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柴犬とクロムヘッド

「シャラアッ!」

「ギュォェア!?!?」


ネイルの振り切った剣で首を刎ねられたカエルみたいな魔物がビクビクと身体を痙攣させて血を噴き出して倒れ伏した。


「団長、ブサイクばっかですね。」

「バルトロ、俺も別嬪に飢えてんだから文句言うな。クロムヘッドが出たら教えろ。」


「グルルゥ!!」


俺は柴犬。


魔物の死体に唸って威嚇。


某ゲームの某生物兵器みたいな展開があるかもしれない!


ここはトリトンペトラム火山の麓にある、『死臭のレッドダート』と呼ばれる地。


見るからに真っ赤な岩山が連なるこの場所には独特の臭いが漂っていて、時に目に見えないものを吸い込んだばかりに死んだり、火を使って爆死したり、幻覚を見て道に迷って餓死する事でその名が付いた。


「フン、また冒険者の死体だ。」

「この火山近くで中和剤を買わないバカがこんなにいるとは驚きだ。何もしないのに武具や小銭が手に入る。」

「たまに歩いてる冒険者がいたと思いきやアンデッドですからね。ダイズが蹴っ飛ばして終わりでさ。まぁ小遣い稼ぎには良いです。」


彼らは元々騎士団の一員だったようだが、何らかの理由で団長であるネイルと共に脱退した様だ。


彼らは何を言われるでも無く自分のやるべき事を行った後、自然とネイルの指示を仰ぐ。


「おい、ダイズ先輩、そりゃゾンビだかグールだぞ?腹壊すから食わん方が良い。」


「ワォン!」


ネイルよ、こんなデロデロに腐ってウジの湧いた人肉は言われなくとも流石に食えん。


強く蹴ったらばっちい汁が飛び散ったから砂を全力でかけとく。


鼻がひん曲がりそう。


「団長、ギルドから付いてきたこの犬、なんかおかしくないすか?」

「ん?何がだ?」

「だって、ここまでゾンビ、グール、スケルトン、一撃で倒してますよ?蹴りだけで。」


バルトロ、そんなにジロジロ見るんじゃない。


俺は砂かけで忙しいんだ、相手はしないぞ。


「・・・・ダイズ先輩だからな。」


「なんすかその〝先輩〟って。まあ良いですけど。」


俺は妙なガスだまりの臭いが近ければ吠えるし、危険な魔物が迫っていれば唸って知らせている。


「ワン!ワンワン!!」

「む。ガスか?」「クゥーン」「違うか、危険なら1回、安全なら2回吠えてくれ。」「ワンワン!!」


「バルトロ、調べろ。」「うす。」


俺は臭いで安全な場所や水のある場所を調べる事が出来る。


バルトロがのそのそと洞窟から出てきた。


「団長、清潔な水と、濁りの無い空気が流れる洞窟です。休憩にピッタリでさ。」


「良し。バルトロと他の5人は休め。俺とダイズ、他3名で警戒だ。明け方まで2時間交代で休むぞ。用足しも済ませろ。」


「「「了解」」」


俺も中和剤の副作用で少し怠さを感じる。


ギルドにはテイマー用の中和剤も用意されていて金があまり無いのにネイルが買ってくれたのだ。


それくらいは稼いで返すぜ。


柴犬は借りを作らないのさ。


「クロムヘッドは頭部に特徴的な鉱石を生やし、特殊な材料でしか中和出来ない毒を持つ蛇の魔物だ。生息する場所によって頭部に生やす鉱石が違うが、価値が高ければ高いほど強力で危険な個体になる。」


ネイルが周囲を見渡しながら俺に語りかける。


彼はクロムヘッドの討伐褒賞を軍資金と宣伝にして傭兵団を立ち上げたいらしい。


「傭兵ってのは、つまるところ騎士のなり損ないなのさ。ただ強ければ良い。だが俺ぁそこからが騎士の道だと思ってる。弱ぇ上に道理も通せないバカが金属鎧を着て踏ん反るなんざ許せねぇ。・・・・アイツとはいずれ必ず決闘で決着をつける。」


なんか不器用なんだな、騎士道って。


真っ直ぐ一本通すのが難しいのは日本も異世界も変わらない、ってか?


「ワフッ」「よしよし、食っとけ。」


ジャーキーを噛みつつ番犬の役割を果たした。


仮眠を挟んで迎えた翌日は、どろりとした暗雲が立ち込める陰気な朝となった。


「行くぞ。行動については無声指揮で指示を出す。ここからでも奴の気配を感じるからな。見つけたり、見つけられたら派手にやるぞ。」


柴犬はいつでも闘う準備は出来ている。


確かに大型の魔物がにじり寄っているのは微かな『変な臭い』で感じていた。


強力な気配も同時に感じている。


(バルトロ!右へ行って警戒しろ!)

(俺は左を担う!お前たちは3歩間隔を崩すな!)

(ダイズは最後尾を警戒!見つけたら吼えろ!)


次々とネイルがハンドサインで指示を出して団員達は警戒しながら進む。


岩陰や妙な盛り上がりが無いか確認しながら進む。


「!」


巨大なトカゲの様な魔物の死体が残置されていた。


(まだ死にたてだ。奴が周囲に居るかもしれんな。)


ドレイクのすぐ傍らの何も無いはずの地面から強い臭いがする。


俺はまだ発見に至っていないが危険な殺意を感じ取った。


「ワォーン!!ワンワンワン!!」


誘い出してやる!!


俺はネイルの側を駆け抜けると全力で怪しい地面を踏ん付けて飛び退いた。


「ギシュエェェェェ!!!!!」


砂場からザバッと怒りの声を上げて赤黒い鱗を持つ大蛇が現れた。


馬車なんか丸呑みに出来そうだけど。


頭部にはさっきの完璧な擬態が嘘の様に鉱石ギラギラと輝いていた。


「良いぞダイズ!シャラァッ!!!」


ネイルの剣は鱗に弾かれたが、クロムヘッドは強烈な打撃を明らかに嫌がっていた。


他の団員の剣も閃くが、うねって暴れる蛇の巨体に弾かれる。


「ちぃぃ!!」「久々にデケェな!」「尾先を斬れ!」


「息を整えろ!!『(アクタ)』!!」


「「『(アクタ)』!!!」」


団員達の一糸乱れぬ連携の取れた回転剣舞がクロムヘッドを打ち据える。


「シュルルルル・・・・」


牽制されたクロムヘッドはその場から逃れようとするがそこにはネイルが待ち構えていた。


「『(ソル)』!!」


クロムヘッドがネイルの剣を警戒し過ぎ、目線が剣先に吸い込まれ、柔らかい下腹部を曝け出し、そこを一瞬で袈裟懸けに大きく切り付けられた。


ネイルはこれを狙ってやっているから驚きである。


「ギシャアアアアア!!??」


「ワンワン!!グルルゥ!!」


待ってましたぁ!!


お前の心臓目当てだぜ!!


蛇の心臓は胴体中心の少し首側にある。


食い千切ると血の味が染み渡る。


暴れるクロムヘッドにしがみつきながらも、食い破るのはやめない。


「ガリッ!あ、来た来た!」


新たな力が俺に流れ込んできた。


クロムヘッドは魔石を砕かれると眼から光を失い、パタリと倒れた。


団員達は歓声をあげ、無事に討伐を成功させたのだった。

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