第11話 感じた違和感
普通の大学生、伊織美鈴が、ラジオのお仕事に巻き込まれていきます(笑)
テレビに比べて極めて少人数で制作されているのがラジオ番組です。
その現場は数々の苦労にまみれていますが、それ以上に楽しさにも溢れています。
そんな雰囲気が伝わるといいなと、書き進めていきますのでよろしくお願いします!
毎週水曜日更新予定です。
美鈴は、生放送に使われる大きめのスタジオのすぐ隣りにあるテレフォンセンターで、じっと電話メッセージの整理にあたっていた。雑多に積まれた用紙の山は、「サトカナの情報ジャンクフード」、通称「情ジャン」に寄せられたリスナーからのメッセージだ。どれもこれも、オペレーターが電話を受けながら殴り書きしたものばかり。
「私は私のお仕事をしっかりと努めよう。その方が落ち着ける」
美鈴は心の中でそう繰り返した。
ここ数日頭から離れない不安と疑念を振り払うように、黙々と作業に没頭する。大学生のアルバイトやベテランのオペレーターたちの書きなぐったような文字が用紙の上で踊っている。電話を受けながらのメモだから、きれいな字を書いている余裕などあるはずもない。もちろん、PCに打ち込んでプリントアウトする時間など、あるはずもなかった。
オペレーターによって様々な形の文字が並ぶ。
几帳面な楷書、丸みを帯びた可愛らしい文字、まるで子供が書いたかのような素朴なものまで、十人十色の筆跡がそこにはあった。美鈴は無意識のうちに、それらの文字を目で追っていた。
その時、ハッと美鈴の目が大きく見開かれた。
手書きの文字には「筆跡」がある。
クマのぬいぐるみから見つかったメモの文字は、不気味に歪んでいた。
だが、小包の送り状に書かれた文字は、まるで定規で引かれたように神経質な直線でできていた。
「もしかして、違う人物が書いたのかも……?」
そうだ……単独犯じゃない可能性もあるのではないか?
そう気づいた美鈴の心中は震えていた。
その頃、別の場所では若者向けのバラエティ番組「オススメの目!」の最終準備が進められていた。スタジオには、今、若い世代に絶大な人気を誇るVTuber、タジマタロウがパーソナリティとしてスタンバイしている。今夜のゲスト、山科カナもスタジオに入り、タジマタロウと最終的な打ち合わせに入っている。彼女の表情は真剣そのものだ。
「オスス目」の次に放送される番組は、美鈴が整理しているメッセージの番組「情ジャン」だ。間に5分間のニュース番組が挟まる。その短い時間で、スタジオは慌ただしく入れ替わることになる。
そのためこの時間になると、テレフォンセンターには次の番組である「情ジャン」の電話オペレーターたちが集まり始める。
各自、自分の電話回線を確保し、ヘッドセットのテストをする。中には、慌ただしくコンビニ弁当で食事を摂る者もいた。皆、本番前の独特の緊張感に包まれている。
美鈴は再び、メッセージ用紙の整理に戻った。先ほどの閃きが、まだ頭の中で残響のように響いている。
単独犯か、複数犯か。
そんな可能性は、美鈴と違い牧原など他のスタッフ、それこそ警察ならとっくに気づいているはずだ。
いや……もし気づいていなかったら?
再び美鈴に小さく震えが走る。
その時、美鈴の目が、ふとあるメッセージの上で止まった。
「え……なにこれ!?」
心臓がドクリと大きく音を立て、耳の奥で自分の鼓動が聞こえた。
そこには、見覚えのある筆跡の文字が並んでいたのだ。
定規で引いたように几帳帳で、まるで印刷されたかのような正確さで整然と並んでいる。
「送り状を見た時に感じた違和感は、これだった……!」
美鈴が、日常的にいつもメッセージの整理で目にしていた文字。それが、あの送り状の筆跡と一致している。
頭の中で、バラバラだったパズルのピースが、一気にカチリと嵌まったような感覚に襲われた。
犯人は、外部にいるリスナーとは限らない。もしかするとスタッフの可能性だってあるのではないか?
シンプルなことに、なぜ今まで気づかなかったのか。美鈴は自らを責める。こんなにも分かりやすい手がかりが、すぐ目の前にあったというのに。
メッセージ用紙には、誰がその電話を受けたのか、担当者の名前を記入する欄がある。美鈴は慌ててその欄を確認した。しかし、そこには記名がない。空白のままになっている。
集まり始めたオペレーターたちに、盗み見るように目をやる。彼ら彼女らの表情は、普段と何も変わらない。
まさか、この中に……?
美鈴は、いても立ってもいられなくなった。
「牧原さんに知らせないと!」
美鈴は慌てて立ち上がった。一刻も早くこの情報を伝えなければならない。彼女の視線は、すでにテレフォンセンターの出口へと向いていた。
足早にそこへ向かう彼女の心臓は、まだ激しく脈打っていた。
新しい可能性に気づいた美鈴。
次なる展開は!?
次回をお楽しみに!




