柴犬と囮
「・・・・情報屋」
目の怖い姉ちゃんが指でフードを被った小男に合図をすると近付いて来た。
小男が席に着くと人差し指でテーブルを突く。
「・・・また新入りを殺す気か?」
「とんでもない!情報を教えたら、成功報酬をくれるんですよ?生きて帰ってもらわないと困る。」
「死んでもお前は困らないじゃないか。次の新入りにまた話をすれば良いんだから。若い奴らには勉強代が、ちっとばかし高いんじゃないのか?」
「いえいえ、最低でもこれくらい、頭を使ってもらわないと、、、それより、ネタはそろそろ良いんで?」
「ああ、教えてくれ。」
姉ちゃんが何かを小男に渡した。
俺には臭いで金貨だとすぐ分かった。
「毎度。シリウスピックの街から英雄の盃通りに繋がる平野部。その隣接するタイトラ山脈沿いの森林地帯に『目標』がいる。こっからは有料。」
「続けろ」
再び金貨の臭い。
俺は欠伸をして床に溢れたエールを少し舐めてみる。
美味い。
「毎度。対象は周囲と同化して待ち伏せを好むが、目の前に餌があれば喰らいつく。。。」
「餌、か。具体的には?」
「鳥や兎じゃ条件は満たせないようで、狼が専らですね。」
ふーん、そうなん?とテーブルを見上げる。
そしたら情報屋と目の怖い姉ちゃんが俺を見つめていた。
コレは不味い。
「ねぇねぇ、お利口なワンちゃん?あたし達とくれば美味しいご飯毎日食べさせてあげるわ?一緒に行きましょう?」
キャウン!と俺は鳴いてギルドからダッシュで逃げ出した。
「・・・・本当にお利口さんなのね。」
「いい餌に逃げられましたね。」
「大丈夫よ。あの子は可愛いから気が咎めるし、もっと薄汚い野良犬でも探して捕まえるわ。」
俺は若い4人組のパーティの臭いを追って街の端まで来ていた。
途中で出会った顔に傷のあるブルドッグを通じてギルドでの不穏な情報を野良犬界隈に流した。
犠牲者は少ないと良いが。
どうやら彼ら4人は街を出る寸前だったみたいだ。
こうして俺はこの少年達に付いて住み慣れた街を離れる事にした。
〜〜〜〜
「わ〜!この犬いつの間に?」
「あ!肉屋のとこのだ!」
「脚短いな?」
「なんでここに?」
俺は柴犬。
目立つのは仕方ない事だ。
今は寝る前だから全力で穴掘りをしている。
彼らが依頼で向かう先には、あからさまな危険が待っている。
あのフードの小男はハイリスクハイリターンな依頼を少年達に持ち掛けた。
この柴犬が一肌脱いでやろうじゃないか。
脱ぐも何も着てないけど。
少しだけ様子を見ようと思う。