柴犬と英雄街と焼肉
「ワン!ワンワン!」
「お?ダイズ、獲物を見つけたか?」
柴犬はエルフと共に狩りをする。
ここは『英雄の盃通り』沿いにある『魔女の待伏せ小山』と呼ばれる山林だ。
かつて英雄と魔女が激しく闘った事に因んでつけられた名前だが、ただ単に森である。
俺はエルフの狩りに付き合って鹿の臭いを辿っていた。
「・・・・いたな。」
弓を番えるとヒュンッと風を切って首を貫通して仕留める。
「ふむ。上々だな。この地域にしか居ないブランド鹿『ウィッチディア』だが売っても良いし食べても良い。幸いダイズのおかげで金には困らないから皆で食べようか。」
「ワン!!」
〜〜〜〜〜〜
柴犬である俺と3人組は『英雄街』に到着するとギルドで化け熊、灰色狼、シュレッダーの素材を売り払って小金持ちになった。
「う〜ん、魔道具の『テイマー用測定器』ではかなり強力な魔力値を出していますが、この仔犬ちゃんは『魔石喰い』をしたのに凶暴化してませんし、しばらく貴方達で様子を見なさい。その仔犬ちゃんがおかしくならないと判断出来るまで、酒禁止!!」
「「「そりゃないぜ!!!」」」
でも実際に『魔石喰い』をした魔物は称号付き、いわゆる『ネームド』に進化する可能性があり優先討伐対象だ。
俺を処分するかしないかも含めて、現場で検討するんだろう。
受付嬢の指示で渋々酒盛りを諦めた3人は森へと向かうのだった。
〜〜〜〜〜〜
「戻ったか?」
「久々のウィッチディアか!まさか、脇を射ったりしてねぇよな?」
「してないよ。いつも『心臓が〜!』ってうるさいじゃんか。ちゃんと首狙った。」
「ワフ!」
エルフが木に吊るして要領良く捌いていく。
離れた場所でドワーフと剣士は器用に紐と切り出した枝をくくり付けて焚き火台を用意した。
俺は捌いた内臓を埋める為にエルフの足下に穴を掘る。
パワーアップしたから楽ちんだ。
「おぉ、早いねダイズ。」
内臓を捨てると直ぐに埋める。
どうせ血の臭いでバレるだろうが、ただの時間稼ぎだ。
ある程度解体したら3人組で毛皮に包んで焚き火台まで運んで食事だ。
滴る脂に腹がキュウッと鳴る。
「これでエールがあればな。」
「持って来てるぞ。安いビールだが。」
「おお!なんか荷物デカいと思ったら、樽かよ!お前バカだろ、ガハハ!」
小振りの樽から濁った茶色い液が注がれる。
「お、これ見た目が泥水みたいだけどチョー美味いんだわ!ドワーフが保証するぜ!」
「『せっかちエール』だよな。澱引きしてない一般人とか商家が飲まないやつ。」
「文句言うなら俺だけ飲んじまうぞ?」
楽しい宴会だが酔っ払うほどの量でもない。
警戒は怠らずに食事を楽しむ。
「マジックバッグのおかげで余裕があるな。食べ切れない分も傷めずに持ち帰れる。」
「前は持って帰れない部分もあったから、狩りだけでポーター雇ってた時もあったな?」
「収支がちょっとプラスだった時期だな。あれはあれでポーター連中が喜んでたな!」
「ただ来て運んでメシ代がタダ!そんで金も貰えるってな!ガハハハ!!」
「おい心臓が焼けたぞ?」
「良いねぇ!鹿ハツ、ダイズも食うか?」
「ワン!!」
鹿の心臓はご馳走だ。
うんめ!
「うんめ!」
「どれどれ?うんめ!」
「鹿ハツ、うんめ!」
ギャハハと笑いながら鹿肉を楽しんだ一行は気分良く英雄街に戻り、酒盛り延長した。
俺は問題無いって事でしばらく『英雄街のダイズ』として過ごす事になった。