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第二話【怪談と少年】5


 絶望して項垂れていても仕方がないと、尚樹は握っていたブレスレットを外して掌に乗せる。


「紫織さんのネックレスも、術具なんですよね?」

「そうよ」

「名前、あるんですか?」

「えぇ」


紫織はネックレスの飾り部分を掬い上げ、藤の花のデザインを愛おしげに指でなぞる。


藤燕(ふじつばめ)。それがこの子の名前よ。青維様から頂いた、この世に一つだけの宝物だわ」


穏やかな表情を浮かべる彼女と同じ様に、ブレスレットの葉の模様をなぞる。植物には詳しくないが、きっと藤の葉なのだろう。


「その子も、あなたから与えられる名を待っているわよ」


 嵌め込まれた、青と橙の混ざる夕焼け色の石を見通す。薄暗い教室だというのに、石の奥が煌めく。


「名前…ね」


____…。


「ん?」


悩む尚樹に、音が届いた。

それは、鼓膜を震わされて感知したのではない。頭の中に直接響いたような、そんな音だった。また何か恐ろしいことが起きたのかと身構えるが、不思議と心は凪いでいた。


___か…。


声だった。

続けて脳内に響いた音は、今度は言葉を紡いだ。フワフワとして声の特徴も掴みきれず、男か女かすら分からない。ハッキリとは聞き取れず、それでも、一言が、自然と口から溢れ落ちる。


「お…か……黄火(おうか)


掲げたブレスレットを見ながら発せられたそれに、橙色の光が弾ける。尚樹の言葉に応えるように、ブレスレットは鋏へと姿を変えた。

 持ち手に指を通し、刃を開き、閉じるを数回繰り返す。初めて手にした時以上に、馴染む感覚がした。


「出来た」

「黄火、それがその子の名前?」

「多分…?」

「煮え切らないわね。あなたが決めたのでしょう?」

「俺がっつーか、頭に浮かんだ?聞こえてきた?みたいな?」

「ふぅん。切っ掛けがなんであれ、その子が受け入れたのなら良かったわね」

「そう…ですね」

「さ、準備が出来たなら、外のあれ、どうにかするわよ」


尚樹は鋏を構えつつ立ち上がり、廊下へと意識を向ける。


「人体模型は、壊せば動きは止まるでしょう。問題は廊下の方よ」

「策があるんですか?」

「それよ」


そう言って紫織が指差すのは、尚樹の持つ鋏だった。


「廊下が同じ所を繰り返しているのなら、どこかに繋ぎ目があるはず」

「そこを、これで切るってことか」


 術具は使用者の思いや力を具現化し、手助けをするもの。

鋏とは切るものだ。尚樹が願い手にした鋏は、あらゆるモノを切り裂ける。どこまで、何が切れるのか、まだ尚樹は使いこなせず能力も未知数だが、トンネルでの感触から、出来ると確信していた。

鋏を握り直し、扉に耳を当て外の様子を探る。人体模型は扉を開ける素振りはなく、ひたすら廊下を真っ直ぐ歩いているだけのようだった。探すという知能はなく、さ迷い歩くだけならば対処のしようはある。

 二人は学校の見取り図から推測をたて、廊下からの脱出と人体模型の対処、どちらも一遍に解決する作戦をたてた。

教室の前を人体模型が通り過ぎたあと、気付かれぬようゆっくり扉を開けて廊下へ出た。紫織は教室前で待機し、尚樹は人体模型と一定の距離を保ちつつ後に続く。そう言えばと階段を探すが見当たらず、完全に一本道に閉ざされていた。いくつか教室を通り過ぎた辺りで、見覚えのあるプレートがあった。資料室と書かれたそこは、隠れていた教室の少し手前の部屋だったはずだ。

 所々電気の切れた薄暗い廊下の先、人体模型が紫色の光に拘束されているのが視えた。教室前で待機していた紫織による足止めが成功したのだ。


『今のうちに!』


尚樹は振り返り、来た道を戻る。

学校の教室など似たような作りばかりとはいえ、無理矢理繋げているなら綻びがある。人体模型に注意しつつプレートやポスターを確認して、大まかな位置は特定できている。繋ぎ目を見付けるために壁を辿れば、不自然に汚れが途切れている箇所が、柱の影に隠れていた。意識してよく視れば、廊下の床から天井までぐるりと一周、ペンで書いたような黒い線が浮かび上がった。


「まるでキリトリ線だな」


尚樹は線を跨ぎ、紫織達とは反対側へ移った。

 挟んで切るのではなく、先端を当てるように軽く刃を開き、鋏へと意識を集中する。力を使うには、具体的に想像することが必要だ。空間を、廊下を真っ二つに裁ち切るイメージをすれば、橙色の光が鋏から滲む。さらに力を込めていくと、光は鋏の形を残したまま次第に大きくなり、黒い線に当たった。


「紫織さん!」


大声で合図を出せば、紫織は人体模型を拘束していた術を解いた。解放された人体模型は耳障りな音をたてながら、一直線に尚樹へと走り出す。

どんどん迫り来るそれに、怯むことなくタイミングを計る。


『引き付けろ、ギリギリまで!』


あと数歩で手が届くところまで来た瞬間、尚樹は鋏を持つ腕を線をなぞるように回した。

 光は尚樹の想像通りに黒い線を裁ち切り、ガラスの割れるような音がしたかと思えば、目の前の景色が一変した。尚樹は壁の前に立っており、迫ってきていた人体模型の姿は無い。


「尚樹」


呼ばれた声に振り向けば、紫織が実体を持って立っていた。二人で反対側の端へ歩いていけば、そこにはバラバラに壊れた人体模型が散らばっていた。


「作戦成功か」

「気配も消えてるわね」


 二人の作戦は単純なものだった。

学校の見取り図からループの切っ掛けが廊下の端だと分かり、そこを尚樹の鋏で切れば脱出は出来る。ループが無くなれば、その瞬間そこに現れるのは壁だ。

知性もない、ただ突進してくるだけの人体模型はスピードを緩めることなく、壁に激突した。あれだけの勢いでぶつかれば、砕けることは容易に想像できた。


ギーンゴーンガーンゴーン__


 所々音階がズレ、ザラついた不快なノイズがかったチャイムが二回、スピーカーから流れた。チャイムに関する七不思議は無かったが、二人は警戒を強める。

しばらく気を張っていたが、特に何も起こらない。


「何だったんだ?」

「気にしてもしょうがないわ。ここを片付けて移動するわよ」

「分かりました」


尚樹は持っていた鋏をズボンとベルトの間に差し込んだ。ブレスレットに戻すことも考えたが、この状況下ではすぐに使えるようにしておいた方が良いと結論付けた。

 一応学校の備品である人体模型を、持ってきた荷物の中からビニール袋を取り出し、万が一にも動き出した時に阻害できるように入れた。


「札を貼って」

「札?」


言われて荷物を漁れば、短冊状の和紙が数枚入っていた。筆で書かれた黒い文字は流麗で、歴史の教科書で見るような書体だった。


「退…ふ…?」

退邪封滅(たいじゃふうめつ)。貼られた物の力を消す効力があるの」

「これも所長が?」

「いいえ。それは専門の職人が作った札よ」

「へぇ」


札の職人が居るとは、尚樹は自分が思っているより、こちら側の世界は広いのではと思い始めていた。

ビニール袋の口を結んで札を当てると、接着剤などは付いていないにも関わらず、ピタリと袋にくっついた。不思議そうに見つめる尚樹に、中の物の力を察知して貼り付くように出来ているのだと紫織が説明する。


「それは後で回収するとして、今は」


ギーンゴーンガーンゴーン__


 ふたたび、あのチャイムが鳴り響いた。

何を意味しているのかは不明だが、とにかく陸達との合流が先だと、紫織は尚樹を促しその場を後にした。

 尾桜第一小学校は校舎が東西に別れており、間を各階二つの渡り廊下が結んでいる。尚樹達が西側から東側の三階へ渡ると、先刻訪れた音楽室が見えた。


「ここに繋がるのか」


もしかしたら陸が中に居るかもしれないと扉を開ける。かろうじて明かりが全体を照らしており、誰も居ないことはすぐに把握できた。室内を見渡して、自然と視線が肖像画の額縁へと流れる。並んだ肖像画は左から順に、ハイドン、バッハ、モーツァルト、ショパン、シューベルト、ベートーヴェンだった。


「紫織さん!あれ!」

「替わってるわね」


名前はうろ覚えでも、入れ替わっているのは確かだ。その事実を認識した二人の耳に、ピアノの音が聞こえてきた。咄嗟に置かれたグランドピアノを見るが、もちろん人は居らず、ひとりでに鍵盤が動き音を奏でている。意識をピアノに奪われた二人に、今度は音を探るような伸びやかな声が聞こえた。

 ピアノの伴奏にあわせ、歌おうとしているのだ。


「肖像画を戻して!」

「え?!」

「早く!!」


紫織の剣幕に、言い返そうとした尚樹は急いで額縁へと向かう。行儀は悪いが構わず棚に上り、何か起きるかと思われたが、声を発する肖像画には簡単に触れることが出来た。絵自体は動いておらず、声は出ていても口は開いていない。だから目も動いてはいないのだが、どうにも睨まれている気がして落ち着かない。

入れ替わってることは分かるが順番までは自信がなかったので、陸のメモを慌てて取り出して額縁を外す。早くしなければと、伴奏や声が尚樹を焦らせる。

 名前すらうろ覚えな彼らは気付いていないが、肖像画は主に年代順に並べられていた。それが分かっていれば、メモを見ずとも素早く戻せただろう。

メモと記憶を頼りに、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、最後に一番右にショパンを掛けた瞬間、声が止み、ピアノの伴奏も止まった。静寂を取り戻した音楽室に、スピーカーからあのチャイムが流れた。


「これって、七不思議を解決したタイミングで鳴ってるのか?」

「そういうことでしょうね」


尚樹は棚から下りて、扉を開けて待つ紫織と共に音楽室から出た。

 チャイムが鳴ったのは四回。推測が正しければ、対処しなければいけない七不思議は残り三つ。計らずも手分けして解決できているようで、合流せずこのままでも良いのではと尚樹は思ってしまった。紫織も同じ考えなのか、どちらにせよ七不思議のある場所に向かおうと、東側三階の図書室へ歩みを進める。


『図書室の掲示板』

自分の名前の本が掲示板で紹介される。


「いまいち内容がピンとこない。だからなんだって話だし」

「これね」


 初めに来たときは気にもとめていなかった、図書室前のポスター等を貼るためのボード。そこに『図書委員オススメ本』と書かれたプリントが貼り出されていた。低学年と高学年向けで何冊か紹介されており、オススメ理由などが丁寧に書かれている。

そうして二人が掲示板へ目を向けていると、突然ぐにゃりとプリントの文字が崩れた。いくつもの黒い線がミミズのように紙の上を這い回り、新しい文字を形成していく。気味が悪くも黙って見続ければ、オススメ本のタイトル欄に『早条尚樹』『天崎紫織』と書かれ、著者名が空欄のプリントへと変わった。


「これだけ?」


文字の変化以外何も起きず、尚樹は拍子抜けした。元々他の七不思議と比べると印象が薄かったが、さっきまでが大変すぎて余計にそう感じてしまった。


「この紙を切れば終わり…」

「待って」


鋏を構えようとする尚樹に、紫織が険しい表情を浮かべて制した。


「よく視てみなさい」

「視るって何を……っ?」


改めて、尚樹が意識してプリントを視れば、プリントから図書室の中へ、黒い糸が続いていた。


「何が視える?」

「黒い糸が、図書室に伸びてます」

「やっぱりね。紹介されたなら、その本が図書室にはあるはずだもの」

「紫織さんも視えてたんですか?」

「いいえ、少し違和感があっただけよ」


紫織は尚樹へ、鋭い視線を向ける。


「力の使い方を学びたいなら、ちゃんと意識することね。でないと、この世界では命に関わるわよ」

「肝に、銘じます」

「分かればいいわ。行くわよ」


糸の先を確かめるために、図書室の扉を開く。

 中に入ると糸は途中から二本に別れて、違う本棚へ繋がっていた。紫織へ糸のことを伝えると、それぞれ確認をすることになった。


「一つは奥の棚の、下から二番目の端…」

「この辺り?」

「あ、その隣です」

「分かったわ」


あとは気配を辿れると言う紫織を残し、尚樹はもう一方の糸の先へと向かう。辞書や図鑑などが並ぶ低い棚の上、表紙が見えるように目立たせて置かれた本に、糸は繋がっていた。

 黒い表紙に、白い字で『早条尚樹』と書かれている。手に取ってパラパラと捲れば、すぐに内容は察した。

両親の名前から始まり、進学した学校、友人の名前、訪れた場所、趣味嗜好、『早条尚樹』に関する全てが、そこに書かれていた。

馬鹿馬鹿しいと目を滑らせつつ捲っていると、異質なページに手が止まった。


_■■■、また■■■■■と、■■■■■はその■■■を■■へと■■■■■■■■■。

■■が意識を■■■■■■、すでに■■■■■

■■していた。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■___。


 黒塗りばかりで、何も読み取れない。

他のページにも黒塗りはちらほらあったが、あくまで部分的にであり、数ページに渡って全てが塗り潰されているのは異様に思えた。

前後の項目から、恐らく四歳か五歳頃の内容だろうが、幼い頃の記憶など曖昧で、何も覚えていない。ただ一つ思い当たるのは、幽霊が見えるようになったのが、これくらいの歳だったということだ。ならば原因が分かるのではと読もうとするが、流石に無理があった。折角の機会だというのに使えない。いや、もしくはそれが、この本の正体なのかもしれない。

これは___


「本人の記憶を元に作られた本」

「っ!?」


 心の中で思った言葉が後ろから聞こえ、尚樹は勢いよく振り返った。


「心臓に悪いんで、気配を消して急に話しかけるのやめてもらえませんか…」

「わざわざ気配なんて消してないわよ。あなたが本に集中して警戒を怠っていただけでしょう?命に関わると注意したばかりな気がするけど?」

「うっ…すみません」

「次はないわよ」


紫織が、自分の名前が書かれた本を掲げた。


「記憶を元に本を作るなんて、相当厄介な怪異だわ」


気分が悪いことを取り繕うこともなく、怨めしい表情で本を見据える。

 尚樹は、自分と同様に過去が書かれているだろう紫織の本が気になったが、言葉にすることなど出来るはずもなく、そう思った好奇の気配すら、今回ばかりは隠し通した。きっと少なからず、紫織自身も集中を欠いていたからこそ、覚られずに済んだ。

意識を逸らすように、軽い口調で問い掛ける。


「そもそも、なんでこれが七不思議に?殺されたり呪われたりと違って、害はなさそうだし」

「他人にこの本を読まれたらどう思う?」

「そりゃあ、嫌ですね。知られたくないこととかあるし…」

「その、嫌という感情から生まれてるのよ」


 怪異は恐怖や不安、嫌悪、あらゆる負の感情が元となる。

『自分の秘密を友達に知られる』、子供が怖がるには、十分効果的な七不思議だ。


「それで、この悪趣味な本を消せば解決かしらね」

「…掲示板にも糸は繋がってたので、どっちも消さないと駄目かも」


二人はそれぞれ本を持ったまま、図書室を出て掲示板の前に戻ってきた。ボードの出っ張りに本を立て掛け、尚樹が鋏を構える。


「いきます!」


開いた刃を、全てを断つように閉じた。

本とボードは真っ二つに切り裂かれ、橙色の光が炎のように包み込み、光が弾けると跡形もなく消えた。掲示板を失くしてしまった事に関しては謝罪の必要があるかもしれないが、また新しく置いてもらうしかない。

 初めて尚樹の力を目の当たりにした紫織は、朧気だが確かにあった気配が消滅したことで、神の力の強大さを実感した。痕跡を残さず消し去るなど、並の術者では不可能だ。時間をかけるか、青維程の力があれば…といったレベルだ。どれだけ凄いことをやってのけているのか彼に自覚はないだろうが、人の身には過ぎた力だと、紫織は不憫に思った。


ギーンゴーンガーンゴーン__


 五回目のチャイムを聞きながら、二人は次の目的地を話し合う。


「一度事務室まで戻ってみます?」

「様子を見るくらいはした方が良いかもしれないわね」


三階の用事は片付いたため二階へ下りようと階段へ向かうと、おかしな光景に足を止める。

 階段と廊下の周りが蜃気楼のように歪み、線が、輪郭がボヤけて揺れていた。目の錯覚を疑うが、歪んだ景色がユラユラと動き続けて現実だと訴えてくる。


「これ」

「っさがって!」

「うぉっ!?」


他の階段を使うか提案しようと口を開いた尚樹を、紫織が腕を引いて壁際へ寄せた。驚く尚樹の視界の端で、先程まで立っていた場所を何かが勢いよく通り過ぎた。警戒しつつ注視すれば、それは廊下の壁に当たり砕けて消えた。速くてよく見えなかったが、細長い棒のような物だったと思う。

あんなスピードで飛んできた物に当たっていたらどうなっていたか、想像するとゾッとした。


「あっぶねぇ…ありがとうございます」

「どういたしまして。不可抗力とは言え、味方を危険に晒すのは感心しないわね」

「味方?」

「尚樹、やり返していいわよ。今のあなたなら制御も出来るでしょ」

「やり返す?」


全然話が見えないと困惑する尚樹に、紫織が階段を指差す。


「矢が飛んできた場所を切るの」


さっきの棒は矢だったらしい。何故分かったのか気になるが、とにかくやってみるしかないと、鋏を階段へ向けて振り下ろせば、カーテンのように空間が縦に裂けた。

 切られた隙間から向こう側を覗こうとした時、裂け目を広げるように人の手が縁を掴んだ。抵抗なく左右に開いた裂け目から、声が聞こえた。


「なんか開いた!博君出て出て早く!!」

「わぁあ!!」


声に促されて飛び出してきたのは、はぐれていた少年、博だった。


「あっ、弓が引っ掛かった!やっば、ちょ、うっおぁあ!!」


彼に続いて慌ただしく現れたツナギ姿の男は、半ば転ぶように弓を抱えて出てきた。


「陸、あなた何をしているの?」


無様に廊下に転がる男へ、冷ややかな紫織の視線が降り注ぐ。


「紫織さん!尚樹君も!無事でよかった!」


それくらいではへこたれないとばかりに、陸は服を(はた)きながら立ち上がる。はぐれた時より服がヨレて顔にも汚れが付いており、心なしかボロボロになっている。


ギーンゴーンガーンゴーン__


 音階がズレたチャイムも、六回目ともなれば慣れてきたと、尚樹は緊張感の欠ける現状にそんなことを考えていた。



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