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Prolog5


ヤルンとひとしきり話したあと、ラウルとリザは旅立ちの準備のための買い出しへ戻った。

ある程度の大きさのもの────野営の際の天幕などは、ヤルンが行商の時に一緒に持っていくと言っていたため、買うのはラウルが使うものだけだ。


そして、その上で必要な物に関してはリザがよく知っている。

なにせ、元は冒険者だったのだ。ただ行商に着いていくだけではなく、その後冒険者として活動するにあたって必要な物、あった方がいいであろう物は熟知している。

その為、買い物自体はトントン拍子に進んだ。


鉄の小鍋、調理用ナイフ、料理用の匙、ヘラ、食具などはガットー商会で購入した。店主であるヤルンの息子────ガルン・ガットーは、ラウルが父の行商に同行し冒険者になると聞くと大層驚き、そして激励の言葉と大ぶりの立派なナイフを餞別として送ってくれた。

ガルンに感謝し、二人が次いで向かったのは服飾店だ。そこでは少し厚手の服を二着ほど買った。そこの店主もガルン同様、ラウルの旅立ちの餞別として布製のベルトを送ってくれた。


行く先々の店で、そんなことが多々あったので帰る頃にはラウルどころかリザの両手も塞がってしまった。

どの店も、昔から知っている店だったので、思い出話をすることもあった。そして皆、ラウルの旅立ちを祝福してくれた。時には、涙を流して。


「ラウル」

「ん?」

「この事を忘れちゃダメだよ」


そう言ったリザに、ラウルは強く頷いた。

忘れられるものか。皆、ラウルの肩を叩き、そして激励の言葉を送ってくれた。幼い日からラウルを見てきた彼らのその言葉は、なによりの宝だ。

なにがあっても忘れることはできない。

そしてなにより。沢山の人が応援してくれたことに、ラウルは心を熱くした。


きっと、立派に独り立ちしていつか帰ってこよう。

ラウルはそう誓った。


そうして、夕陽を背に二人は帰路についた。



◇◆◇◆◇


その日の夜。

夕食を終え、食後のお茶を飲んでいるとリザが途中で部屋へ戻った。


そして少しして戻ってくると、その手には小さな鞄があった。

リザはその鞄をテーブルの上に置いた。

ランタンの火が揺れ、その鞄を照らす。


深い茶色の革製の鞄だ。だが、その革は牛革でも山羊革でも無さそうで、ラウルには材質の見当はつかなかった。

男性の手で1.5個分ほどの大きさの薄い箱型で、フラップには精緻な装飾が施され、小さなベルトと金色の留め具が付いている。左右には小さなポケットがあった。


「これは?」


ラウルは再び椅子に座り、カップに口をつけたリザに訊いた。


「これは【夢見の鞄】。私からの餞別だよ」

「夢見の鞄……?」


首を傾げるラウルに、リザは鞄を差し出しながら説明を始めた。


「この鞄は、見た目通りじゃないの。まるで夢を見ているように沢山の物が入るし、中に入れたものの劣化が著しく遅くなる。…………そうだね、例えば」


リザは立ち上がると、鞄を開け片手に持ちながら、もう片方の手で椅子に触れた。


その瞬間、椅子がその場から消失した。

それは決して、比喩なんかではない。事実として、椅子がその場から消えたのだ。

あまりに突然の事に、ラウルも思わず言葉を失う。


「こんな感じ」


言いつつ、再び椅子が現れる。

その椅子に座ると、リザは鞄を机に置いた。


「ある程度までなら、この鞄に入らないものはないんだ。鞄を開けて、片手で鞄を触れながらもう片方の手で入れたいものに触れる。そうして『入れる』と強く念じれば収納できるものならできるし、無理なら出来ない。出すときは開けて、触れながら『出す』と念じれば出てくる」


まあ、便利な鞄ってところだよ。

そう言ったリザはラウルに鞄を渡した。


「ただ、この鞄は結構希少だからね。あまり人前では使わない方がいい。おっと、貰えないなんて言わないでよ」


なにか言おうとしたラウルをリザは制した。

その言葉は、正しくラウルが言おうとした言葉で、ラウルは何も言えない。


「これは、私が冒険者をしてる時に使ってたものなんだ。でも、もう使うことはないからね。道具は使われてこそ道具だ。だからラウル……これを使ってくれ」


そう言われては、ラウルも断わることはできなかった。

うん、と頷くラウルにリザは満足げに笑みを浮かべた。


「さて、そうしたらその鞄についてもう少し教えようか。お茶をもう1杯入れてくれる?」

「わかった」


ラウルはポットを持って立ち上がった。



それからしばらく。

窓から灯りが漏れたまま、夜は更けていった。



◇◆◇◆◇


「えぇ!!?本当マジかよ!!」


広場に響いた大きな声に、周囲の人々が怪訝そうな目をしてその声の主を見る。

声の主は、筋骨隆々のハゲ頭────ジャンだ。目を剥いて驚きの声を上げたジャンに、ラウルは口の前で人差し指をたてた。

その様子を見て、ハッとしたようにジャンは口を押さえると、ペコペコと周囲に頭を下げてから、ズイッと厳つい顔をラウルに近づけた。


「で、本当に行くのかよ」

「嘘ついてもしょうがないだろ」

「いや、そうだけどよぉ」


急じゃねぇかよ、とジャンは口にした。

ヤルンが行商に出るらしいと話したのはジャンだったが、まさかラウルもそれに着いていくことになるとは思っていなかったのだ。しかも、その後はこの街に帰って来ずに冒険者になるなんて、まさしく青天の霹靂だった。


「なんか寂しくなるなぁ」


そう言ったジャンの目元には、光るものがあった。


「泣かないでよ」

「泣いてねぇやい!ゴミが入っただけだい!」


そんな風に軽口を言い合う、ジャンの脳裏にもまた幼い日のラウルのことが浮かんでいた。初めて、ラウルに出会った日のことも。


「まあ、そういうわけだからさ。取り敢えず、旅に持っていける干し肉とか適当に見繕ってよ。ここのが一番好きなんだ」

「……あ、ああ!」


少し照れくさそうに言ったラウルに、厳つい笑みを浮かべながらジャンは返事をした。

ジャンはラウルに背を向け、数種類の干し肉などを紙に包む。


「そのうち、帰ってくるんだよな」

「うん」


背を向けたまま訊いたジャンに、ラウルはそう答える。

その答えを聞いたジャンは振り向き、干し肉の包みをラウルに突き出した。


「金は要らねぇ」

「そういうわけにはいかないよ」

「いいから持ってけ。そんで帰ってきた時にまた買いに来い」


言いながらジャンは強引にラウルに包みを持たせた。

その量は軽く見積もっても15日分以上ある。本来ならかなりの売上になる量だ。

ジャンがそれだけの物を渡し、こう言うのには理由があった。それは無事に帰って来いということだ。


「いいか、絶対だからな」


さらに言い重ねるジャンに、ラウルは頷くことしかできなかった。

その様子に、よしと納得したようにジャンは腕を組んだ。


「気ぃつけていけよ」

「ありがとう、ジャン」


別れ際、ぶっきらぼうに言ったジャンに頭を下げてからラウルは市場を後にした。






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