柴犬とゴブリン狩り
「ゴブリン増えてきたな。」「よく死体を見かける。」「ミノタウロスも野獣に食い殺されたりしてるよな。」
今日も柴犬はギルド内で暖を取りつつ人間観察している。
冒険者ギルドの掲示板には本格的な冬を前に討伐依頼が増えていた。
ゴブリン、野盗、ミノタウロス、ギガント、灰色狼、熊等。
この時期に人里に降りる魔物や動物は縄張り争いに敗れた弱い集団や個体。
中でもとりわけ多いのはゴブリンや野盗関係の依頼だ。
ちょうど冬小麦の種蒔き時期であり、目減りしてきた小麦、薪、家畜をゴブリンや野党達から守る為に騎士も派遣されている。
農林畜産に励む領民を守らねば死ぬのは自分達であると貴族はしっかり理解しているのである。
とはいえ、冷え込みが厳しいこの時期は襲撃がありそうな場所周辺の警戒に留まる。
うっすらと雪が積もり始めたトリトンペトラム火山には魔物が集まり、比較的暖かいが故に縄張り争いを始める。
闘いに敗れ、暖かい寝ぐらを追い出された魔物には飢えが待っていた。
農地や家畜の護衛の為、多くの冒険者が活躍していた。
「賢いダイズは引っぱりだこ?だね。」
フロウラが俺を撫で回した。
彼女は冒険者見習いとして、酒好き3人が依頼を取ると手伝いをして小遣いを得ていた。
俺の影響で犬を操れるようになったフロウラは行く先々の農地の警戒、魔物や害獣の追跡に参加するようになった。
柴犬たる俺は彼女に合わせて生活する事はしていない。
部下の仕事を奪うほど野暮な事はないぜ。
たまに野良仕事見たさにぶらつくと猪やら鹿やらが農作物を狙うので一撃で仕留めてたら、やたら感謝された。
俺は許可していないのにデカい獲物は全て農民に持っていかれコートや塩漬け肉、ソーセージにされてしまう。
報酬はジャーキー。
解せぬ。
「ワフッ」
そろそろゴブリンってやつも見たい。
とあるパーティが掲示板を睨む。
「ギガントかぁ」「ひょろひょろのあいつか」「やっぱゴブリンだろ」「そうだな」
『知恵なき大猿』と評される類人猿じみた魔物ギガントは少ないながらも街道に侵入してくる。
上背と腕の長さは人間の2倍はあるがガリガリに痩せて鈍間で臆病なのが多く、ゴブリンに次ぐ弱さとされていて、罠に引っかかったり、ミノタウロス、狼に襲われてたびたび喰われている。
たまにゴブリンと徒党を組むが、あまり戦力にはなっていない。
どうやらゴブリン討伐に行くようだ。
俺もコソッとついていくか。
〜〜〜〜〜
「グァッ!?」「ゴバッ!」「ギョエッ!?」
「そっちはどうだー?」「良いぞー良い調子だ。」「ワンワンワンッ!!!」
思いの外ゴブリン狩りは淡々とした作業だった。
よくラノベ系主人公が最初に現れたゴブリンに対して颯爽と倒したら耳を沢山削ぎとって〜とか期待したけど、そんなものは無い。
魚の追い込み漁みたいに俺が吠えて、冒険者が囲んで槍やら斧やらハンマーやらでボコボコにするだけだ。
あと身体のどこかが残ってればそれを一部分だけ持って帰れば終了。
寒さや飢えで判断力を失ったゴブリンは逃げられる程勇敢でも臆病でもなく、集団でオロオロして何も出来ずに死ぬのだ。
ゴブリンの死体の一部を持ち帰る=集団を倒したと見做される。
「ふ〜。久々に良い運動になったな。」
「いや〜スッキリした。」
「ダイズぅ!穴用意してくれたかぁ?」
「ワフッ!」
俺はゴブリンを埋める為の穴掘りを担当。
火を使って焼くと香ばしい肉の焼ける臭い。
「よし。大体消し炭になったか?」
「埋めるぞ〜」
木のスコップで埋め戻す。
「さてさて、何が来るかな?」
冒険者が埋め戻した場所にトラバサミを設置して上手く偽装している。
死んだゴブリンの臭いで獣や魔物がやってくる。
これを利用してさらにひと稼ぎという訳だ。
「人間が間違えて入らないように、目印をつけて、、、と、帰るか。」
「ワォンッ!!!」
〜〜〜〜〜〜
翌日、同じ場所に来ると、罠にかかった魔物を確認する。
「ほぉ〜。ギガントじゃねぇか。死んでるな。」
「う〜ん。猪か熊だったら食いでがあるんだがなぁ。」
「こいつ、ゴブリンも食うんだな。ん?なんか持ってるぞ?」
ギガントは光る石を持っているようだった。
魔石か!?
チャンス到来かもしれん!
「ガウッ!!」
そう思った俺こと柴犬は輝く石に齧り付くと眩い光を放って一瞬にしてその場から消えた。
『転移石ダイズ失踪事件』
英雄街から1匹の犬が姿を消した事は冒険者ギルドの噂となった。
報せを聞いた3人組やフロウラは暫く小さな柴犬を探したが、長くは続かなかった。
ついにソードパレス領にも冬が到来したのである。




