柴犬と蛇楼教
「うわぁぁぁぁあああ!?!?」「逃げろぉぉおおお!!」「蛇楼教だぁああ!?」
真っ黒なコートにフードを被り、同じく黒のマスクで表情を隠した女が1人、街を恐怖に陥れていた。
血のような紅の瞳と緑の髪がフードの隙間から覗き見え、マスクで表情は伺えないが、女がとてつもない美貌の持ち主だというのは分かった。
「フフフ・・・逃げ惑えば良いわ。『コブラウィップ』!!!」
鞭を振るえば建物が破壊され、衛兵が吹き飛ばされる。
隙を突こうと後ろから羽交い締めにしようとした騎士。
「邪魔よ。」「ゴハッ!?!?」
女は体術も相当なもので騎士は吹き飛び気絶した。
「まさか!?」「暴練だと!?」
「ええい!!!狼狽えるでないわ!!」
精悍な顔付きをした壮年の騎士が女に立ちはだかる。
「貴殿は相当な暴練の使い手ですな!ラムハマド王国騎士団団長・ダランヴァール・ド・ノグウェラがお相手致す!!」
「あらあら、ご挨拶どうも。騎士様に名乗ってもらう程の者じゃないわ。そうね、、、好きに呼べば良いと思うわ。それじゃあさよなら。」
女が鞭を振るうと衝撃がダランヴァールを襲う。
「ぬぅん!!貴殿、『佳境』に達しておるのか!?」
「ごちゃごちゃとうるさいわね!お前に用は無いのよ!!」
暫く鞭と鎧が弾き合う音がしたが、ダランヴァールが反撃に出た。
「はっ!!」「くっ!?この!?」
鞭はダランヴァールが振るったロングソードに巻きつき、力技で女が引き倒されそうになる。
「フッ!」
女が鞭の拘束を解くとダランヴァールは一気に距離を詰め、体術による激しい攻防に移行した。
「何なんだあの女!?」「蛇楼教徒がダランヴァール団長と互角だと?!」
拳と蹴りの連打と防御の応酬が続く。
(この感触は間違いなく『暴練』であるな。未熟ながら『佳境』の気配もある。しかし、、、我が王国にこの様な流派は無いはず。。。)
一方攻めあぐねた女は焦っていた。
(互角ですって!?全然効いてないじゃない!!くっ!厚い!まるで絶壁の様に揺るがない!!まだ私の牙は届かないと言うの!?)
息の上がった女はダランヴァールから距離を取る。
「敵わぬと分かったか?ならば投降せよ。これまでの蛇楼教徒の狼藉、捨て置く訳にはいかぬ。教会への数々の襲撃、理由も含めて全て詳らかにせねばならぬ。」
「へぇ??それはきっと無理ね。わたしたちが悪で教会が善。おまえ達はそう言いたいの?・・・滑稽ね。正義の騎士ぶっちゃって・・・ほんと笑っちゃうわ。」
女は紅の瞳を怒りと絶望に燃やして鞭を握った。
「そこの教会にいる、デンゼー神父を引き渡しなさい。そうすれば蛇楼教はこの街は襲わないわ。渡さないなら何度でも破壊する。」
「ならぬ。なれば、貴殿にはここで果ててもらう。」
「そう。ならもう話す事はないわ。」
女は鞭に魔力を纏わせる。
最期の一撃の為に。
(本当はやつを殺す為のとっておきだったんだけど。もうそれどころじゃないわね。)
「悪く思うな。『終末振』ーーー『咲斬』!!」
「『黒魔流』!!!」
2つの魔力がぶつかり合い、周囲に衝撃波と稲妻が走り始めた。
「きゃぁぁあああ!!!」
女は叫び声を上げてその場から消えた。
「ぬぅ。。。逃したか。。。」
「ダランヴァール団長!ご無事ですか??」
「うむ。衛兵と騎士を招集させろ。周囲を捜索する!」
「はっ!!」
〜〜〜〜〜〜
「はぁ、、、はぁ、、、無様ね、、、」
蛇楼教の女は予め用意していた転移石で脱出した。
転移予定場所は周囲の魔力と自身の魔力で転移場所が多少変化する。
脱出時に込めた魔力が多過ぎたせいでだいぶ離れた場所に移動してしまった。
魔力が濃く、魑魅魍魎の気配が蠢く。
ここはダンジョン。
服はズタズタで血塗れ。
おまけに体力も魔力も枯渇していた。
へたり込んだ女は諦めを込めて笑う。
「フフフ。。。あっけないものね。。。ここでわたしの復讐も終わりってわけ。」
涙が一筋頬を伝うと死を待つ様に目を閉じた。
その方が恐怖が和らぐと思ったからだ。
ダンジョンの深部は単独で潜る場所ではない。
女の血の臭いを嗅ぎつけ、魔物が動き出す。
5分程経つと魔物達が争う声がする。
獲物を巡って喧嘩でもしているのだろうか?
勝利を収めたのかすぐ側に強大な魔物の気配がする。
「誰?やるなら一思いにやれば良いわ。きっと良い『毒』の味がするわよ?」
女はニヤリと笑うと自決用の毒を取り出す。
この毒はきっと女を捕食した魔物すら死に至らしめるだろう。
暗闇から姿を現したのは。。。
「ハッハッハッハッ!ワン!」
「へ?いぬ?」
どうも、可愛い柴犬です。
泣いていたのかい?かわいこちゃん?
とりあえずそれ、飴か?食べさせろ!!
「ハグッ!ムシャムシャ!!」
「あ、、、」
わかってるわかってる。
自殺用の毒だってね。
だけど柴犬は効かない。
マングースは毒効かないから俺も効かない。
俺はクロムヘッドの魔石を食ってから毒が効かなくなった。
「ワフッ!」「死んでない、、、良かった、、、」
女は安心したのか俺を撫でてから気絶してしまった。
なんか悪の女幹部って感じの魅力的な雰囲気を感じる。
すんげー美人だな。
俺犬だけどやっぱりネイルみたいなむさ苦しい男よりは女性なら無条件で添い寝するぜ!
とりあえず安全な場所まで避難だ。
俺は女をヒョイと咥え上げ、ダンジョンの安全地帯へ連れて行った。




