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初投稿です。
至らない点多々あると思いますが、大目に見てください( . .)"
ここは帝国の隣国である小国の、帝国との国境付近の寂れた漁村。
漁師である父と漁師見習いの兄を見送り、母親と一緒に洗濯をする5歳ほどの少女がいる。
「また上着を真っ白にしちゃって、乾いたら塩が取れにくくなるのに」
「にいちゃん、またせんたくものほったらかしにしたの?」
「そうよ、何回言っても忘れるんだから」
「アイダもにいちゃんかえってきたら、ちゃんとせんたくものだしなさいっていうね!」
そんな会話をしながらのどかな昼間を過ごし、やがて帰ってきた父と兄を迎え、家族団欒の時を過ごす。今日は初めて兄が魚を釣ったようで、どうやって食べよう、いや記念に干物にして飾ろう、いやいや食べないのはもったいない、という会話が繰り広げられる。もちろん、アイダは兄に洗濯物を出すように言うのを忘れない。
そうして皆が眠りにつき、やがて村全体が寝静まる頃。
村の小さな港に数艘の軍船と数十の帝国兵が押し寄せた。
帝国兵はあっという間に、村全体に火を放ち、何事かと出てきた人を片端から殺し、略奪し、村を蹂躙した。
「アイダ、アイダ」
アイダは母の声と、熱さに目を覚ました。家が燃えている。あまりのことに、アイダは動けなかった。
「アイダ、よく聞いて、兄ちゃんと一緒に逃げるんだよ」
「かあちゃんも?」
「かあちゃんは後から行くから、さ、あっちから裏の山を登って、山の向こうに逃げなさい」
「やだ、かあちゃんも、いっしょじゃないと」
「母ちゃん今、動けないからね、後から行くよ」
アイダはやっと気づく。母の足があらぬ方に折れ曲がっていることに。普段母が寝ている布団の上には、燃えて落ちた屋根と柱が重なっている。あるいはアイダは母に庇われたか。
「アイダ、いいかい、自分の命を大事にしなさい。どんな手を使っても、生きるんだよ」
「いやだ、いやだ、かあちゃん、いやだよお」
「行きなさい。兄ちゃんは先に出て裏山の上で待ってるから。早く」
母は力を振り絞り、アイダを布団から引き出す。アイダを裏の扉の方へ向け、背中を押す。
「行きなさい!」
その声に押されるように、アイダは泣きじゃくりながら家を出た。
その背中を見ながら、母は呟く。
「生きるんだよ、2人とも……」
燃える家の中からは、外の様子はわからない。
帝国兵が奇襲をかけた時、父は母と2人の子供達を逃がす選択をした。父が家に踏み入ろうとした帝国兵を押しとどめようと外に出た。父は漁師とはいえ多少の剣の心得があったが、それでも完全武装の帝国兵に勝つのは厳しいだろう。
そして母は、子供達を起こそうとして、落ちてきた柱の下敷きになった。このままでは足手まといになる。せめて子供達だけでも。
そうして子供達2人を送り出した母は、台所まで這い、包丁を取り出し自害した。家で死を待つのも、逃げて捕まるのも地獄だからだ。時間稼ぎしてくれたあの人には悪いけど、苦しんで死ぬのも望んでいないだろうから……
家から出たアイダだったが、運悪く帝国兵と鉢合わせてしまった。
死を覚悟したが、視界に立てかけられた物干し竿が目に入る。どうせなら万にひとつあるかもしれない可能性に賭けたい。物干し竿を手に取る。アイダの身長より長いそれを構え、ふらつきながら突き出す。
「タァッ!」
運良く帝国兵の顎にヒットし、帝国兵が顎を押さえてたたらを踏む。もう一撃、と物干し竿を構えた時、横から物干し竿を掴まれた。
「威勢がいいねぇ、お嬢ちゃん」
また別の帝国兵だ。アイダは蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった。逃げてもアイダの脚力では追いつかれる。それどころか兄まで巻き添えにするかもしれない。アイダは腹を決め、帝国兵を睨みつけた。
「お嬢ちゃん、逃げないのかい?」
「アイダが、むらのみんなをまもるもん!」
「そうかい、そうかい――」
帝国兵の男が愉快そうに言う。笑っていた気すらしたが、その後の記憶はない。
気がつけば、アイダは帝国軍の天幕のひとつに横たえられていたのだった。
――後から聞いた話だが、帝国はこの漁村を足がかりに小国を侵略するつもりで、このため住民は禍根を残さないために根絶やしにしろという命令だったそうな。