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page1

ガラガラ


荷馬車が轍を残しながら街道を走る。

その横に付きながら、ラウルは歩いていた。


フウロを出てからおよそ4刻程。

地形としてはなだらかな平原の中の道を、行商隊は征く。

空は蒼く、緑の大地を太陽が燦々と照らす様はまるで絵画のようで、ラウルの心を踊らせる。

たまに、ラウルの身の丈のおよそ3倍はあるかという大きさの石や、色とりどりの野生の花畑を見かけてはその度に、ほう、と声を漏らす。

これ程の距離を歩いていれば、普通は疲れてくるものだが、ラウルは不思議と疲れを感じていなかった。

それは元々の体力故か、それとも見るもの全てが新しくそれらに意識を取られているためか。その両方かもしれない。

ただ、兎も角。

死にそうな顔をしながら横を歩くフレアに比べ、ラウルの顔に一切の疲れがないのは確かである。



「止まれー!」


そうこうして進んでいると先頭の馬車に乗っていたヤルンの声が響いた。

その声に呼応して、各荷馬車が街道の脇に止まる。

丁度ここは、街道に設けられた休憩所だ。

といっても、なにか建物があるわけではない。ただ街道の脇を整備して、小さな広場のようになっているだけだ。だが、5台の馬車が入っても余裕があるだけの広さを備えている。


「やっと休憩ね……」


息も絶え絶えといった様子でフレアが呟いた。

長杖を支えにする姿は老人のようで、とてもうら若き女魔術師がするものではない。

一方で、マクリーや盾を背負っているジルドは余裕そうな表情をしているし、イリスも然程疲れた様子はない。

おそらく、フレアの体力が少ないだけなのだろうな、とラウルは思ったが同時に4刻里も歩いていれば疲れもするかと思い直す。


「おう、調子はどうだ?」


フレア達の様子を眺めていると、ゴルムが声を掛けてきた。その額には汗が流れているものの、こちらも特に疲れた様子はなく、その手には紙の包みを持っている。


「いいですよ」

「ほ〜う、余裕そうだな。ほれ」


笑いながら、ゴルムは手に持っていた包みをラウルに投げてよこす。

それを危なげなくキャッチし、包みを開けると、その中にはパンが入っていた。それも保存がきく様に固くそして塩を多く使って作られた訳ではない、柔らかいパンだ。


「昼飯だ。水はあっちにあるからな。酒は着いてからのお楽しみだ」

「ありがとうございます」


そう言いながら去っていくゴルムに礼を言ってから、ラウルはパンを囓る。

パンはほんのりと甘く、中には干しぶどうが入っていた。なるほど、栄養的にも十分な食事だ。

ふと、マクリー達を見れば彼らも地面へ座ってパンを食べている。マクリーとジルドは、それだけでは物足りないのか私物と思われる干し肉も手にしていた。


「ん?おい、こっち来いよ!」


ラウルが見ていることに気付き、ジルドが自分の横をバンバン叩きながら呼ぶ。地面を叩くたびに少し土埃が舞い、フレアが嫌そうな顔をするが、彼がそれに気付くことはない。

そんな様子を見て、ラウルは苦笑いしながらジルド達に近寄った。


「おつかれ。調子はどう?」

「いいですよ。どれも新鮮で全然飽きませんし」

「はは、それはよかった」


マクリーに聞かれ、それに答えながらラウルも近くに座った。そして、徐ろに【夢見の鞄】から干し肉の包みを取り出し、一欠片つまんで口に運ぶ。

グッと、噛み切り、何度か咀嚼する。

すると、口の中に香辛料と塩気、凝縮された肉の旨味が広がり、仄かな燻製香が鼻を突き抜ける。

ジャン謹製の干し肉だ。

幼い頃から親しんだ味に、思わずラウルの顔がほころび、一口二口と続ける。


「なんか、随分余裕そうね」


そんなラウルを見て、フレアが言った。

4刻も歩き続けているのに疲れた様子の無いラウルに比べ、フレアの顔には些か疲れの色が見える。フレアとて、冒険者なのだから一般人よりは体力があると自負している。だが、そんなフレアよりも初めての旅のラウルの方が余裕があるように彼女は感じたのだ。たしかに、男女の性差というのはあるが、それにしてもだ。


「そりゃあ、剣士なんだからお前よりは体力あるだろ」


ラウルが答える前にジルドが口を出した。

その口振りは、魔術師は剣士に比べ体力面で劣ると暗に示している。事実、基本的にはそうである。一部には近接職並に鍛えている体力自慢の魔術師も居たりするが。だがしかし、ラウルに関してはジルドとフレアでラウルに対する認識に違いがあった。


「ラウルは魔術師よ」

「はあ?何言ってんだ。どう見ても剣士だろ。なあ?」


フレアの言葉に、ジルドは困惑を隠さずマクリー、イリス、そしてラウルの順に視線を送る。その視線に対する答えは各々異なっていた。


「昨日は魔術師って聞きましたよ」


昨夜の会話を思い出しながら、そう言ったのはイリスだ。

夜会でフレアに対してのゴルムの言葉は「ラウルは魔術師である」というものだった。


「俺はなんともわからないけど……」

「いやいや、魔術師な訳ないだろ!ほら、杖も無いし」


首を振るマクリーに、同意をもとめる様にジルドは言う。

剣士なら剣を、魔術師なら杖を持っているというのが、ジルドの中での常識なのだろう。まあそれも強ち間違いではないのだが。


「いや、杖が無くても魔術は使えるわよ。ほら」


そう言いながらフレアは左手の人差し指を立て、その指先に小さな火を出す。

その光景を見て、ジルドは呆けた顔をする。


「マジか……」

「普通は杖を使うけどね」


フレアの言うとおり、魔術は杖を使わずとも発動できる。だが、杖を使えば発動におけるプロセスの補助や、魔術の増幅が行える。また、杖の素材によっては各属性の魔術をさらに増幅することも可能だ。故に、魔術師はその腕の優劣に関わらずほぼ全員が杖を所持している。


「それと、杖以外にも似たものがあるのよ。それこそ、ラウルのしてる指輪もそうでしょ?」


フレアが目敏く、ラウルの左手中指の指輪を指差す。

マクリー達の視線が一斉に向けられるのを感じながらラウルは答えた。


「えぇ、まあ」

「ほらね。でも指輪型って珍しいわよね。どうしても杖の方が一般的だし……でも、剣も使うならその方がいいのかしら」


フレアは饒舌をふるう。

彼女は魔術に関してのことになると、少し周りのことが見えなくなることが多々ある為、マクリー達はまた始まったといった表情だ。

一方、ラウルはといえば、まさかフレアがこんな事になるとは全く予想もしていなかったため少し驚いた表情を見せる。


こうして、フレアの話を肴にしつつ休憩時間は過ぎていったのだった。



◇◆◇◆◇


ラウル達が休憩を終え、更に4刻程進むと目的地の村へと到着した。

日も傾き、もう少しで夜になるだろう時間帯だ。


「フウロの商人ガットーじゃ」


村の入り口を警備していた自警団と思しき青年達にヤルンが告げた。

自警団員の一人が荷馬車を確認して回る。

1台目、2台目……最後に5台目と確認し、すれ違いざまにラウルを睨みつけてから戻っていった。

問題は無かったようだが、何故彼が睨みつけてきたのかラウルは疑問に思う。しかし、気にしても、また睨みつけられたと騒ぎ立てても得は無いし、そもそも勘違いの可能性もある。

ラウルは特に気にすることは無かった。


少しして、自警団の1人に連れられヤルンとゴルムの二人が村に入っていった。


「村長に話をしにいったんだね」


その様子を見て、マクリーがラウルに言った。

行商というのは定期的に訪れるものとそうでないものの2つに別れられる。今回は後者であり、また、この規模の村だと宿泊施設が十分ではない。その為、ヤルンは村内での商いの許可と村の近くでの野営の許可を取りに行ったのだろう。

簡単に言えばそういう内容のことをマクリーはラウルに教えてくれた。


それが正しかったとラウルがわかるのはこれからまた十数分後のことだった。

✔作中における時間と距離

1刻……1時間(60分=3600秒)

1刻里……1刻で徒歩で進める距離。大体4km程。


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