柴犬とヴァイパー
女が目を覚ますとそこには再び柴犬の姿があった。
「ワフッ!」
「おはよう、わたしの救世主さん。」
あたりを見ると柴犬が集めたであろう、各種薬草やキノコが山積みになっていた。
「!!凄いわね?これ全部アナタが集めたの?」
「ワン!」
女は柴犬を撫でると早速薬草を口に運ぶ。
(うっ!流石にポーションの原料を生食はエグ味が強いけど、贅沢言ってられないわ。持ち物は全部アジトにあるし、何とかしてここを抜け出さないと。。。)
女の身体にある無数の傷がゆっくりと癒えていく。
「アナタのおかげで助かったわ。一緒に出口を探しましょう?」
「ワォン!!」
女はふと思案すると柴犬に語りかける。
「・・・・アナタ、じゃ呼びづらいわね。気に入らないかもしれないけど、名前を付けてあげる。・・・そうね、『モコ』なんてどう?もこもこしてて可愛いし。」
「ワフッ」
好きに呼べば良い、という風に柴犬は頷いた。
「わたしは昔の名前を捨てちゃったの。あなたが犬だから特別に教えてあげるけど、ポーラって名前だった。今は誰でも無いわ。」
「クゥーン」
「悲しんでくれるの?優しいわね。。。とりあえず行きましょう。」
女は柴犬と共にダンジョンを歩み始めた。
〜〜〜〜〜
「『コブラウィップ』!!!」
「『暗黒矢』!!」
「アーーー」「ウーー」「グァーーー」
蛇の様にしなる鞭がゾンビを弾き飛ばし、黒魔法の矢が貫通する。
「モコ!」「ワン!」
俺は呼びかけに応えて討ち漏らしを後ろ脚で蹴り飛ばす。
壁に激突だ。
大量のゾンビ達を倒した。
「強いじゃないモコ!深層の魔物すら倒しちゃうだけあるわね!」
「ワフ?」
女は道中で俺が倒した魔物を見て「は?オーク・カリギュラー?うそ!」「あ、虹色ムカデ、外殻も肉も超高級品!売ったらすごいわ!モコ!ちょっと待って!」「トロルの皮、焦げてる部分もあるけど、全然いける!うー!このナイフじゃ全然剥げない!モコ!ここ切ってちょうだい!」と素材集めに奔走し始めたので、脱出は遅延していた。
だが柴犬がこれらを倒したというのを彼女は疑っていない様だ。
「ちょっと欲張り過ぎたかしら?」
「ワン!」
魔物の腱や筋で簡易的に作った背負子がパンパンになっていた。
身体が上手く動かせないがそれでも俺たち一人と1匹に大概の魔物は敵わない。
地上から差す光が洞窟に反射し始めた。
「出口ね。」「ワフッ!」
数時間ぶりに外に出た。
鬱蒼とした森林が拡がり、人がいる気配は無かった。
「おそらくアジトの近くね。方角が分からないし、『血の導き』を使うわ。」
柴犬が興味深々で見ていると指先を少し切りぷっくりと血が出てきた。
「『血の怨みは血で濯げ、彼の者の居場所を示すのだ。』・・・・こっちね。」
なんだか不穏な呪文を唱えると女は歩き始る。
30分程歩くと苔むして打ち捨てられた納屋に着いた。
誰かいる様だ。
フードを被った怪しい男。
「・・・生きてるな。。。遅かったじゃねぇか、って、何だその荷物?しかも犬?」
「メンデス、まさかあなたが待っているとは思わなかったわ。紹介するわ、この子はモコ。わたしの命の恩人よ。」
「・・・とりあえず中に入ろう。」
〜〜〜〜〜〜
「そうか、ダランヴァールが出てきたのか。良く生きてたなお前。」
「蛇楼主に鍛えられたおかげね。でなければ転移石を発動させる前に死んでたわ。」
メンデスと女は俺の知らない事について話している。
俺は彼女の膝の上で撫でられながら話を聞いていた。。
「で?第三位がしくじった事を正直に報告するって?」
「そうするしかないわね。教会の建造物をいくらか破壊出来たけど、デンゼー神父は殺せなかったし。あいつだけは必ず!!」
美しい緋色の眼が復讐の憎悪に燃えている。
やっぱり異世界ダークヒロインだったか。
柴犬の鼻は誤魔化せんぞ?
「転移先がダンジョン深部とは災難だったな。」
「ええ。転移先で死にかけたんだけど、モコが助けてくれたの。」
「ワフッ!」
「蛇楼教も人手不足とはいえ、犬が増えてもな。」
「モコは関係ないわ。太陽教会に恨みはないでしょうし。」
「そうだな。」
メンデスが胡乱げに背負子を見る。
「それよりその荷物どうするつもりだよ。」
「アナタが運んでちょうだい。あたしもうヘトヘトなのよ。」
「俺って一応お前じゃなくて第二位の補佐だからな?使いっ走りじゃねーんだけど。」
「いいじゃない別に。とりあえず変装して最寄りのギルドで売り捌けない?」
「無理だろ。」
「どうして?」
「何をどうやったか知らんがお前一人でオーク・カリギュラーや巨大な虹色ムカデを倒したのか?って、なるだろ。目立ち過ぎだ。」
「・・・行きましょうか。」
「おい!まったく。」
俺は2人に連れられて蛇楼教本部までついて行くのだった。
〜〜〜〜〜
髑髏に蛇が絡むいかにもワルなデザインが散りばめられた暗い聖堂に小さな火が灯っている。
ここが蛇楼教本部。
「蛇楼主。第三位、只今戻りました。」
「うむ。良く帰ったな、第三位。」
漆黒の女神像に祈りを捧げていた黒いローブを羽織った初老の男性。
彼がこの蛇楼教を治める蛇楼主だ。
彼ら幹部級は通常名前を持たないが、地位だけは持つという奇妙な序列付けをしていた。
名前で出自を探られないように例え知っていても言わないのがこの組織の通例だった。
ちなみに敵から付けられた名前を用いる事は許されている。
「フン!蛇楼主『様』を付けんか!この恥知らずめ!」
序列第二位の丸々と太った商人の男。
いつも第三位である彼女を目の敵にしているのだ。
「はぁ?うるっさいわね。なんであなたがここにいるわけ?」
「なっ!?貴様がメンデスを勝手に借りていくからだ!!仕事中だったんだぞ!」
「知らないわよ。メンデスが勝手に付いてきたの間違いでしょ?」
「なんだって!?メンデス!お前という奴は!!聞いていた事が違うぞ!どうして奴隷の面倒をちゃんと見れんのだ!」
メンデスは肩を竦めて知らん顔だ。
「俺いなくても問題ないじゃないですか。第四位が勝手に色々やってくれてますし。」
「あ・の・激情家のせいで!やり辛いんだこっちは!まるで悪いのはワシの方みたいではないか!!」
「やめんか。」
蛇楼主が手を仰ぐと静まった。
「して第三位。聞き及んではいるが、報告するのだ。」
「はい。襲撃は順調に進み多数の騎士達に深手を負わせ、我らの力を示せたかと。教会まであと少しだったのですが王国騎士団団長とやらに反撃を受けてしまい、撤退しました。」
「ダランヴァールか、、、何故あんな場所に王国騎士団が?、、、奴を倒すには少々力が足りんか。」
「申し訳ありません。」
「他に何か情報は無かったか?」
「他に、、ですと、暴練だとか佳境だとか、訳の分からない事を言われたのですが、それくらいでしょうか。」
「!!そうか、そうか、それは良い事だ。」
蛇楼主はニタァと笑い、その瞬間は彼女も第二位もメンデスも震え上がった。
この蛇楼主は黒魔法の達人だ。
彼がその気になれば街一つを暗闇で覆う事も出来るだろう。
そんな中、柴犬は女の足下で欠伸をしていた。
話が長過ぎると。
「瀕死のお主がこの『戦利品』を持って帰ったのも納得いかんがな?」
蛇楼主が布を捲ると柴犬が倒した魔物の素材が露見した。
第二位が驚愕の顔で説明し出す。
「こっ!?これは!?虹色ムカデの外殻!輝いていて、なんという艶!肉もあるじゃないか!?ハイポーションの原料だぞ!?トロルの皮、多少焼損してるがこれならば素晴らしい鎧が作れる!シルバー・スカルナイトの骨!これは我々黒魔法使いには最高と言われる触媒!頭蓋骨は砕けているが、粉末にすれば!!む!?バ・・・バカな・・・まさかこれは!」
キッと第二位が女をドン引きしながら見つめると、彼女も恥ずかしさで顔を逸らした。
実際、見つけた時の彼女もこんな感じだったのを思い出したんだろう。
「オーク・カリギュラーの睾丸!!??これで作られた媚薬・生薬を飲んだ男は一回必中と言われた!?あの伝説の!?蛇楼主様!どうするのですかコレ!!」
「第二位、落ち着くのだ。分かったからそれをブラブラさせるのをやめい。第三位が困っておるじゃろ。」
切り落とした事も見せられている事も恥ずかしい第三位と必死で爆笑を堪えて身悶えるメンデス。
「ぐふっ。」
蛇楼主、お前めっちゃ笑い堪えてるじゃん。
口角上がってるって!
意外と闇の秘密結社がアットホームな雰囲気で面白いな。
「襲撃で運が尽きたかと思えば、これほどの収穫で挽回するとは見事である。これは第二位に上手く売ってもらおう。良いな?」
「お任せ下さい!フン!まぁ第三位にしては良くやったと褒めてやるわい!」
「はいはい、ありがとお願いします。」
謎のマウンティングを軽くあしらう。
結局、蛇楼主が聞きたがったダンジョン内のあれこれは第二位の暴走で有耶無耶になってしまった。
蛇楼主は思い出したように、女に伝えた。
「第三位よ。お主、ついに今回の件で王国全土で指名手配じゃぞ?ワシと同じじゃな。」
「指名、手配書?」
『【レディ・ヴァイパー】太陽教会襲撃の容疑者-黒ずくめのコートを着た赤い瞳の女-おそらく?絶世の美女-『凶魔女』の再来-蛇の様に鞭を使い、衝撃で全てを破壊する-強大な黒魔法を使う-多数の騎士を倒している-王国騎士団団長との決闘を生き延びている-』
「おそらく?じゃなくてあたしは絶世の美女よ。そこのところ間違えないで欲しいわ。」
「顔を見せる訳にはいかんからな。それにしても、その自信満々な態度。第一位のせいじゃな。」
「【レディ・ヴァイパー】、ヴァイパー、なかなか良い名前じゃない?あたしにピッタリね。そうでしょモコ。」
「ワン!!」
〜〜〜〜〜
部下達が去ると蛇楼主は漆黒の女神像に祈りを捧げながら思案した。
(女神はあの娘、第二位であるヴァイパーを選ばれたのか?傍のあの犬は唯の犬ではない。強大な力を感じる。我らがどうなるかはヴァイパー次第という事かもしれんな。)




