突き飛ばされた。確かに俺は突き飛ばされたんだと、確認しながら。階段を、落ちていった、再生速度の遅い動画を見るようで、段々彼女が小さくなっていき、俺はどこまでも階段を落ちていった。
お時間いただき有難うございます。拙作はカクヨム様に出品した物です、初めて、異世界もの的なものを書いてみました。いかがでしょうか。