柴犬と街の歴史
「お、ダイズじゃねぇか!」
「よぉ!ダイズ!」
「ダイズちゃん、遊んで〜!」
大豆じゃない。
俺は柴犬だ。
豆柴でもないし、色も大豆ではない。
ここは『英雄街』冒険者ギルド前の日の当たる石畳。
柴犬は暇なので少し聞きかじったこの街の歴史を説明しよう。
ここはかつて英雄と讃えられた益荒男ロビン・カウフマン・ソードパレスが、凶魔女サマエラ退治の為に建設した城塞都市である。
住民と領主がロビンにサマエラ退治を嘆願し、いかにサマエラが男性を辛い目に遭わせて殺したのかが語られている一幕がある。
ロビンはサマエラの強力な魔法に対抗する為に砦を作った。
その後、盃通りにある小山で待伏せした魔女と英雄が魔導と剣をぶつけ合う。
火花が散り飛んでいった魔法が砦の外壁を崩すほど烈しいロビンとサマエラの闘いはほぼ互角で決着が付かなかった。
史跡によれば、熱き血潮に滾るロビンが神気を放ち、それに当てられたサマエラの闇の力が屈服し、闘いを放棄したという。
ロビンに捕えられたサマエラは罪を償う為にそれまで殺めた民の人数分の子供を産む罰を受けたという。
(そんでロビンの子供を15人産んでるとか。3つ子、4つ子がぽんぽこ生まれたと。街にはサマエルとかロビンとかカウフマンの名前がついてる奴らが多い訳か。)
実際は会ってみたらロビンが惚れて、勢いで告白されたサマエラがモジモジしてワインで乾杯して出来ちゃった婚になった流れを脚色しているんだろうな。
その後サマエラはロビンの為に子育て一辺倒の半生を送り、子供が独立した晩年は魔法書を書き上げている。
裏話でサマエラを退治して手篭めにしようとした領主とその息子達の取り巻きはその後、ロビンに討伐されている。
(その辺もしっかり石碑に遺されているんだな。)
新領主となったロビンが作らせた旧領主館は彼が収集したコレクションの剣が飾れる場所があり、現在はオークション会場に指定されている。
王から領主を拝命するにあたり、これに因んで『ソードパレス』の名を与えられたとか。
英雄街周辺も次々と平定され、ソードパレス領となっている。
俺はこの街の成り立ちも気に入ってるし、住んでる人達も陽気だ。
「ワフッ!!ハフハフ!!」
今日も謎肉ジャーキーを餌付けされていた俺は次の冒険はどこへ行くか考えていた。
酒好き3人組との狩りや討伐は早々にマンネリ化し始めていた。
俺とエルフが動物や魔物を仕留めて酒盛りを始めるルーチンを4回やられれば、いくら俺だって飽きてくる。
が、3人は意外にもそれに満足しているらしかった。
俺も酒飲みてぇよ!
「ほほう、君が噂のダイズ君か!」
石畳に寝そべる日向ぼっこ中の俺に近づく甲冑に身を包んだ美女騎士か。
ラノベありがちな展開だな、と心で呟く。
どう考えても接点無いのに美女が出てくる訳ないだろバカか書いてるやつ、とか思う訳だ。
そして現実はそういう展開にはならないし、させない。
「お嬢様の護衛で、軍用犬は飼う暇がなくてな。君を供に出来ないのは残念だが、お嬢様と遠くから見てるよ!干し肉食べてね?それじゃあな!」
柴犬の可愛いさに見惚れてただけかい?
君の専属にはなれないのさ、全く俺ぁ罪な柴犬だぜ、なんてね。
追いジャーキーあざす!
「おいおい、出やがった出やがった。」
「新しい依頼、クロムヘッドだとよ!」
「うひょー!!」
冒険者ギルドが騒がしくなってきた。
次はどこへ行こうか?