Prolog1
はじめましての方ははじめまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。玉鋼バンブーです。
数年ぶりに書き始めました。遅筆にはなりますがよろしくお願いします。
「くぁ……」
朝。
いつも同じ時間に鳴くニワトリの声に起こされ、彼──ラウルは欠伸を漏らしながら、窓に手を掛けた。
かけていた鍵を外し、窓を開け、よろい戸を開けると柔らかな陽光と少し湿った風が部屋に流れ込み机の上に開きっぱなしになっていた本が数ページ捲れる。
どうやら昨夜の雨はとうに過ぎたようだ。
少し間、雨の残り香と風を浴びるとラウルはまた欠伸を漏らし、寝癖でボサボサになった綺麗な銀髪の頭を掻きながら机の上の開いたままの本を閉じた。
ラウル・シャーウッド、17歳。
彼の1日はいつもと何ら変わりなく始まった。
◇◆◇◆◇
小鳥の囀りと道脇を流れる小川のせせらぎを聞きながら、ラウルは街の中心区へ向かっていた。
すれ違う顔見知りに手を上げ挨拶を交わし、水溜りを避け、小川に渡された橋をまだ少し冷たい風に目を細めながら渡る。
そうして、まだ準備をしている店が多い商店街を少し歩けば街の中心区の広場へと到着する。
『水精霊の広場』。
ラウルの住むこの街──【フウロ】の中心に位置する広場だ。
水精霊を象った噴水が中央に座し、取り囲むように教会や役場などが並んでいる。そんな地理的にも街の機能的にも中心であるその広場では現在、カラフルな天幕を拵えた露店が並び、朝市が催されていた。
朝日に照らされる広場には、鎧に身を包む冒険者、マントを羽織った旅人、恰幅のいい婦人に修道服を着た聖職者など実に多種多様な人々が行き交っている。
早朝にも拘わらず多くの人で賑わう市場の活気は大きな街──領主の住まう領都の市場と比べても遜色無いのでは無いかと、ラウルは思う。
「っと、急がないと」
ラウルはそんなことを考えている場合じゃない、と思い出したようにポケットからメモを取り出し、歩き始めた。見ようによっては雑多な露店の並びだが、ラウルの足取りに迷いはない。それもそのはず、この市場には物心ついた時から何年も通い詰めているのだ。馴染みの店の場所を間違うはずもない。
人混みの間をスルスルと避けながら、市場をドンドン進んでいく。人々の話し声や商品を値切る声を聴きながら進めば入ってきた通りの真反対に出た。
そこには他の店に比べ、些か客入りの少ない店があった。
少し見ているだけでも通り掛かる人は少し目線をやってはすぐにそそくさと行ってしまう。
「おはよう、ジャン。相変わらず暇そうだね」
そんな店の店主にラウルはそんな風に声を掛けた。
その声に、店主は右手を上げて返してくる。
「やかましい!......ったく、俺だって好きで暇な訳じゃねえんだよ」
「ならその仏頂面を直したらいいんじゃない?」
筋骨隆々のハゲ頭──ジャンの顔を見ながらラウルは笑ってそんな軽口を叩き、品物を見る。
キレイな白い脂の豚肉、赤い牛肉に、ピンク色の鶏肉。更にソーセージやベーコンなどが並んでいるが、そのどれもが新鮮なのが見て取れる。
「ふぅむ」
肉とにらめっこしながら唸るラウル。
その様子を見ながらジャンが口を開いた。
「そういえば、ラウル、お前知ってるか?」
「知ってるって、何を?」
肉からジャンに視線を移し、尋ねる。
「飛空船のことだよ、飛空船!なんでも船が空を飛ぶらしいぜ!」
厳つい顔をキラキラと輝かせながら、ジャンは語り出した。
この国一の商人が金貨を何万枚も叩いて建造したとか、隣国まで何週も掛かっていた道程を半分にも短縮できるとか。
まとめればそういう事らしい。
「へぇー」
「へぇー、って興味無さそうだなぁ。空を飛ぶんだぜ?なんかもう少し無いのかよ」
「興味無いわけじゃないけど......」
この世界には空飛ぶ箒も空飛ぶ絨毯だってあるだろ、とラウルは続けた。
それらはありふれたとまでは言わないが、極端に希少と言うほどでもない。たいして大きいわけでは無いこの街でも見かけることがある代物だ。
それこそ、そこそこの魔力がある人間なら誰でも扱えるような。例えば、丁度ラウル達の方へ爆速で飛行してくる箒のような。
「へ……?」
素っ頓狂な声を上げたのはジャンの横に店を構える八百屋か、それともその客か。もしかするとその両方にジャンも加わっていたかもしれない。
ラウルも声にこそ出さないが、多少の驚きはあった。それは飛行してくる箒に対してでもあったし、こんな人混みのすぐ上を飛行するモラルの無さに対してでもあった。
だが、そんな驚きを吹き飛ばすように広場に声が響いた。
「その箒の奴!泥棒だ!捕まえてくれ!」
何人かがその声に反応し、箒に乗った泥棒を捕まえようと手を伸ばす。
しかし、捕まえることはおろか、触れることもできずに、箒に乗った泥棒はラウル達の居る広場の端へ向かってくる。
「どけぇ!!」
泥棒は器用に体重を移動させて箒を操り逃走している。
そして、遂にラウル達のすぐ近くを通り抜け、広場を抜け出ようとする。
ラウルと泥棒が僅かに交錯する刹那、ラウルが軽く腕を振る。
瞬間。ゴウッと突風が吹き、泥棒が箒から放り出され、地面に叩きつけられ鈍い音をさせると石畳を転がった。
傍から見れば突然バランスを崩し箒から落ちた泥棒を間抜けだなんだと言いながら広場から出てきた男たちが取り囲み、拘束する。
「お見事」
その様子を見ながら、訳知り顔でそう言うジャンに何のことやらといった様子でラウルは肩をすくめた。
◇◆◇◆◇
空飛ぶ泥棒の結末を尻目に、ラウルはジャンの店を始めとした市場での買い物を済ませた。
「そういえば、ヤルンの親爺がまた行商に出るらしいからお前のとこに寄るかもな」
帰り際のジャンのそんな言葉を思い出しながら、ラウルは行きと同じ道を戻っていた。
ヤルンの親爺──この街ではそれなりに大きな商家の主人だった老人でジャンの師と言える人物だ。豪放磊落な性格で、街の住人からも好かれており、ラウルとも旧知の仲と言える。そんな彼は数年前に息子に店を譲ると、定期的に行商へと出掛けるようになっており、そんな時には決まってラウルの師の店に寄って買い物をしていくのだ。
ただ、ヤルンはつい先日──ほんの15日程前に行商から帰ってきたばかりだ。いつもなら一月か二月程の間隔をとるはずだが……と、そこまで考えたところでラウルは足を止める。
【銀猫魔術店】
そう書かれた三角帽子を被った銀色の猫があしらわれた看板が風で少し揺れる。
通りに面した硝子窓にはカーテンが掛けられ、中の様子を伺うことはできない。ラウルはそんな店の横の小道を入り、店の裏口へ回った。
左手で買い物袋を抱えながら、右手でポケットを探り鈍く光る鍵を取り出し、錠前を開け、ラウルは扉を開ける。
すると、ふわりと草や甘い果実のような匂いがラウルの鼻孔をくすぐった。
魔道具で照らされた室内を見れば、銀色の長い髪を揺らしながら慌ただしく動く女性が1人。ラウルは扉が開いたことにも気付かずに薬草を刻んだり、かと思えば火にかけた鍋をかき回したりしているその女性に声を掛ける。
「師匠」
その声に反応して、女性が振り返る。
「ラウル!訳は訊かないで、手伝って!」
蒼銀の魔女──リザ・シャーウッド。
ラウルの師にして、この街有数の魔女である彼女はどこか切羽詰まった様子でそう言った。
過去作を読まれていた方へ。
お久しぶりです、玉鋼バンブーです。
去年の1月に活動報告をしてから1年以上が経過してしまいましたが、ようやく第一話を投稿することができました。
今作もよろしくお願いします。
さて、ちょっとした近況やらなにやらを書こうかなと思います。
僕が初めてこのサイトを訪れてから来年で10年になります。丁度、僕が中学3年になる頃ですね。あの頃は、言うなればなろうの伝説級の方々が沢山リアルタイムで小説を投稿されていた時期で、僕自身も彼らの作品にのめり込み、憧れたものです。そして、自分で書くという……。
あの頃から大分時間も経つ中で、歳を重ねると書きたいことやらと時間の兼ね合いなどもあり中々書くことが出来ず、ダラダラと時間だけが過ぎていきました。そのせいで僕の作品は殆どが未完のままになってしまい、楽しみにされていた方には申し訳なく思っています。
その中で、新しい作品を書くというのには正直、葛藤もありました。底辺がなに言ってんねん!て話ではありますが笑
ですが、やっぱり僕の中ではなろうというサイトは大きなものであり、ちょくちょくと覗いてみたりしては書きたいなーと思ってみたりして、結局今回新たに作品を投稿することにしました。
できれば、過去作もゆっくりではありますが更新しつつやりたいなと思いますので、温かい目で見守って頂ければ嬉しいです。
個人的には、なろうも結構様変わりしたなーと感じつつも、結局僕の作品は昔ながらのなろうの超王道みたいな雰囲気になると思います。
ですので、懐かしさを感じつつ読んでいただけたら嬉しいです。
また暫し、お付き合いください。
よろしくお願いします。
玉鋼バンブー